あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

文字の大きさ
8 / 51
『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-7「緊急搬送」

しおりを挟む
「緊急搬送」
 時間にして二分ほどだろうか、リング上で大の字になり、ドクターに馬乗りになられ人工呼吸と心臓マッサージを受け続ける稀世。相手選手は、セコンドの肩を借り、コーナーで心配そうに治療を受ける稀世をのぞき込んでいる。まりあは、稀世の頭の横で土下座のような体制で、ひたすら稀世の名前を呼び続けている。
「ゴホッ!」
と稀世がせき込み、身体が小さくはねた。どうやら、呼吸は戻ったようだ。
 ドクターはアンビュバックを取り出し、稀世の口に当てがい、ポンピングを続ける。稀世の身体は、再び動かなくなっている。五分ほどで、救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。三朗は、我慢が利かず、観客席とリング下を分ける柵を乗り越え、両手をリング上に伸ばし、頭をロープ下に突っ込みリングサイドから稀世に声をかける。
 三人の救急隊員が、白い担架をもって観客入場口から駆け込んできた。ドクターが救急隊員に
「約七分前、後頭部打撲、心マ、人工呼吸で四分前自発呼吸再開、意識いまだ戻らず、脳震盪状態。おそらく左肩脱臼」
と叫ぶのが三朗の耳に届いた。救急隊員が、まりあに「だれか、付き添いお願いします。」と言っていた。まりあは、三朗と目が合うと同時に、三朗の元に来て
「サブちゃん、ごめん、稀世に付き添って病院へ行ってちょうだい。できれば、私が行きたいところやけど、今日のマッチメイク上、私が行くことはでけへんから。サブちゃんしか頼られへんのよ。終わり次第すぐ、私も行くから、お願い!」
と泣きながら、三朗の両手を握り、懇願した。

 「は、はい。ぼ、僕行きます。な、何かあったら、すぐ連絡します。」
とまりあに応えると、救急隊員から
「もう出ます。急いでください。」
と言われた。ふたりが担架を担ぎ、ひとりがアンビュバックを押し続けている。
「はい、僕が同行します。」
とだけ言い、三朗は、救急隊員の後を駆け足でついていった。
 体育館正面入り口前に、赤い回転灯を点滅させた救急車が停まっていた。運転手が、既に搬入先の病院の手配をしていたようで、稀世をストレッチャーに移し、救急車に乗せると、救急隊員のひとりは助手席に、ふたりは、三朗といっしょに後部ハッチから乗り込み、ストレッチャーの横のベンチシートに座った。救急隊員に促されるように、稀世の右手を両手で握って
「稀世さん、しっかり・・・。頑張って・・・。」
と声をかけ続けた。

 体育館から、線路を挟んで反対側の緊急指定の総合病院まで一分で着いた。救急車用の入り口には、高齢医師とふたりの看護師、映像技師が待機していた。白衣の医師を目にして三朗の心拍数が一気に上昇した。根拠のない不安感が立ち上がり、喉元にすっぱいものが上がってきた。稀世は、いまだ意識を取り戻していない。おろおろする三朗の周りで、てきぱきと救急隊員はストレッチャーを降ろし、担当医師に状況を伝えると、ものの三分で現場を去っていった。
 緊急用の入り口で、ひとり残された三朗に、
「今から、診察、レントゲン撮影、CT撮影、そしておそらくMRIを取ることになります。診察の同意書にサインお願いします。」
と中年の看護師がA4の黒いバインダーとそれに挟まれた同意書とボールペンを突き出した。

 三朗は、稀世の名前と生年月日を患者欄に、同意者の欄に自分のサインをして、三朗の携帯電話の番号を緊急連絡先欄に記入し、看護師に渡した。
「患者さんに何か既往症はありますか?」
「いや、僕の知っている限りでは、たぶんないと思いますが…。現役のプロレスラーですし…。」
「総合体育館での事故と聞いています。検査に今から三十分ほどはかかりますので、健康保険証とか取ってくることはできますか?」
「はい、行ってみます。」
「では、お願いします。お戻りになられましたら、日曜日で正面玄関は閉まっていますので、救急外来用の入り口で守衛の者に声をかけてもらって、総合受付までお越しください。」
と早口でまくしたて、病院内に走っていった。
(えーと、まずは、体育館戻って、まりあさんに報告して、更衣室で稀世さんの保険証探してもらって、まりあさんの携帯聞いて、ここに戻ってくる・・・)で間違いないかな。と三回自問自答して、体育館へ走った。
 
 二分ほどで体育館に着き、関係者用の入り口から大阪ニコニコプロレスの控室に走った。コンコンコンとドアをノックし声をかけた。
「三朗です。入っていいですか?」
ドアは、すぐ開き、まりあが出てきた。
「サブちゃん、ごめんね。稀世どう?意識戻った?どこの病院?」
と三朗の両腕をがっしりと掴み、早口で聞いてきた。
「意識はまだ戻っていません。病院は、線路向かいで歩いても五分かからない救急指定の門真総合病院です。今、レントゲンとCTとか取っているところだと思います。看護師さんから、稀世さんの健康保険証があれば、持ってきてほしいって言われてますので、稀世さんの荷物の確認お願いします。あと、連絡とるのにまりあさんの携帯教えてくれませんか?」
「ちょっと待ってね。ちょっと、夏子!ロッカー行って、稀世の荷物からあの子のリュック取ってきて。健康保険証がいるんだって。たぶん、財布に入ってると思うから。
 そんでサブちゃん、電話出して。私の携帯は、090―××××―□□□□だから、コール一回鳴らして。」

 三朗がコールをかけ、アドレス帳に「まりあさん」と登録した。廊下の奥から、大きな歓声が上がった。研修生の陽菜から、
「まりあさん、セミファイナル終わりました。出番ですよ。」
と声がかかった。稀世と仲良しの中堅レスラーが、稀世のものと思われるリュックを持ってきた。まりあは、リュックを三朗に渡し、言った。
「たぶん、表のポケットに稀世の財布入ってると思うから、見てやって。そんで、ごめんね、サブちゃん。面倒かけるけど、稀世についていてやってんか。私もすぐにでも病院に飛んでいきたいんやけど、ニコニコプロレスを支える立場として、どうしようもない状況やねん。サブちゃん、頼りにさせたってな。」
「まりあさん、時間です!」
と陽菜から声をかけられ、まりあは、何度も三朗を振り返りながら、リングへ向かう廊下を歩いて行った。三朗は、病院に向かおうとしたが、稀世の同僚レスラーから、稀世の状況を聞かれたのでまりあに答えたことと同様に話し、「急ぎ病院に戻らないといけないんで。」とその場を離れた。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...