あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-37「波乱の結婚式」

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「波乱の結婚式」
 9月10日秋晴れの日曜日。朝六時に三郎は、自然と目を覚ました。隣では稀世がまだ眠っている。昨日遅くまで、ニコニコプロレスの仲間と電話をしていたので、もう少し寝かせておいてあげることにした。
 三朗は、仏壇に線香を立て、両親の遺影に手を合わせた。(親父、おかん、ついに、稀世さんとの結婚式の日が来たで。あっという間の一週間やったわ。まわりのみんなの支え無しには、この日を迎えることはでけへんかったと思う。稀世さん、あと半年の命かもしれへんけど、これから、親父とおかんみたいに笑顔が絶えへん家庭を作っていこうと思ってるんで、見守っててな。)
 
 人前結婚式と披露宴は、午後一時から四時の予定で、稀世は、メイクや着替えの準備があるので十二時に公民館に入る予定になっている。三朗は、母の形見の指輪を確認し、参列者への謝辞の原稿を三度読み直し、四つ折りにして、一緒に置いておいた。髭を剃り、髪を整えた。鏡の中の自分の顔がだらしなく緩みきった笑い顔であることが妙にうれしい。
「何、ひとりで笑てんの?いやらしいなぁ。」
三朗の後ろで稀世が鏡の中の三朗の顔を見て笑っていた。(わぁ、恥ずかしいとこ見られてしもたなぁ。)と振り返ると、そこには、同じくだらしなく緩みきった笑顔の稀世がいた。
「あっ、おはよう。でも、稀世さんも同じような顔してはりますよ。」
「えー、そんないけず言わんとってよ。そんな意地悪言う口は、お仕置きや。」
と言って、「おはようのチュウ」で口を封じられた。もう見ていられないほど、朝からでれでれな状態だ。

 「おい、三朗、稀世ちゃん起きとるか?」
直が飛び込んできた。手には、花を持っている。三朗と稀世は我に返った。
「な、なんですか?直さん。まだ六時過ぎですよ。迎えに来るのは、お昼前やって言うてはったやないですか。」
「あほっ、挨拶行くとこがあるやろが。早よ出かける準備せい。」
「出かけるって、どこにですか?」
「墓や。親父さんとおふくろさんに挨拶しとかなあかんやろが。さっさと動け。稀世ちゃんもな。すぐに出かけるぞ。」

 直と三朗と稀世は、三朗の両親の墓前で手を合わせた。(直さん、ひろ子さんに報告したかったんやろなぁ。)稀世は、直のそんな気持ちがうれしかった。十分ほどのお参りを済ませ、直と別れて、ゆっくりと腕を組んで歩きながら、今日の式への期待を話しながら向日葵寿司に戻ってきた。朝の空気がすがすがしい。
「ところで、余興とスピーチなんですけど、稀世さんの方はどういう予定なんですか?」
「うん、最初の乾杯の挨拶は、社長。スピーチはまりあさん、余興の歌とコントは、なっちゃんと陽菜ちゃんがやってくれるみたい。」
「コントって何ですか?聞いてないですけど。」
「なっちゃんとひなちゃんが、再来月のタッグのデビュー戦で、「二代目YASUKIYO」襲名したいって、まりあさんに直訴したみたいで、「飴ちゃん配り」と「眼鏡眼鏡」と「目玉目玉」を引き継いでくれるみたいやねん。嬉しいような、恥ずかしいような。歌の方は、何歌ってくれんのかは聞いてないけど。」
「そうですね、稀世さんの入場、すごく盛り上がりますもんね。僕もあのパフォーマンスが残ってくれるのはうれしいですね。僕の方は、挨拶は、酒屋の武藤さん。余興は、広君とがんちゃんが考えてくれてるみたいです。」
「いい式にしたいなぁ。」
「はい。」

 昼前に、直と笹井写真館の雅子が稀世を迎えに来た。
「じゃあ、サブちゃん、先に行ってるね。絶対、遅刻せんように、来てよ。」
と稀世は、笑顔で手を振って出かけて行った。稀世を店の前までで見送った後、店内で「パリン、パリン」と音がした。カウンターの後ろの食器棚に積んであった皿が二枚、床に落ちて割れていた。普通に考えて、落ちるはずのない皿が落ちたことに(めでたい日にゲンが悪いなぁ。堪忍してくれよ。)と思いながら片づけをした。

 十二時三十分、着替えを済ませて出かける準備が済んだ。(披露宴、一時からやから挨拶やなんやですぐには食事になれへんから、ちょっとなんかお腹に入れとこか。)と、式の後に参列者に配るクッキーの残りをひとつ摘まもうとキッチンのテーブルの上の袋から取り出すと、真ん中から真っ二つに割れていた。(こりゃゲンが悪いから、別のにするか。)ともう一つ取り出すとそれも割れていた。(あぁ、もうクッキーはええわ。ちょっと早いけど、公民館行くか。)と靴を履くと、革靴のひもが切れた。別の靴に履き替え、外に出ると店の前に見かけない車が停まっていた。ナンバーが「4989」だった。四回、黒猫が右から左へ横切った。公民館に着くまでに、赤い車にはねられかけた。ナンバーは「4949」だった。挙句の果てに、乗ったエレベーターが突然止まり閉じ込められた。(ちょっと、縁起悪すぎるやろ。)三朗は、得体の知れない悪寒に襲われた。

 何とか、エレベーターは五分ほどで復旧し、十二時五十分に控室に着くことができた。
「もお、サブちゃん、遅いわ。遅刻すんのちゃうかって思って、ドキドキしたがな。」
「おい、あほボン、こんな日くらい余裕をもって動かんか。この馬鹿ちんが。」
とメイクを済ませ純白のウエディングドレスで化粧席の前に座っている稀世と直に怒られた。
「ごめんなさい、いろいろあって。ご心配おかけして、すんませんでした。直さん、雅子さん、メイクと着付けありがとうございました。(ふたりに頭を下げた。鏡に写る稀世を見て)稀世さん、最高に綺麗です。金曜日の写真撮りの時以上です。世界一、いや宇宙一です。再々度、惚れ直してしまいました。」

 午後一時を迎え、三朗と稀世は、司会役の檜生花店の檜與平の開式宣言を会場の扉の外で聞いた。
「それでは皆様、お待たせいたしました。本日の主役、新郎新婦の入場です。」
の発声と同時に扉が開かれ、盛大な拍手と結婚行進曲の中、入場し一番奥の直とまりあが両サイドに座る高砂の席の前まで腕を組み皆の祝福を浴びながら進んでいった。席の前まで進み、客席側に振り返り一礼した。笹井が「はい、こっち向いて―」、「手を振ってー」、「はい右向いてー、左向いて―」とハイテンションで声を掛けながらカメラのシャッターと切る。
「これより、ニコニコ商店街、および大阪ニコニコプロレスの皆様を証人として、新郎「長井三朗」君と新婦「安稀世」さんの人前結婚式を行います。」
 大きな拍手とヒューヒューと冷やかしの歓声が飛んだ。三朗と稀世は客席に正対して直立した。
「新郎、長井三郎君は、安稀世さんを生涯の伴侶とし、良き夫として大切にすることを誓いますか?」
「はい誓います。」
「新婦、安稀世は、長井三郎君を生涯の伴侶とし、良き妻として大切にすることを誓いますか?」
「・・・・。」
「?新婦、安稀世は、長井三郎君を生涯の伴侶とし、良き妻として大切にすることを誓いますか?」
檜が戸惑いながら、稀世への質問を繰り返した。
「・・・・。」
檜が小声で言った。
「稀世ちゃん、誓ってもらわないと式がすすめられへんで。「はい」って返事してよ。」
「ごめんなさい。サブちゃん、皆さん、ごめんなさい。」
稀世が叫んだ。会場は一気に騒ついた。稀世の横で、三朗はおろおろした。(えっ、この状況で、破談!?昼からの不幸の予兆が当たった?)
「ど、どうしたの。稀世ちゃん、いったいどうしちゃったの?」
檜も困り果てている。まりあは高砂の席を飛び出し、稀世の横に来て
「稀世、あんた何言ってんの。どうしたんよ。この期に及んで何なの!」
「みなさん、本当にごめんなさい。私、良き妻じゃないです。だから…。」
「稀世、あんたまじめすぎるのよ。じゃあ、質問を変えるわね。ちょっと、檜さん、マイク貸してもらえますか。」
まりあが、いまだざわめきの残る会場でマイクを引き継いだ。
「稀世、きちんと聞いてね。新婦、安稀世は、長井三郎君を生涯の伴侶とし、良き妻を目指して大切にすることを誓いますか?」
「はい、誓います」

 会場に安堵のため息が流れた。(そこにツボがあったんか。稀世さんらしいと言えばらしいけど、ここでフラれるって思って、心臓停まるかと思たわ。)三朗もほっとした。マイクが、檜に戻され、まりあも席に戻った。檜がハンカチで額の汗をふき取り、マイクを握りなおした。
「では、仕切り直しまして、これより、新郎新婦による誓いの言葉を皆様に宣言していただきます。では、三朗君、稀世さん、お願いします。
「本日私たちは、ご列席いただきました皆様を証人として、夫婦の約束を交わします。私、長井三郎は、稀世さんを生涯の妻として、一生愛し敬い続けることを誓います。私、安稀世は、三朗さんを生涯の夫として、一生愛し敬い続けることを誓います。これからはどんな時もふたりで話し合い、協力し合い、お互い助け合っていくことを誓います。2021年9月10日、新郎長井三朗、新婦稀世」
ふたりで会場の参列者に宣言した。
「では、続きまして、指輪の交換を」
檜が三朗の母の形見の指輪と、昨日、稀世がまりあと梅田に買いに行った三朗への指輪をお盆の上に載せてふたりに渡した。先に三郎が稀世の左手の薬指にそっとはめた。稀世の目が潤む。続いて、稀世が「さっきは、慌てさせちゃってごめんね。これからもよろしくね。サブちゃん。」とマイクに入らない小さな声で囁いて、三朗の薬指に指輪を入れた。大きな拍手が起こった。
「では、皆さまの拍手による結婚の承認の後、婚姻届けに署名いただきます。それでは、皆さま、本日のこの式を持ちまして、三朗君と稀世さんの結婚を承認いたしますか。」
とのコールが終わるか終わらないかの瞬間に、奥の扉が「バターン」と乱暴に開かれた。
「こんな結婚認めまへん。絶対に認めへんで―、こらあ!」
怒声が会場をつら抜いた。(おいおい、今度はいったいなんや!)会場の全員の視線が入り口に向かう。青いジャージを着た女が身体を大の字にして立っていた。

 ざわつく会場の中、檜が三朗の耳元で「サブちゃん、これ何かの演出?聞いてないよー。」と聞いた。「いや、僕も何も聞いてないです。ちょっと待ってください。」稀世の方に振り返って「稀世さん、何か聞いてますか?」、「・・・す、粋華・・・。」
「こら、あほボン三朗!お前、二股かけとったんか。この罰当たりが!」
飛び出してきた直に三郎は頭を張り倒された。
「いや、ぼ、僕知らないですよ。うん、僕の知らない人です。」


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