あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-20「夜明け」

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「夜明け」
 朝刊配達のオートバイが表の道路を走る音が聞こえた。部屋のデジタル時計は、午前三時を示していた。とりとめのない話をお互いに繰り返し、柔らかく温かい時間が流れていった。話は、稀世のデビュー四年目の話に進んでいた。

 稀世はベッドの上で、横に膝座りして、じっと右手を握ってくれている三朗に楽しそうに話し続けていた。
「・・・で、こんな話やってん。めちゃくちゃやろ。」
「そうですね、普通やないと思います。稀世さんらしいといえばらしいですが。」
「あーん、サブちゃんの意地悪!もう、嫌い!そこは、「そんなことないですやん。」ってフォローしてくれるとこやろ。」
 困った顔をして三朗が言い直した。
「すいません。「そこはそんなことないですやん。」」
「って、いまさら遅いわ。まあ、訂正したってことで許すわ。
 さて、ここからが、いよいよメインディッシュの今回の大会のエピソードやねんけどな。だいたい半年前に、まりあさんと社長が交流戦の話を持ってきて、日にちと会場の発表があってんな。開催日は、私の二十五歳の誕生日、場所はここ門真市立総合体育館。テンションアゲアゲやったわ。
 サブちゃんとの出会いの場所であると同時に出会いとデビューのメモリアルデイってことで、大会の概要や、マッチメイクについての説明なんかなんも聞かんと賛成して、まりあさんに怒られてん。」
「そりゃ、大事な交流戦なんやから、もうちょっと真面目に考えなあきませんよね。そこは、まりあさんを支持します。」

 口をとんがらせて稀世は拗ねてみせた。その表情としぐさが三朗にはとてつもなく愛おしく思えた。
「もーっ、そこは、サブちゃんには、私たちのメモリアルデイを支持してほしかったな。まあ、私の意見は別として、まりあさんがしっかりと今後の「大阪ニコニコプロレス」のためには、上位のインディーズとファンを共有していかないと興行の黒字化はできないし、スポンサーの共有は運営に絶対必要だってね。
 みんな、賛成でその試しの大会として、今回の門真大会が決まったんよ。チケットもいつもと比べると、いい感じで売れたし、小口のスポンサーも結構ついてくれて、「あー、元全日経験者のまりあさんのプロデュース力って凄いなぁ」ってみんなで言っててん。」
「そうですね、今の「大阪ニコニコプロレス」はまりあさんあってのものですよね。元ヒールって聞いてましたけど、その実、めちゃめちゃいい人ですよねぇ。二十年以上現役って言うのもすごいけど、プライベートはどんなんなんですか?」
「えーっ、まりあさんに興味あんの?それって「浮気」?」
「い、いや、ちゃいますよ。稀世さんの「上司」で「お母さん代わり」って話ですから、後々、ご挨拶したりあるやろし。って僕、何、先走ってんねやろか。すいません。」

 稀世はその言葉に真っ赤になって、しばらく言葉に詰まった。
「あ、挨拶は、後の問題として、私が知ってる限りでは、旦那さんも元レスラーで、子供さんは高校生の女の子ってとこくらいまで。元全日女子でやってて、大きいケガして、その時に子供できてて二年休んでリハビリで、その間に全日女子が無くなったんやって。その後、大阪ニコニコの立ち上げ時からのメンバーってくらいかな。メンバーみんなの頼れるお母さんであって、憧れの姐さんって感じ。」
「うん、その例えよくわかる。姐御肌ですよね。頼りになるって言う言葉で収まらない、そう、まさに大黒柱って感じのスケール感ですよね。」
「その、大黒柱に、「この大会終わったら、若手の指導担当のサブリーダーになってみいひんか?」って声かけてもろてんやんか。だから、二十五歳、デビュー五年の節目と合わせて、団体の中での新しい立ち位置を創るだけじゃなくて…。」

 突然、景気良かった稀世の声が小さくなり、「もごもご」としか聞こえない。
「創るだけじゃなくて、なんですか?」
「(もごもご)…」
「えっ?何ですか?」
「さ、サブちゃんと出会って丸五年。これも節目と考えて、大会終わったら、サブちゃんに告白しようと思ってたの!」
とぶっきらぼうに稀世は言い切ると下を向いて黙り込んだ。三朗は、数秒の後、黙り込んだ稀世に、改めて聞き直した。
「えっ、なんですか?もう一回お願いします。」
「だから、サブちゃんに告白…。あー、二回も言われへんわ、サブちゃんのあほ―っ!」
「いや、聞こえてましたけど、もう一回聞きたくて。」
と笑顔で答えた。
「サブちゃんのあほ、ばか、まぬけー。女の子にそんなこと何回も言わさんとってよ。めちゃめちゃ恥ずかしいやないの」
「嬉しいです。稀世さんにそない思ってもらえるなんて、考えても無かったんで。」
「でも、でも。」
稀世は、再び、うつむき黙り込んでしまった。(えっ?またなんか地雷踏んでしもたかな?聞き直したんがあかんかったんやろか?)三朗は、なんで黙り込んでしまったのかわからずおろおろした。

 三分の沈黙の後、稀世が小さな声で自問自答するように呟いた。
「みんな、私が悪いねん。身の程、忘れて、勝手に浮かれて「節目」って自分で思って「告白」しようなんて…。中学の時は、自分が自殺未遂。高校の時は、お父さん、お母さんが死んで、今度は、私の余命確定。それも残り半年…。
 せっかくサブちゃんから「好き」って言ってもらえて、「結婚しよう」とまで言ってもらえたのに、私が勝手に「節目」って思ったから今度もまた変なことになってしもた。ごめん、サブちゃん…。ごめんね、サブちゃん…。私が相手じゃダメなのよ。ごめんね。ごめんね…。」
と布団の上に突っ伏して泣き出してしまった。
「稀世さん、僕はええんです。僕はええんです。少し休みましょう。」
「ごめんね。ごめんね。サブちゃん、ほんと、ごめんやで…。」
「僕、朝までついてますから。横になってください。」
「ごめんね。迷惑ばっかりやけど、ひとりやと、真っ暗な闇の中に落ちていくイメージしかなくて、怖いねん。ずっと、横に居ってね。お願いやから…。」
「大丈夫です。ずっと、一緒にいますから。」
と稀世をベットに寝かせ、右手を両手で握ったまま、「ついてますよ、ずっと横についてますから。」と優しく囁いた。
 稀世は、あおむけになり目を閉じたが、眠りに落ちることはなかった。三朗も両ひざ立ちでベッドの横で稀世の右手をしっかりと握り、付き添い続けた。ふたりとも、眠りにつくことなく、窓の外が明るくなってきた。


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