あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-21「朝ごはん」

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「朝ごはん」
 結局、一睡もしないまま、ふたりは朝を迎えた。ピピピピと六時のアラームが鳴った。
「おはようございます。稀世さん、六時になっちゃいましたね。大丈夫ですか?目覚めのお風呂かシャワーするなら、風呂のガスつけてきますけど。どうします。」
「おはよう、サブちゃん、ごめんね。朝までついててくれたんやね。ありがという。座ったままで、しんどかったやろ。一緒に寝ようくらい言わなあかんかったわな。気い利けへん女でごめん。ほんま、ごめんね。」
「なに言うてますの。稀世さんに比べたら、全然僕なんか…。まあ、先にコーヒーでも入れましょか?それとも熱い緑茶の方がええですか?」
「うん、じゃあ、甘えて、お茶で。サブちゃんのお店の湯呑で飲んでみたいわ。で、後で、シャワー使わせてもらってええかな?」
「了解です。すぐ、お茶は入れますね。シャワーは五分もしたら入れますから。じゃあ、一旦、手は放しますね。」
と手を放して、立ち上がろうとすると、昨夜から四時間半、膝座りだったこともあり。痺れで足の感覚が頭と乖離していて、稀世の上に倒れこんだ。
「あっ、すいません。足痺れちゃってて。わざとやないんですよ!ごめんなさい。足伸ばしますんで、少しの間、このままでいさせてください。」
照れて慌てる三郎に、優しく稀世は返した。
「うん、一分でも二分でも、十分でも二十分でもこのままおって。」

 三朗に上に重なられた稀世は、明るくなった部屋の中を改めて見回した。六畳間の和室の壁には、「大阪ニコニコプロレス」の門真大会のポスターが五枚張られていた。稀世のデビュー戦のものから、昨日のものまで、毎年のポスターが張られている。今年のポスターは、セミセミからファイナル迄の3マッチ出場の六人が大写しで、初めて全身が掲載されたポスターだった。ほかにも、稀世の名前の入った、赤いスポーツタオルが四本。これも、毎年、少しずつデザインを変えて売られていたのが去年までのものがすべて揃っていた。
 あと、ちょっと恥ずかしいアイドル風の顔写真の入った去年のうちわもデスクの前の壁に飾られていた。デスクの上には、昨年の大会の時に、いっしょに取ったスナップ写真が2L版に引き伸ばされ、写真立てに入れられて置かれているのが目に入った。(ほんま、デビューからずっとサブちゃん、私の事見ててくれたんやなぁ。ありがとう。)胸の上に覆い重なる三朗の背中を見つめてきゅっと抱きしめた。
 三朗も両手を稀世の首の後ろに回しぎゅっと抱きしめ、耳元で囁いた。
「稀世さん、昨晩の僕の言葉、全部本気ですから。まりあさんとの話が終わらはったら、もう一回、ゆっくり話する時間下さい。」
「うん。今日は、泣かんようにする。がんばる。」

 二分ほどで、三朗の足の痺れがとれ、腕をほどき立ち上がった。先にお茶を入れ、ベッドに持ってくると、「ゆっくり飲んでてください。」と、一階に降りて行った。下の階から、給湯器のスイッチの電子音が聞こえた。
 三朗が上がってきて、「頭痛」、「めまい」が無いことを確認すると、一緒にリビングのテーブルに移った。稀世がお茶を飲み終わると、下の階で電子音が鳴った。
「じゃあ、シャワー使ってください。上がったら、この部屋の奥に、僕の「おかん」が使ってた、鏡台がありますから、メイクはそっちを使ってください。ドライヤーとブラシもありますから。朝ごはんは、ガリおにぎりとカツオのオカカおにぎりでいいですか?」
「何から何までありがとう。朝ごはんは、サブちゃんにお任せするわ。」
 「ブブブブブブ」。三朗の携帯のバイブが鳴った。画面には「まりあさん」とある。携帯を稀世に渡した。
「今、ニコニコのジム着いて、これから私のバッグ取り出して予定通り七時にはこっち来るって。」
「じゃあ、急いで、シャワー浴びてきてください。まりあさん心配させちゃいけないんで、目の下のクマと瞼の腫れは目立たないように。いつも以上の美人になるように上手にメイクして、僕をどきどきさせてくださいね。」
努めて明るく稀世を送り出した。

 稀世がシャワーから出て、二階に上がってくると、三朗は仕事着に着替え、四つの大きなおにぎりとお吸い物のうつわと箸を用意してくれていた。
「目、覚めはりましたか?先に食べます?それとも、メイクしてきはります?」
「うん、寝てないのに、不思議と頭はしゃきっとしたわ。まりあさん来た時に、髪、変に癖ついたら嫌やから、先にドライヤーして、メイクさせてもらうわ。それから、朝ごはんいただくね。」
「じゃあ、ちょっと、下で作業させてもらってますんで、メイク終わらはったら、下に声かけてくださいね。」
「うん、サブちゃん、ありがと。」
 三朗は、店の厨房へ。稀世は、奥の三朗の母親が使っていたという部屋へ移動した。母親の部屋には、小さな仏壇があり、おそらく両親のものであろう遺影と、三朗が学生服を着て、校門前で撮られた三人の家族写真が置かれていた。校門には「入学式」の文字が読み取れたので、おそらく、高校へ入学した時のものだろう。稀世は、仏壇の前に座り、お鈴を鳴らし、手を合わせた。(サブちゃんのお父さん、お母さん。素敵な出会いをありがとうございました。サブちゃんはすごく優しくて、素敵な男性になってはりますよ。好きです。めちゃくちゃ大好きです。でも、私、どうしたらいいんでしょうか?
 お父さん、お母さん、生きてはったら、こんな、死ぬのが決まってる女とサブちゃんが一緒になんの、絶対反対しはりますよね。サブちゃんの心、惑わせてほんまにすいません。必ず、きれいに、身を引きますので、今日一日だけで結構です。サブちゃんの恋人の気分だけ感じさせてやってください。ほんまにすいません。お願いします。)
 仏壇に、頭を下げ、(お母さん、お借りします。)と隣の鏡台に移った。鏡台の前には、三朗が書いたであろう、「おかあさん、ありがとう。」の文字とクレヨンで描かれた赤いカーネーションの絵の画用紙が置かれていた。
 
 メイクを終え、階段の上から、三朗に声をかけると「はーい。」と返事があり、前掛けで手を拭きながら、リビングに上がってきた。開口一番、
「えっ、どちらさんですか?アイドルがうちに居るはずないんやけどなぁ?」
とふざけた。
「サブちゃんのあほ。しょうもないこと朝から言わんとって。」
「すんません、すんません。でも、今日もかわいさ一番ですよ。」
と行って、コンロの上の鍋からお吸い物を入れた。部屋中にいい香りが広がった。ふと、テーブルの上に置いたままの携帯に目をやると、まりあとのメールの更新履歴が数回、残っていたことに気が付いた。三朗が、お吸い物とお茶を配膳してくれたので、メールの事は、後で聞こうと思い、ふたりで向かい合わせに座り、「いただきます」をした。
 ガリのおにぎりもオカカのおにぎりも、稀世の口にすごくあった。お吸い物も、おかわりした。
「サブちゃん、美味しいわ。さすが、プロやなぁ。改めて、感心するわ。」
「僕、いいお嫁さんになれますかねぇ?」
くねっと、しなりを作って三朗がおどけた。稀世は、吹き出して、笑った。
「うん、サブちゃんが女の子やったら、35億の男たちで取り合いになるな、絶対。」
「そりゃ、絶対無いわ。」
三朗も笑った。
 
 ふたりで、朝食をとり終わると同時に、携帯が鳴った。まりあからの着信だった。稀世が取り、すぐ三朗に替わった。もう近くまで来ているとのことで、店から一番近いコインパーキングを説明し、そこから店までの道順を丁寧に説明した。まりあは、何度か向日葵寿司に来たことがあったので、スムーズにパーキングに着き、今から歩いてくるとの事だった。三朗は、下に降り、店の引き戸を開けてまりあを待った。まもなく、まりあが稀世のバッグを肩から掛け、手を振って現れた。
 店の入り口で、まりあは三朗に丁寧に頭を下げ、昨日の詫びを述べた。その丁寧さは、三朗は恐縮してしまうものだった。(昨晩中に、稀世さんのところに来られなかったことをすごく気にしてはんねやろな。稀世さんが言うように、本当にいい人やな。)三朗は、さっき稀世がシャワーをしている間に送ったメールと同様に昨晩の出来事を手短に伝えた。精神的に、浮き沈みがあることと、昨晩は一睡もしていないことを付け加えた。ポッポーと鳩時計が鳴った。


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