あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-36「笹井写真館と稀世からのサプライズプレゼント」

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「笹井写真館と稀世からのサプライズプレゼント」
 木曜日、稀世は電車で、大正のアパートに向かった。夏子と陽菜が大物家具や家電の引っ越しを手伝いに来てくれていて、ニコニコプロレスのハイエースで運んでくれた。まりあと直との三郎のAVのことで賭けをして負けた夏子と陽菜は「ただ働き」ということになっていたが、そういうわけにもいかないので、昼食に上握りをごちそうした。
 一通りの引っ越しが終わり、アパートを解約し、住民票を移そうと考えたが、入籍と二度手間になっても面倒なので、住民票は日曜日の結婚式の後に入籍と合わせて異動手続きをすることにした。今日一日は、これといった大事件は起こらず、日曜日からの波乱の同居生活も一息ついた。
 夜の営業を終わった後、三朗と稀世は、明日の笹井写真館でのドレスの試着の話題で楽しい時間を過ごした。ふたりで、寝室で布団に入ると稀世が三朗に言った。
「明日は、サブちゃんの夢叶えてあげるね。」
「えっ?何?」
「それは、明日のお楽しみ。じゃあ、おやすみなさーい。」
(僕の夢叶えてくれるってなんやろ?)いろいろ考えながら、三朗も眠りに落ちた。
 
 金曜日、ランチタイムが終わると、夏子と陽菜がやってきた。稀世のドレス試着の後、直が口利きした笹井写真館にある衣装限定でふたりで写真を撮るためだった。一昨日、稀世が持ち出して、行方不明になっていたボストンバッグは笹井写真館に置いてあった。笹井が稀世に言った。
「一昨日嫁から預かった稀世ちゃんの荷物クリーニング出して、全部きれいになってるで。新品同様やで。」
三朗には何のことかわからなかった。
 笹井の奥さんの雅子が稀世と夏子と陽菜を衣装室に連れて行った。残された、三朗が笹井に話しかけた。
「結納の時は、いろいろありがとうございました。稀世さんも写真見せてもらうのすごく楽しみにしてましたよ。」
「アルバムにしてもろてるから、今日の夕方には届くはずやから、今日持って帰りや。それにしても今日は、長期戦覚悟しときや。女の衣装決めと写真撮影は半日掛かりやで。あの感覚は、男にはわからんけどなぁ。サブちゃん、店の方はええのか?」
「はい、今日は八時からの貸し切り客だけなんで、七時までに戻れば大丈夫です。まだ二時ですから、それまでには、終わりますよね?」
「わからん。うちの嫁も好き者やからなぁ。どこまでこだわんのか次第やな。あと、稀世ちゃんからのサプライズもあるしな。」
「えっ、サプライズって何ですか?稀世さんに聞いても教えてくれへんのですよ。」
「俺が言うてしもたら、サプライズにならんやろ。稀世ちゃん、「サブちゃんの夢叶えたんねん。」って鼻息荒かったで。」

 (うーん、僕の夢って何のことやろか?)
衣装室の中からは、「きゃーきゃー」、「素敵―!」、「かわいい!」といった黄色い声が漏れ聞こえてくる。とにかく楽しそうだ。

 一時間ほどして、稀世がメイクと着付けを済ませて、雅子に手を取られて出てきた。真っ白なウエディングドレスに、白い長手袋。頭にはキラキラと輝くティアラ。メイクの効果もあって、いつもの稀世を別人に見える。
「き、綺麗や…。」
三朗は固まった。稀世は恥ずかしそうに首をかしげる。夏子と陽菜が後ろから出てきて
「三朗さん、稀世姉さん、すごいきれいやろ。カタログのモデルみたいやろ。あれ、何、固まってんの?」
と三朗を茶化す。笹井がスタジオのライトをつけ、カメラの三脚をセットする。バックを白いレースのカーテンに変更し床に真紅のカーペットを敷き、雅子が稀世を中央に立たせ、ブーケを持たせる。
「あー緊張するわ。サブちゃん、私どう?」
「めちゃめちゃ綺麗ですよ。稀世さん日本一、いやきっと世界一ですわ。改めて惚れてしまいます。」
「あほ、みんないてる前で何、言うてんの。恥ずかしいやんか。」
 稀世が真っ赤になって、もじもじしていると、笹井が声をかけた。
「さあ、四着写真撮るなら、どんどんいかんと時間無くなりますよー。さあ、シングルカット1、テイク1行きますよ。さあ、稀世ちゃん、すました顔からねー。」

 フラッシュがたかれる都度、笹井は雅子とモニターで確認しながら、稀世の立ち位置や角度を微調整していく。表情も「すましてー」、「ほほ笑んで―」、「はにかんで―」、「笑って―」、「伏し目がちに―」、「遠くの方みてー」、「瞼を閉じて、いいこと想像してー」と指示が出る都度、三,四カット写真を撮っていく。小物と変え、グリーンバックやカラーカーテン等背景を変え、十五分で百カットは取っただろう。(今まで知らんかった、稀世さんの表情がどんどん出てくるなぁ。さすが、笹井さん。プロやわ。)三朗は、時がたつのを忘れて、見惚れていた。夏子と陽菜もうっとりして撮影風景を見入っている。
「じゃあ、サブちゃんも入ろうか。」
雅子が三朗をカーペットの上に案内する。緊張していると、雅子が優しく三朗に言った。
「自然でいいのよ。自然で。醇一さんの指示を頭で考えるんじゃなくて体で感じてね。」
「さあカップルカット1,テイク1行きますよー。まずは正面向いてねー。」
続いて、「見つめあって―」、「腕組んで―」、「サブちゃん、稀世ちゃんの頭に手を添えて―」、「指輪はめようかー」とどんどん進んでいく。笹井の指示がいいのか、乗せ方がうまいのか、気分もほぐれ、自然体で写真が取れていく。
「じゃあ、カップルカット1のラストにキスいこか―」
「えっ?ここで?」
「サブちゃん、ファーストキスってことないやろ?照れんとチューいっちゃおうねー。」
「い、いや、まだ二回しかキスしてもろたこと無いから。僕からっていうのは経験ないんで、どうしたらええのか・・・。」
夏子と陽菜が冷やかす。
「あほ、サブちゃん、そんなん言わんでええやんか。もう、あほ、ばか、知らんわ。」
みんな、笑った。
「じゃあ、稀世ちゃん、リードで行こうか―。」
 
 ドレスの着替えを三度繰り返した。カラーのドレスが二着。そして最後に再び真っ白なウエディングドレス。約三時間かかって、稀世のドレス写真が撮り終わった。雅子が稀世に「お疲れ様」とミネラルウォーターを渡した。
「夏子ちゃん、陽菜ちゃん、次行こうか―。」
と笹井が声をかけるとドレスルームから、タキシードを着て、頭をポマードで固め、男装した夏子とウエディングドレスを着た陽菜が出てきた。さっきまでと同じように、ハイテンションで、笹井が、おだて、褒め、持ち上げて、写真を撮りまくる。稀世もふたりに頼まれたのか、ドレスのまま、ふたりのポーズやふたりの撮影風景をスマホで撮っている。
「じゃあ、稀世姉さんも一緒に。」
と夏子が声をかけ、三人での写真撮影となった。今度は、三朗にスマホ写真係が回ってきた。三人とも楽しそうで、キャーキャー言ってはしゃいでる。稀世のこんなに砕けた笑顔を見るのは初めてで、三朗も楽しかった。
 「じゃあ、ここで交代ね。」
と陽菜が言い、夏子とドレスルームに雅子と入っていった。稀世は、三朗の横に来て
「サブちゃんもご苦労様。疲れたでしょ?」
「ううん、めちゃくちゃ、楽しんでるよ。稀世さん、めっちゃ綺麗やし、なっちゃんも陽菜ちゃんもはじけてるの見てるのも面白いわ。」
「今から、なっちゃんと陽菜ちゃん、男役交代するから、もうちょっと付き合ってな。最後には、サブちゃんにご褒美あるしな。」
「えっ?ご褒美って?」
「それは、最後のお楽しみにね。」
と稀世は不思議な笑みを浮かべた。

 今度は、男役になった陽菜とカクテルドレス姿の夏子が出てきた。再び、撮影会が始まった。あっという間に六時を迎えた。
「さあ、サブちゃんの仕事の仕込みもあるから、最後、行っちゃおうか。雅子ちゃーん、稀世ちゃーん準備できてるかなー?」
ふと気が付くと、稀世がいなくなっている。
「はーい、ばっちりよ!」
と雅子の声がする、ドレスルームの方を見ると、稀世がリングコスチュームでスタジオに入ってきた。コスチュームは新品同様にクリーニングされ、真っ白なリングブーツもきれいに磨かれ光っている。(サプライズってまさか!)
「さあ、サブちゃん。「男の夢」の時間やで。」

 スタジオの中央で、三朗は、稀世にコブラツイストを掛けられた。笹井がほほ笑みながら聞いた。
「サブちゃん、気分はどうかなー。」
技を掛けられた状態で、三朗は、
「めちゃくちゃ痛いですけど、最高でーす。」
と満面の笑みで答えた。連続してフラッシュが瞬いた。笹井が笑いながら言った。
「じゃあ、次、「卍固め」行こうかー。」
 「コブラツイスト」、「卍固め」、「首四の字」、「ジャパニーズ・レッグ・ホールド」、「縦四方固め」、「上四方固め」そして最後に「M字ビターン」と三朗の夢の「七種の技」を体験し、それを写真に残すという、「至極の時間」を過ごすことができた。
「あぁ、稀世さん。僕、もう死んでもいいです。いや、もう、魂は天国に行ってしもてますわ。」
とその場にへたり込んだ。稀世が三朗の耳元で囁く。
「あほ、サブちゃん、死んだらあかん。これから仕事やで。」
夏子と陽菜が大声で笑い、言った。
「私らは、結婚するにしてもM男と変態だけは絶対避けよな。三朗さん、白目向いてずっと笑ってたな。やっぱり筋金入りの変態やったんや。」
笹井と雅子も大笑いした。
 約四時間半続いた撮影会は、無事に終わり、笹井が
「今日の写真のCDでーす。あと、これが、この間の結納の時の写真。アルバムにしといたからねー。」
と稀世に紙袋を渡してくれた。夏子と陽菜にもCDを渡して、お開きになった。
 向日葵寿司迄の帰り道、三朗と稀世は腕を組み歩いた。夏子と陽菜は今日とったスマホの写真を見ながら、後を歩いている。
「サブちゃん、お疲れ様。この後の、お仕事大丈夫?」
「うん、大丈夫。ほんとに楽しかった。撮影っていいもんですね。稀世さんと今日だけで百回もキスしたし、なんちゅうても、夢の七種の技…。忘れられへん日になりました。また明日も、技かけてくださいね。」
「あほ、しょっちゅうやってたら、サプライズでもご褒美でもないやんか。うーん、でも、たまにやったら、ええかな?」




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