士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

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第二十七章「クラン戦」(6)

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「これより、クラン『暁の明星』とクラン『水晶の龍』によるクラン戦を開催します。『水晶の龍』陣営の参加者は、準備ができましたら召喚陣の中に入ってください」

 ジェルディク帝国の首都リヒタルゼンにある7つのクラン城の中央にある、クランホールと呼ばれる大きな講堂で待機していると、クラン戦実行委員を名乗る女性士官からそう指示された。
 講堂の中心に大きな魔法陣が置かれていて、そこに入ると召喚体が相手クランの領内に転送される仕組みらしい。

「いよいよだね……」

 僕の肩をぽん、と軽く叩いて、おかっぱ頭のエタンが言った。
 後ろには彼が率いる重装騎兵アーマーナイト隊と、トーマスが控えている。

「あれ、トーマス、太った?」
「ふ、太ってないよ! 元から太ってるんだよ!」
「そ、そうだっけ」

 若獅子祭の時より恰幅が良くなったような気がするけど……。
 気のせいかな。

「今日は来てくれてありがと。よろしくね!」
「うん、頑張るよ!」

 トーマスが親指を立てて笑った。

「ギルサナスは来てない?」
「うん、たくさんいるから見落としているかもしれないけど……」
「そっか」

 エタンの返答に、僕はうなずいた。

 リョーマの姿も見えない。
 来てくれるか半々だったけど、どうやらアテが外れたらしい。
 
「クラン戦の開催中だったらいつでも参戦できるから、今いなくても、もしかしたら途中参加してくれるかもしれないよ」
「ああ、そうだね」

 エタンのフォローに、僕は微笑んだ。

「聖天馬騎士団は少し遅れてくるそうだ。それと、姉上たちが来たぞ」

 ヴェンツェルが言った。
 ヴェンツェルの後ろに、ジルヴィア先生、アーデルハイド、オールバックくんの魔法学院チームがやってきていた。

「ベルちゃーん! やっほー!」
「ジルヴィア姉さん、お忙しいのにありがと」
「「「「べ、ベルちゃん……? 姉さん……?」」」」

 ジルヴィアさんと僕の関係を知らない女性陣から警戒心MAXの視線が向けられる。

「こちらは、ヴェンツェルのお姉さんのジルヴィア先生。魔法学院の先生だよ」
「はじめましてー、の姉のジルヴィアです! みんなよろしくね!」

 よくわからない角度からフックを入れられたように、女性陣がよろめいた。
 なぜかキムまでよろめいた。

「ベルちゃんの姉……、これは、どう解釈すべきなのかしら……」

 ミスティ先輩がつぶやいた。

「ヴェンツェルくんが嫁だから、義理のお姉さんってこと?」
「よ、嫁……。お、お姉さん公認……」

 アリサの言葉に、なぜかメルが顔を紅くする。

「皆さん、油断してはいけません。ミスティ様よりも年増ポジショ……ごはぁっ!!」

 テレサがミスティ先輩とジルヴィアさんに、左右のボディに今度は本物のフックを入れられていた。
 
「ヴェンツェルのお姉さん、マジかよ……、すげぇ美人じゃん……、マジかよ……」

 キムがつぶやいている。
 そういえば、キムは年上の大人のお姉さんが好きなんだった。

「ずいぶん騒がしいお仲間ですのね……」

 アーデルハイドが呆れたように言った。

「で、こっちのツンツンした金髪ツインテールのお嬢様が、アーデルハイド・フォン・アーレルスマイアー。『大魔導師家』アーレルスマイアー家のご息女にして……えっと、なんかわーっていっぱい魔法陣だして、わーって魔法を撃つのがすごい人だ。みんなよろしくね」
「……今、途中から紹介するのが面倒になりましたわね……? まぁいいですわ。アーデルハイドと申します。皆様、どうかお見知りおきを」

 アーデルハイドがそう言って、きらびやかな魔法衣の裾を軽く持ち上げて会釈した。
 おお、お嬢様っぽい。

「で、こっちがオールバックくん。こっちもバルテレミー伯爵家のご子息で、『バルテレミーの盾』っていう、なんか属性がこう、ぺろっと……」
「ぺろっと……」
「ぜんぜんわからん……」

 ルッ君とキムがつぶやいた。

「コホン。オルバック・フォン・バルテレミーだ。ベルゲングリューン伯は私にとって、命の恩人だ。もっとも、ふふ。その時命を落としかけたのも彼の魔法が原因だったのだが……」
「ちょ、ちょっと待って、ごめん、ちょっと待って」

 彼が事前に考えてきたのであろう自己紹介の挨拶を、僕は思わず止めてしまった。

「名前……マジなの? オ、オルバックって……」
「……だから教えたくなかったのだ。家名の名乗りなので致し方なく……」
「い、いや……、その名前で……、なんでその髪型にしたの……」

 銀縁眼鏡にオールバック、黒革手袋の高級官僚おじさんみたいな風貌の彼を、僕は改めて見返した。

「ま、まぁ、これからもよろしくね。オルバック」
「……なんかもう、普通に名前を呼ばれたほうがいじられている感じがするから、オールバックくんにしてくれ」
「わ、わかった」

 彼は彼で謎な男だ。
 名家の貴族然としてはいるが、誰とも分け隔てなく接するし、人柄もいい。
 オールバックじゃないと死ぬ呪いでもかけられているのだろうか……。

「ベルゲングリューン伯」
「ひっ……、な、なんですのっ」

 その時、背後から黒フードの人物が現れて、アーデルハイドが小さく悲鳴をあげた。
 黒フードの人物は鉄の仮面を付けており、その顔どころか、仮面越しのくぐもった声からは性別すら窺い知ることはできない。

「どうだった、鉄仮面卿」
「て、鉄仮面卿?!」
「……策は成功です。『月光の魔術師団』のリーダーが城を訪れ、『暁の明星』のリーダーの顔面をいきなり殴って大騒ぎとなり、事情も告げずに同盟破棄。同じく同盟クラン、『弓手愛好会』は辞退を通達。その他、複数の傭兵団が約束の時間に現れず、暁の明星の連中は苛立ちを隠せない様子」
「ふっふっふ、そうか」
「ふっふっふ、はい……」
「……なんですの、この二人。完全に悪者にしか見えないのですけれど……」

 僕と鉄仮面卿こと、変装した新聞記者のメアリーが密談している様子を見て、アーデルハイドが近くにいたヴェンツェルに話しかけた。

「え、ええと……。なんというか、ベル直属の諜報員ちょうほういんだ」
「ちょ、諜報員……。そんなものまで持って……」

 イグニア新聞の記者がおおっぴらに情報をリークしているとマズイので、変装してきてとはお願いしたんだけど、まさかノリノリでこんな格好をしてくるとは僕も思わなかった。
 逆に目立つと思うんだけど……。

「ねぇ、ヴェンツェル……」

 僕はヴェンツェルを手招きした。

「どうした、ベル?」

 ヴェンツェルがとことこと近づいてきた。

「後ろを振り向かないでね。……あれ、誰」

 さっきから気づかないようにしていたんだけど、ウチの陣営にヘンなのが混じっている。
 全身を甲冑で身を包んだ騎士……、というにはものすごく小さい。
 でも甲冑の仕上げは見事で、白銀に輝くそれは見たこともない魔法金属でできているようだ。
 また、マントも豪華で、黄金と真紅の組合わさったそれは、まるで王者の風格を……。

(ん、待てよ、王者……)

「ま、まさか、ユリーむぐぐぐぐっ!!」

 僕の口を、ヴェンツェルが慌てて両手で押さえた。

「相変わらず仲がいいわねぇ……お姉ちゃん眼福だわ……」
「やっぱりお姉さん公認……」

 ジルヴィア先生の言葉に、メルがぼそっとつぶやいた。

「メルちゃんだったかしら? ヴェンが付けているあのチョーカー、すっごくかわいいんだけど、どうしたの?」
「あれは、ベルからのプレゼントです」
「まぁ!まぁまぁまぁ!」

 ジルヴィア先生とメルが何か話し込んでいるけど、今はそれどころじゃなかった。

「ば、ばかっ、その名を口にしたらマズいだろ……」
「……気づいてたの?」
「もしかして……とは思っていた」

 ちっちゃい騎士が、ガシャン、ガシャンと音を立てながら、僕の視界に入るようにウロウロしている。
 あまりにも異様だからずっと気づかないようにしていたけど……、声を掛けるしか選択肢がない。
 相手が王女殿下とあらば……。

「騎士殿、そこの壮麗な騎士殿!」

 僕に声を掛けられると、ちっちゃい騎士はわざとらしく周りを見て、自分が呼ばれたことに気づいたフリをしてからこちらに近づいてきた。

「コホン、ベルゲングリューン伯よ。私は東国の騎士ユリ……」
「ユリ?」
「ユ、ユリシールだ。ゆえあってそなたに協力することにした。よろしく頼む」
「ははーっ、じゃなかった」
「ん?」

 思わず臣下の礼をするところだった。

「ははーはっは! それは心強い限り。こちらこそよろしく頼みます。ユリシール殿」
「うむ、任せておくがよい!」

 ちっちゃい騎士がどん、と自分の胸甲キュイラスを叩いた。

「……ところで、ユリシール殿はどうやって戦われるのですか?」
「うむ、剣と魔法だ」
「手で殴った方が強いんじゃ……むぐぐっ」

 僕の口をヴェンツェルが必死に押さえた。
 その後、ユリシール殿はひとしきりお話になられた後、甲冑が暑いと仰せになってどこかにお行きになられた。

「ふぅ……、クラン戦が始まる前から三試合分ぐらい疲れた……」
「ね、ねぇ……。ベルゲングリューン伯……」

 後ろからアーデルハイドに声を掛けられた。
 ま、まずい……。

「さ、さっきの方の声……、王宮で幾度か耳にしたことがあるのですけれど……、も、もしかして……」
「ぼ、僕は何も言わないから、何も聞かないで……」
「……あ、ありえないでしょう?! ヴァイリスの至ほ……むぐぐっ!」

 今度は僕が慌ててアーデルハイドの口を押さえた。

「テレーゼ、どうしたの? アーデルハイドのことをじっと見て」
「ミヤザワ様、私は見極めているんです」
「見極める?」
「あの方が、お兄様を妻の座を狙う新たな刺客なのかどうかを……」
「し、刺客って……」

 その時、クランホールの入り口からザッ、ザッ、と軍隊の行進のような足音が響いた。

「お、来た来た!」
「……今度はなんですの……?」

 怪訝そうに入り口を見るアーデルハイドの目に飛び込んできたのは、武装したリザーディアンの兵団だった。
 槍兵、弓兵の二部隊が一糸乱れぬ隊列で行進して、僕たちの前にやってきた。

「全体、止まれっ!!」

 長老の側近が叫ぶと、ザッ、ザッと靴音を鳴らして、リザーディアンの隊列がピタリと止まった。
 相変わらず、ものすごく統制が取れている。

「龍帝陛下に敬礼!!」
「りゅ、りゅうてい……? へいか……? っ、貴方、その魔法情報票インフォメーション……」
「……話すとものすごく長くなるし、話してもたぶん何言ってるかわかんないと思うから、とりあえず深く気にしないでくれる?」
「わ、わかりましたわ……。そうしないと、頭がおかしくなってしまいそう……」

 アーデルハイドがよろよろしながら、ぽかーんと口を開けてリザーディアン軍団を眺めているジルヴィア先生とオールバック君の方に戻っていった。

「……なんか、人数増えてない?」
「はっ! 南の集落の連中も招集いたしました! その他の地方の連中は間に合いませんでしたので……」

 その他の地方もあるのか……。

「ガハハ!! なんだこれ、すげぇメンツじゃねぇか!!」
「あれっ、ガンツさん?! 他の人たちも……!」

 冒険者ギルド常連のガンツさんたち、荒くれの冒険者集団がニヤニヤしながらやってきた。

「よう! 派手にやってるって聞いたから、遊びに来てやったぞ!」
「来てやったぞって……。参戦してくれるんですか?」
「オレたちはおめぇに色々世話になったからな。…でも、勝ったらお前のおごりだぜ?」
「それは構わないけど……、奥さんは平気なの?」
「そう、それよ! おめぇがしばらくヴァイリスにいなかったから言いそびれてたんだが、こないだ無事に生まれてな」
「おお、おめでとうございます! 名前、まつおさんにしてもいいですよ」
「い、いや、それはやめとくわ……」

 ガンツさんがそう言うと、他の冒険者連中がどっと笑った。

「よし、それじゃ……、トーマス! ちょっとこっち来れる?」
「うん、どうしたの?」

 僕は駆け寄って来たトーマスの後ろに回って、肩をがっしり掴みながら、ガンツさんたちに言った。

「クラン戦に勝ったら、トーマスんとこのお店の肉を全部買い占めるから!! 奪い取った城の前でバーベキューやりたい人は、全力で頼みます!!」
「え、え、ええええっ!?」

 冒険者たちから歓声が上がった。

「ど、どうしよう、とーちゃんに伝えとかないと……!!」

 トーマスが慌ててどこかに走っていった。

 そんな風に、個性的な面々ばかりだったので、クランホールの会場にいる誰もが気づかなかった。
 参加者の中に、ヴァイリス士官学校の教師が混じっていることに。

 メッコリン先生こと、メックリンガー先生が地味なフードを身にまとって、誰にも気づかれずに三角座りをしているのに僕が気づいたのは、みんなが召喚陣に入った後だった。
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