士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

文字の大きさ
116 / 199

第二十七章「クラン戦」(7)

しおりを挟む


「すごい。花京院の絵のまんまだ……」

 いじけていたメッコリン先生を必死になだめすかして一緒に転送魔法陣に乗った僕は、転送先の光景に思わずそうつぶやいた。

 右奥の高台にそびえる大きな城。
 その周囲を固める大勢の冒険者たち。
 高台に繋がる唯一のルートにはいたる所に用水路が張り巡らされていて、細い通路が東方王国セリカから伝わったくじ引き「あみだくじ」のように入り組んでいた。
 その要所要所も冒険者たちが封鎖していて、手前と中央部にガーディアンが配置されている。
 ガーディアンは若獅子祭の時ほどの大きさではなかったけど、それでも僕たちの3倍ぐらいは背が高い。

「どう思います? メッコリン先生」
「どう思うって……絶対勝てないんじゃないか?」

 身も蓋もないことを先生が言った。

「どうして教師って頭が薄……、頭が硬いんですかね」
「……これ、どうやって帰れるんだ?」
「冗談です、冗談ですってば」

 そそくさとクランホールに帰ろうとするメッコリン先生を僕は慌てて引き止めた。

「実際、そんなに薄くないじゃないですか。気にしすぎですよ」
「薄くなってからではもう手遅れなんだよ! 今のうちに手を打たなければ……」

 その性格が一番毛根にダメージを与えている気がするけど、黙っておくことにした。

「にしても、ちょっと敵軍の数が多すぎないか?」

 メッコリン先生が言った。
 メッコリン先生の言う通り、高台の下にいる冒険者軍団だけでも、こちらの兵力のざっと三倍はいる。
 若獅子祭の時の精鋭軍は同じ装備で統一していたけど、冒険者軍団はそれぞれがそれぞれの装備で個性を出しているので、ものすごくカラフルだ。
 そのそれぞれがそれぞれの得意とするスキルや魔法、武器を使ってくるのだから、戦況の予測を立てるのが非常に難しい。

「ヴェンツェルから聞いたんだが、お前はあの手この手を使って敵軍の数を減らしたんだろ? それでもこの数なのか?」
「ええ。3分の1ぐらいは減らしたんですけど。さすが大手クランってところですかね」
「さ、3分の1って、何をどうやったらそんなに減らせるんだ……。偽ラブレターのエグい作戦はヴェンツェルに教えてもらってドン引きしたが……」
「そうですね、たとえば同盟ギルドの『弓手愛好会』はリーダーがケチで、分け前でよくモメてたらしく、仲の良いクランの連中にそのことをよく愚痴ってたらしいんですよ」
「ほう」
「そこで、その仲の良いクランの連中に、『『弓手愛好会』のリーダーは最近、気前の良いベルゲングリューン伯と懇意こんいにしていて、クラン戦直前で暁の明星を裏切るつもりらしい』という噂を流しまして……」
「……」
「その一方で、『弓手愛好会』のクランのアジトに、僕からリーダー宛に、トーマスん家の肉屋の特製詰め合わせギフトとか、あれこれ送り付けてみたら、なぜか今日、急に参加を見合わせちゃったみたいで」
「性格悪っ!! 悪っ!!」
「何言ってるんですか、敵に塩を送るってやつですよ」
「ぜ、全然意味が違うわ!」
「もちろん食べ物に毒なんて入れてませんよ? ……ふふ、『疑惑』という名の猛毒以外はね……」
「『先生も共犯ですよ』みたいな顔で笑うなよ……」

 そんなことを話していると、前線付近で言い争う声が聞こえた。

「ええい、離せっ! 一番槍は殿の直属部隊であるワシらのもんじゃ言うちょろうが!」
「これは聞き捨てならんな、眷属として認められた我らリザーディアン族こそが、龍帝陛下の直属と呼ぶにふさわしい!」
「お前らいい加減にしろよ! オレはまつおさんから先鋒を頼まれてんだよ!」

 ソリマチさんとこの木こり、漁師の荒っぽい連中とリザーディアン槍兵の一部を率いる長老の側近、ルッ君が言い争っていた。

「おい、見ろよ。あいつら、始まる前からモメてやがるぜ……」
「リザーディアンがいるのにはぶったまげたけど、所詮は新造クランの寄せ集め。一枚岩じゃないってことだろうな」

 風に乗って、敵陣営の冒険者たちの声が聞こえてくる。

「あ、貴方、何をぼーっと突っ立っていらっしゃるの?! 彼らを放っておいていいんですの!? 貴方が指揮官なのでしょう?」

 アーデルハイドがこちらに寄ってきて抗議した。

「まぁ、見てて。ここからが一番の見どころなんだから」
「見どころって……」

 僕が必死に笑いをこらえながら彼らを眺めているのを見て、アーデルハイドが怪訝そうな顔をする。

「ええーい! こうなったら、どちらが殿の一番槍にふさわしいか、勝負じゃぁ!!」
「望むところだ。今後は、より兵を倒した方の下に付く。ルクス殿もそれでいいな?」
「そんなことはどっちでもいいんだよ! オレはもう行くぞ!!」
「なっ!? 小僧! 抜け駆けは許さん!! 総員突撃ィィィ!!!」
「行くぞ者共!! 殿の晴れ舞台に錦を飾るんじゃぁぁぁぁぁ!!!」

 呆然とやり取りを見守る味方陣営をよそに、ルッ君と木こりと漁師の軍団、リザーディアン軍団が雄叫びを上げて突撃する。

 水路によって枝分かれする道の中央を塞ぐのは、巨大なガーディアン。

「お、おいおい、マジで突撃してきたぞ?」
「どうする?」
「放っておけ。ガーディアン相手にあの人数で何ができる」

 斧と槍、あとなぜか金網を持った軍団とルッ君がガーディアンに向かって肉薄する。
 鋼鉄の巨人が侵入者を察知し、ゴゴゴ、と上体を起こして、拳を振り上げた。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 斧と槍、ルッ君の短剣がガーディアンの身体に当たろうとするその瞬間。
 ブンッ!!!!!!
 ガーディアンの腕がすくい上げるように薙ぎ払われる。

「うわあああああああああああっ!!!!!」

 ガーディアンの腕の一撃で、ルッ君や木こり、漁師、リザーディアンたちはひとり残らず吹き飛ばされ、用水路の中にボトボトと落ちていった。

「なっ?!」
「ぷっ……、あっはっはっはっは!!!」

 僕はとうとう笑いがこらえきれなくなってしまった。
 不機嫌なアリサが、クラン戦への協力を拒否し、ソリマチ隊長たちと行って来いと言った時に僕が想像した光景……。
 そう、これはまさに、あの時に想像したことの再現なのだった。

「あ、あなた正気ですの?! それでなくとも敵より兵数がはるかに劣っているのに、あなたの仲間と二部隊が、開戦早々に一瞬で壊滅したんですのよ?!」

 アーデルハイドが僕に掴みかからんばかりの勢いで言ってくる。
 その瞬間。

「見えたわ」

 ズダァァァァァァァァァァァン!!!!

「っ!?」
 
 鼓膜をつんざくような轟音と共に、一筋の青白い光線がガーディアンに向かって放たれて……。
 ガーディアンの単眼モノアイの奥にあるコアを粉砕した。

「なっ?! ガ、ガーディアンが……一撃で倒されただと……っ!?」
「い、今のは何だ?! 魔法か!?」

 今まで余裕綽々しゃくしゃくだった冒険者達が動揺の色を見せる。
 螺旋銃ライフルを下ろしたアリサにウィンクしてから、僕は右手を悠然と振り上げ、一気に前に突き出した。

突撃アングリフ!!!」

 ルドルフ将軍の真似をしたのがわかったのか、ゾフィアがフッ、とこちらに笑いかけた。
 
「よっしゃー、やったるぞー!!!」
「ウフフ、まつおちゃんってば、いっつも最高の舞台ステージを用意してくれるんだから!」

 花京院とジョセフィーヌが斧を振り回して、動揺する敵陣を切り開いていく。

「ハッ!! 鬼鹿毛おにかげ!! 行けっ! 雑兵どもを蹴散らすぞ!!」
「マレンゴッ!! 行くわよ!!」
白鵠はっこく! 殿にそなたの勇姿をお見せする時が来たぞ!!」

(みんな、自分の馬に名前を付けたのか……)

 まともに武器も構えていなかった冒険者たちが次々となぎ倒される中を、ジルベールとゾフィア、メルの三騎が突撃し、狭い通路をものともせずに防衛戦を突き崩していく。

 その後に続くように、リザーディアンの槍兵部隊やガンツさんたち冒険者軍団、若獅子祭以降、練度が目に見えて上がってきたソリマチさんとこの若い連中が進軍する。

「あ、ユリーシャ……じゃなくてユリシール殿まで……」

 ユリシール殿も後に続こうとしたが、鎧が重いのか、ガシャ……、ガシャ……、と重装騎士アーマーナイトでもここまで遅くはないんじゃないかというような進軍速度で移動するので周りからどんどん取り残されてしまい、途中で歩くのを諦めて、その場で火球魔法ファイアーボールを無詠唱でばんばん打ち始めた。
 ……それはそれでかなり強い。

「ユリシール殿、完全な固定砲台になっとる……」

 動かないユリシール殿に無数の矢が飛んでくるが、完全防護された甲冑に当たってもキン、キン、と音を立てるばかりでまったくダメージを受けることなく、飛んできた魔法もマントが無効化している。
 ハッキリいってむちゃくちゃだ。

「ハッ! フンッ、まだまだッ!!!」
「おおー、やっぱユキはすごいなぁ。混戦になるとめちゃくちゃ強い」

 冒険者の剣を右手でさばいてギリギリで受け流した瞬間、冒険者の手首から鮮血が噴き出した。
 右手に握るカランビットナイフの外向きに湾曲した刃が、ただの防御行動を攻防一体のカウンター攻撃にまで昇華させている。
 手首から出血しているだけで、人間の戦闘能力は一気に低下する。
 だからユキはあえて負傷した相手にトドメを刺すことなく次々と負傷させていき、後続の兵たちに仕留めさせている。
 ……実にうまいやり方だ。 

「後輩たちばかりに、いい所を取られるわけにはいかないわ!」

 ミスティ先輩が水路を隔てた向こう側からユキを狙っていた弓兵の首を天雷の斧ザウエルの投擲でね、斬りかかってきた冒険者の剣を盾によるパリィで弾き返し、盾に仕込んだ短剣で素早く頸動脈を切断し、戻ってくる斧を、華麗な足運びで微妙に軌道修正し、警戒して盾を固めていたもう一人の冒険者の後頭部に命中させる。

(はは、相変わらずめちゃんこ強いな、ミスティ先輩は)

 敵陣営で獅子奮迅の活躍をするミスティ先輩を見て、暁の明星のメンバー達は今どんな顔をしているんだろう。
 僕はちょっぴり、そんな意地悪なことを考えていた。

「こういう作戦でしたのね……」

 破竹の勢いで進軍していく味方陣営を見て、アーデルハイドがつぶやいた。

「でも、わたくしは貴方を将器として認めませんわ……。たとえ召喚体であったとしても、味方を捨て駒として扱って戦局を打開するなど、恥ずべき行為。ましてや、貴方はそれを笑って見ていた。見損ないましたわよ……」
「そういう風に、不満に思うことやガッカリしたこと、幻滅したことをハッキリ言ってくれるとこ、僕はけっこう好きだよ。アーデルハイド」
「からかうのはよして。わたくしは真面目な話を……」
「僕も真面目だよ。……いいかい、用水路に落ちたら、死体はどうなる?」
「どうって……、浮かび上がって……あっ……」

 そこまで言って、アーデルハイドはハッと僕の顔を見上げた。

「……用水路に浮かんでるのは敵の死体だけだと思わないかい?」
「まさか……本当の狙いはガーディアンではなく……」
「ううん、ガーディアンも大事。ただ、より大事なのは、ルッ君も漁師もリザーディアン達も泳ぎの達人だってことさ。特にのね。木こりさんは彼らに運んでもらってる。用水路を潜って、一足先に敵の本陣に向かうために、ね」

 僕の言葉にアーデルハイドは細いあごに手を添えて考える仕草をして、またハッとしたように顔を上げた。

「ま、まさか貴方……、あの三部隊のいさかいすら仕組んでいたんですの……?」
「ぷっ……、みんながあそこまでの名演技をするとは思わなかったけどね……。その通りだよ。みんなやられたフリをして水路に落ちたんだ」
「……貴方……生まれる時代を間違えたんじゃなくって……。300年前に生まれていたら……」
「お、おい、すごいじゃないか!」

 メッコリン先生が駆け寄ってきて、さっきまでと打って変わったハイテンションで僕の肩を叩いた。

「メッコリン先生、もうすぐ出番が来ますから、そろそろスタンバイお願いしますね」
「それは構わないが……、これだけの優勢で、本当に出番が来るのか?」
「いえ、部隊は間もなく撤退させますから」
「撤退? 完全に攻め勝っているじゃないか」

 メッコリン先生が興奮した様子で僕に言った。
 ありがたい存在だ。
 こういう人が側にいてくれるだけで、僕は冷静になれる。

「先生は優勢って言ったけど、まだ戦局は10対1が9対1になったぐらいで、我々の不利に変わりないんだよね。前線にいたのは格下の連中ばかり。引き時を見誤ると、悲惨なことになります」

 僕はそう言って、高台の方を指差した。
 後方に控えた熟練の冒険者たちが、冷静に戦況を見守っているのが見える。
 各クランや傭兵のリーダーたちが何か指示を出すと、隊列や編成がすばやく切り替わっている。
 その様子を見るだけでわかる。
 その数も質も、前線部隊の比ではない。

「お前……、それだけのことがわかるのに、なんで俺の授業の成績はあんなに悲惨なんだ……」
「戦闘中に萎えるようなこと言わないでくださいよ」
「萎えるのは俺の方だ! 俺の指導法が間違っていたのかと思うと悲しくなってくるよ」
「わかりましたから! 次からはまじめに授業受けますから!」

 浮き沈みの激しいメッコリン先生をそのままにして、僕は広域魔法伝達テレパシーで全体に指示を出した。

『全軍、後退!! そろそろ敵の本軍が攻めてくる。3分の1地点まで後退するよ! ギュンターさん、どこにいる?』
『あなたの右後方に控えています。ベルゲングリューン伯。樽の準備もできています』
『そろそろ準備をしておいてください。くれぐれも扱いに気をつけて』
『かしこまりました』
『おっつぁん、そろそろ例のブツを出すよ! 前線部隊が後退し終わったら、あれの出番』
「皆、聞こえちょったな?! ちゃっちゃと準備すっぞー!」

 ソリマチ隊長の声に、呼応する雄叫びが続いた。

『キムとエタン、重装騎士アーマーナイト部隊は時期が来たらおっつぁんたちの援護を頼む!』

 僕がそういい終えた瞬間。
 エレインの叫び声が聞こえた。

「イヴァ! 大魔法、来る! 三発! 目標、イヴァのあたり!」

 言われて自分の足元を見てみると、範囲魔法の特徴である魔法陣がうっすらと浮かび上がっている。

「魔導師二人、弓で倒した。でも、三人、阻止間に合わない」

 エレインは僕らの陣営で圧倒的に「眼」がいい。
 超遠距離から狙いをつけて、大魔法を詠唱しようとする魔導師ウィザードを仕留めてくれたのだが、長弓は速射が利かないので、残存部隊の大魔法詠唱を事前に教えてくれたのだ。
 ものすごく頼りになる戦力だ。

『撤退部隊、一時停止!! 僕の半径10メートル以内にいる人は僕の近くに集まって!! それ以外の人は逆に僕から離れて戦線を維持!! 大魔法が三発来る!!』

 僕はアーデルハイドの後ろに立っている銀縁眼鏡の頼れる男に声を掛けた。

「オールバックくん、頼んだよ」
「フッ、君から頼られるのは実に心地よい。よかろう、『バルテレミーの盾』の真髄を見せてやろう」

 オールバックくんはそう言うと、僕の前方に塞がるようにして立って、杖を振りかざした。

広域魔法防壁エリアバリアッ!!」

 オールバックくんは無詠唱で魔法防壁バリアを作り、それで僕の周囲のみんなを包み込むように囲んだ。

 その刹那、高台の方から大きな発光が起こったかと思うと、僕らの足元から巨大な炎の渦が巻き起こり、竜巻のように広がっていく。

「っ!! 炎嵐魔法ファイアーストームだ!!」

 視覚的にはもう僕たちは死んでいてもおかしくないぐらいの炎を浴びていることになるのだけれど、大魔法はその性質上、実体化するまでにタイムラグがある。
 そのタイムラグはほんの一瞬。
 本来ならわかっていても避けられるような時間ではないのだけれど、オールバックくんにとっては十分な時間だ。

属性変更バリアチェンジ!」

 オールバックくんが指を鳴らした瞬間、魔法防壁バリアからひんやりとした感覚が広がり、炎の渦が実体化することなく、魔法防壁バリアが吸収していく。

「ふふ、君たちに見せていたのはここまでだったな」

 オールバックくんは黒革手袋をはめた右手で銀縁眼鏡をくい、と押し上げると、僕とアーデルハイドを見て、不敵に笑った。
 めちゃくちゃかっこいいけど、めちゃくちゃおっさんくさい。

反射リフレクション!!」

 オールバックくんがそう言って指を鳴らした瞬間。
 高台で魔法詠唱を行っていた魔導師の周囲に火炎の嵐が巻き起こり、阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてきた。

「な、なんだ今のっ……す、すげぇ……!」

 ソリマチ隊長たちの進軍待ちで待機していたキムが叫んだ。

「メッコリン先生、オールバックくんのあれ、できる?」
「できるわけないだろう。先生の得意技は魔法付与エンチャントだからな」
「……なんか地味だなぁ」
「ふん、あとで役に立って、鼻水を垂らして感謝するがいい」
「ま、まさか先生まであの漫画読んでるの?」
「くくっ、よく描けてるじゃないか、『爆笑伯爵ベルゲンくん』」
「学校の禁止図書にしなさいよ! いじめの温床ですよ!」

 そんなことを言っているうちに、雷嵐魔法サンダーストーム氷嵐魔法アイスストームの波状攻撃がやってくる。
 属性耐性のある装備を取り揃えている冒険者たちだらけの敵側陣営と違って、魔法金属の装備を持っている者のほうが少ないこちらの陣営は、本来なら、この波状攻撃だけで壊滅的なダメージを受けるのは確実なはずだった。
 だが、『バルテレミーの盾』はそんな戦局をただ一人で覆す。
 防御に回った時に彼ほど役に立つ人材は、そうそういないだろう。

「感謝しますよ、メッコリン先生」
「ん?」
「魔法学院でいい出会いがたくさんありました」
「……そうか」

 メッコリン先生がふっ、と笑った。
 こういうところは、なんか教師っぽくてかっこいいな。

『ヴェンツェル、前線部隊の撤退の統率を頼む。そちらの指揮は君に任せる』
『了解した。……だが、ベル、気をつけろ』
『ん?』
『厄介なことに召喚魔法師サモナーがいる。属性防御では防げん相手だ。警戒しておいたほうがいい』
『……わかった』

 召喚魔法か……。
 もちろん聞いたことはあるけど、実際に見たことは一度もないな……。
 そんなことを考えていると、僕のことをじっと観察しているリザーディアンがいることに気づいた。

「ん、どうしたの?」
「い、いえ、なんでもないッス!」
(……?)

 なんとなく違和感を感じたけど、今はそれどころじゃないと思い、僕は作戦に集中する。
 ヴァイリス語を話せるリザーディアンは長老の側近だけだということも、水晶の龍の化身である僕を龍帝とあがめる彼らが気安く「なんでもないっス!」なんて言うはずがないということも、その時の僕は考えもしなかったのだった……。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

処理中です...