50 / 51
『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』
1-49「不死身の花嫁」
しおりを挟む
「不死身の花嫁」
「グサっ!」、「カコーン」、直の前に飛び込んだ、稀世の腹にナイフが突き刺さった。刃渡り30センチに及ぶコンバットナイフの半分が白無垢に吸い込まれていった。
(あぁ、今回も「節目」って思ったのがあかんかったんやろか。サブちゃん、ごめん。やっぱり、お葬式になる運命やったんかな。せっかく、赤ちゃん作れる思て、調子に乗ったらこれや。やっぱり、私って持ってない女やったんかな…。サブちゃん、さよなら。次に、生まれ変わったら、普通に知り合って、普通に一緒になって、普通に長生きしよな。)
走馬灯のように、この5年半の三朗との思い出が稀世の頭の中を巡った。稀世は、腹にナイフを突きたてた状態であおむけになって倒れた。一筋の涙が、頬を伝った。稀世の転倒に巻き込まれる形で、男も直も一緒に転倒した。直は、倒れながら、腹に深々とナイフが刺さった稀世に叫んだ。
「心亜―っ!」
男がいち早く、立ち上がり稀世の腹からナイフを引き抜こうとするが、深く食い込んでいるために抜けない。二度、引き抜こうと力を入れたが、抜けなかった。諦めて拳を握り込み、直の方に振り返った瞬間、
「この野郎!稀世の仇やー!」
真っ赤な鬼の形相をしたまりあのドロップキックが男のあごを蹴り砕いた。低く鈍い骨が砕ける音がした。
「稀世さぁぁぁぁん!」
泣き顔とも驚きの顔とも何とも表現のしようのない顔で、駆けて近づいてくる三郎の顔が稀世の視界に入ってきた。倒れた、稀世の頭を正座の体勢で両ひざの上に乗せ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で三朗が必死に声をかけた。
「稀世さん、稀世さん、死んじゃダメや。稀世さん、稀世さん、稀世さん、稀世さん。」
「さ、サブちゃん、こんな私でごめんやったな。そんで、今まで、ありがとう。大好き・・・。」
稀世は、ゆっくりと瞼を閉じ、首ががくんと傾いた。
なだれ込んできた、警察官により、黒マスクの男は確保された。三朗の膝の上に頭を載せ横たわる稀世を、直、まりあ、夏子、陽菜、かずみ、広義、さとみ、徹三、笹井、雅子、檜、由紀恵、武藤、武雄、凛たちが囲んだ。まりあと夏子は、稀世の手を握り大声で泣きじゃくっている。十重、二十重に囲まれた人込みを押しのけて、医師の本田が近づいてきた。テレビ局のカメラマンもリング下から這い出し、肩にカメラを載せ、稀世にレンズを向けている。凜が「お姉ちゃん、死んでしもたん。」と呟いた。
本田が、夏子を押しのけ、稀世の手を取り脈を診る。稀世の口元に耳を近づけ、稀世の閉じた瞼を右手の人差し指と親指で開いて覗き込んだ。腹に刺さったナイフを人差し指と親指でつまみ引き抜こうとするが、すぐにやめた。稀世の頬を「ペシペシ」と平手で叩く。
「先生、稀世さんに何するんですか!」
三朗が怒気を含んだ声を上げる。本田は、三朗の言葉に耳を貸すことなく、頬をたたき続ける。
「もう先生、ええ加減にしてくださいよ。稀世さん、いたぶって、何が楽しいんですか。」
三朗が叫んだ瞬間、稀世の瞼がぴくぴくと動いた。
「さ、サブちゃん、うるさいで。さっきから。ゆっくり寝てられへんやんか…。せっかくきれいな川沿いのお花畑で横山やすし師匠と遊んどったのに…。」
そっと、瞼を開けた。
「えっ?」
周りのみんなが押し黙った。本田が立ち上がり、ゆっくりと話し出した。
「視覚から来る、インパクトのある画像情報により、脳が混乱することがあるんですね。長井さんの場合、凶悪犯の持つ大型のナイフの映像情報が、脳内で「これが刺さったら間違いなく死んでしまう。」という意識が、犯人たちが来てから、この数分の間で刻まれていたのだと推測します。その後、自らの腹部にナイフが深く突き刺さっているところを見てしまったがゆえに、先ほど長井さんが「川沿いのお花畑でやすし師匠と遊んでた。」とのくだりがありましたが、長井さんの脳は、「刺されて死んだ。」と判断したんでしょうね。
でも、もうご安心ください。少なくとも、脈も呼吸も正常ですので、いわゆる「精神的ショック性意識喪失」の状態で倒れたのだと思われます。前回の誤診の件がありますので、慎重に見させていただきましたが、身体的には、何ら問題は無く、正常だと判断します。
ただ、不可思議なのは、ナイフがこれだけ深く刺さっているにも関わらず、白無垢には、出血の後は確認できず、ナイフも固定されたように動かない。その点は、私からは説明できないですが。」
「あっ!まな板や。稀世ちゃん、おっぱい大きいから。タオル足らんで使わせてもろたんやった。」
雅子が左手のひらを拳でとんと叩き、叫んだ。
三朗を背に上半身を起こし床に座った稀世の正面に立ち、まりあが、両手でナイフを引き抜こうとした。一回では抜けず、両足を踏ん張っての二回目でようやくナイフは抜けた。刃先に血痕は無い。暗い鋼色の光沢があるだけである。白無垢の表面には5センチ幅の切創が残る。まりあは、白無垢の合わせひもをほどき、帯をクルクルとほどいていった。
羽織、長襦袢をはだけると、折りたたまれた白いバスタオルが二枚出てきた。中央部には羽織と同様に5センチの穴が開いている。二枚のタオルを取り除くとまたバスタオルが出てきた。(なんか硬い?)まりあが拳の甲で稀世のお腹をたたくと「コンコン」と音が響く。周りの皆が固唾を飲みこむ。
バスタオルにくるまれた、20センチ×15センチで厚み3センチほどの小型の木製まな板が出てきた。さらにその下にもう一枚、下のまな板には1センチほどのナイフの先端が刺さってできたであろう、傷があった。
「あぁ、このサブちゃんのまな板が、稀世の命を救ってくれたんやなぁ。」
まりあが三朗に向かって呟いた。
「いや、この小さいまな板、親父とおかんが出張調理の時に使ってた、巻きずしの切り分け用のものなんです。僕のものじゃないんです。皆さんに、巻きずし振舞うつもりで、親父の形見のまな板と包丁を控室に持ってきてたはずやのに、どこに行ったんかなぁって思ってました。まさか、稀世さんのお腹の中にあったとは。」
「そうやったなあ。きっと先代とひろ子が、稀世ちゃんを守ってくれたんやとわしは思うぞ。」
直が、稀世の肩に手を添え、優しく言葉をかけた。(お義父さん、お義母さん、ありがとうございました。まだ、サブちゃんと一緒に居れそうです。)稀世は、天井を仰いで、お腹のまな板を優しく、何度も撫でた。
「すいません、まな板アップで撮りたいんで、こっちに向けてもらえますか?」
テレビ局のカメラマンの要望に、まりあが、ナイフが貫通した一枚目のまな板をカメラに向けた。
「もう一枚もお願いしていいですか?」
「はいよ。まさに奇跡の一枚ってやつやな?」
とまりあがまな板を取り出そうとした。
「あっ!まりあさん、ダメ!きゃあーっ!」
と稀世が叫んだ時には遅かった。二枚目のまな板をくるんだバスタオルとずれ防止に安全ピンで留められた、最後のバスタオルも一緒に取り払われ、稀世のGカップのバストが、カメラの前に現れた。
門真銀行強盗逃亡立てこもり事件現場生中継とのテロップが出ている午後のワイドショーの全国放送に稀世の「爆乳」が映し出された。稀世は、真っ赤になり両手で胸を隠すが、両手で隠しきれる大きさではない。
「稀世ちゃんの生乳見んの、そういえば初めてやったなあ。乳だけなら、やっぱり心亜以上やわ。」
直が独り言のように言った。雅子が慌ててバスタオルで稀世の胸を隠す。ホッとする稀世。
「そういえば、稀世姉さんが刺された瞬間、直さん、「ここあ―っ!」って叫んでましたよね。稀世姉さん、そんなに「ここあちゃん」っていうお孫さんに似てるん?」
と夏子が聞いた。
「ああ、似とるで。着物着るともうそりゃそっくりや。わしとこの心亜も稀世ちゃんと同じくらいかわいかったでな。見てみたいか?」
「うんうん。見たい、見たい!」
と興味津々の夏子に直は、懐からスマホを取り出し、一枚の写真を開いて、夏子に渡した。
「ぷっ、ぎゃははははは!」
突然、夏子が大笑いした。今度は、陽菜が横からスマホを覗き込み、「どひゃひゃひゃひゃ。」と夏子以上に爆笑している。「えっ、なになに?」とまりあも覗くと、「ぶぶーっ!ぶっぶぶぶぶぶー。」と吹き出し、ふたりの三倍笑い転げている。
大阪ニコニコプロレスのみんなに、夏子が直のスマホの画面を見せて回る。スマホの画面と稀世の顔を見比べて、全員が腹を抱えて笑い出した。
「えっ!この笑いは何なん?私にも見せてよ、直さん。」
と稀世が言うと、直が夏子からスマホを取り上げ、稀世に渡した。
「この子が、わしの一番の自慢じゃった孫の「心亜」や。かわいいやろ。」
「・・・・。」
「どや、稀世ちゃん。色白で、ちょっとポチャッとしたところなんかよう似とるやろ。」
「な、直さん、心亜ちゃんって、男の子やったん?白いまわしつけて、お相撲さん?」
「そうや、高校三年のインターハイ出た時の写真や。通り魔事件に遭って無かったら、淡路島部屋から、大相撲に進む予定やったんやで。120キロあったから、まさに大型新人って期待されとったんやのになぁ。残念なことになってしもたけど。あっ、涙出てきてしもたわ。」
(直さんの孫とはいえ、お相撲さんにそっくりって言われても・・・。)稀世は再び卒倒し、胸を隠していたバスタオルが再び落ちた。三朗が、慌ててタオルを掛け直し、直の写真を覗き込むと、白いまわし一枚で、賞状を胸の前に持った笑顔の心亜の記念写真だった。(120キロのお相撲さんにそっくりやって言われたら、そりゃ卒倒してまうわな。)三朗もクスッと笑った。
リング横のソファーで稀世が目を覚ますと、再びどんちゃん騒ぎが始まっていた。ずっと、横に着いていた、三朗が皆に言った。
「皆さん、稀世さん、目覚ましました。」
テレビ局のカメラマンとインタビュアーと来客のみんなが、稀世と三朗の座っているソファーの周りに集まってきた。インタビュアーが、前に出てきて稀世にマイクを向けた。
「稀世さん、「余命半年の最後のひと月」から、生前葬で「余命100年」の太鼓判をもらい、最後には、披露宴で、強盗犯のナイフに深々と腹部を刺され、三途の川沿いのお花畑から帰還、まさに「不死身の花嫁」ですね。今日一日で、大変な変化がありましたが、感想をお聞かせください。」
「はい、もう近いうちに死ぬと思っていた、午前中からしたら、赤ちゃんも作れることになったし、めちゃくちゃ幸せです。ただ、「不死身の花嫁」って化け物女みたいなイメージですやん。テレビで放送するのは堪忍してください。ここ、カットしたってくださいね。」
インタビュアーが、少し困った顔で言った。
「稀世さん、今これ、生放送でスタジオに繋がってるんですよ。」
「えーっ。うそやー。もう、いややー。堪忍してー。」
両手で顔を覆って、三朗の胸に顔をうずめた。リングの上で、すっかり、酔っぱらった檜と鼻血が顔に残る武藤が音頭を取って、叫んだ。
「ニコニコ商店街の女神、「不死身の花嫁、稀世ちゃん」に万歳三唱やー!」
会場にいた、稀世と三朗とインタビュアーとカメラマン以外の全員が、両手を挙げて、ぴょんぴょん跳ねながら繰り返した。武雄と凜も大人たちに混ざって、飛び回っている。
「稀世ちゃん、ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい。」
その万歳は、途切れることなく、テレビで全国に流されながら、午後三時四十四分を迎え、次の番組に切り替わった。
「グサっ!」、「カコーン」、直の前に飛び込んだ、稀世の腹にナイフが突き刺さった。刃渡り30センチに及ぶコンバットナイフの半分が白無垢に吸い込まれていった。
(あぁ、今回も「節目」って思ったのがあかんかったんやろか。サブちゃん、ごめん。やっぱり、お葬式になる運命やったんかな。せっかく、赤ちゃん作れる思て、調子に乗ったらこれや。やっぱり、私って持ってない女やったんかな…。サブちゃん、さよなら。次に、生まれ変わったら、普通に知り合って、普通に一緒になって、普通に長生きしよな。)
走馬灯のように、この5年半の三朗との思い出が稀世の頭の中を巡った。稀世は、腹にナイフを突きたてた状態であおむけになって倒れた。一筋の涙が、頬を伝った。稀世の転倒に巻き込まれる形で、男も直も一緒に転倒した。直は、倒れながら、腹に深々とナイフが刺さった稀世に叫んだ。
「心亜―っ!」
男がいち早く、立ち上がり稀世の腹からナイフを引き抜こうとするが、深く食い込んでいるために抜けない。二度、引き抜こうと力を入れたが、抜けなかった。諦めて拳を握り込み、直の方に振り返った瞬間、
「この野郎!稀世の仇やー!」
真っ赤な鬼の形相をしたまりあのドロップキックが男のあごを蹴り砕いた。低く鈍い骨が砕ける音がした。
「稀世さぁぁぁぁん!」
泣き顔とも驚きの顔とも何とも表現のしようのない顔で、駆けて近づいてくる三郎の顔が稀世の視界に入ってきた。倒れた、稀世の頭を正座の体勢で両ひざの上に乗せ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で三朗が必死に声をかけた。
「稀世さん、稀世さん、死んじゃダメや。稀世さん、稀世さん、稀世さん、稀世さん。」
「さ、サブちゃん、こんな私でごめんやったな。そんで、今まで、ありがとう。大好き・・・。」
稀世は、ゆっくりと瞼を閉じ、首ががくんと傾いた。
なだれ込んできた、警察官により、黒マスクの男は確保された。三朗の膝の上に頭を載せ横たわる稀世を、直、まりあ、夏子、陽菜、かずみ、広義、さとみ、徹三、笹井、雅子、檜、由紀恵、武藤、武雄、凛たちが囲んだ。まりあと夏子は、稀世の手を握り大声で泣きじゃくっている。十重、二十重に囲まれた人込みを押しのけて、医師の本田が近づいてきた。テレビ局のカメラマンもリング下から這い出し、肩にカメラを載せ、稀世にレンズを向けている。凜が「お姉ちゃん、死んでしもたん。」と呟いた。
本田が、夏子を押しのけ、稀世の手を取り脈を診る。稀世の口元に耳を近づけ、稀世の閉じた瞼を右手の人差し指と親指で開いて覗き込んだ。腹に刺さったナイフを人差し指と親指でつまみ引き抜こうとするが、すぐにやめた。稀世の頬を「ペシペシ」と平手で叩く。
「先生、稀世さんに何するんですか!」
三朗が怒気を含んだ声を上げる。本田は、三朗の言葉に耳を貸すことなく、頬をたたき続ける。
「もう先生、ええ加減にしてくださいよ。稀世さん、いたぶって、何が楽しいんですか。」
三朗が叫んだ瞬間、稀世の瞼がぴくぴくと動いた。
「さ、サブちゃん、うるさいで。さっきから。ゆっくり寝てられへんやんか…。せっかくきれいな川沿いのお花畑で横山やすし師匠と遊んどったのに…。」
そっと、瞼を開けた。
「えっ?」
周りのみんなが押し黙った。本田が立ち上がり、ゆっくりと話し出した。
「視覚から来る、インパクトのある画像情報により、脳が混乱することがあるんですね。長井さんの場合、凶悪犯の持つ大型のナイフの映像情報が、脳内で「これが刺さったら間違いなく死んでしまう。」という意識が、犯人たちが来てから、この数分の間で刻まれていたのだと推測します。その後、自らの腹部にナイフが深く突き刺さっているところを見てしまったがゆえに、先ほど長井さんが「川沿いのお花畑でやすし師匠と遊んでた。」とのくだりがありましたが、長井さんの脳は、「刺されて死んだ。」と判断したんでしょうね。
でも、もうご安心ください。少なくとも、脈も呼吸も正常ですので、いわゆる「精神的ショック性意識喪失」の状態で倒れたのだと思われます。前回の誤診の件がありますので、慎重に見させていただきましたが、身体的には、何ら問題は無く、正常だと判断します。
ただ、不可思議なのは、ナイフがこれだけ深く刺さっているにも関わらず、白無垢には、出血の後は確認できず、ナイフも固定されたように動かない。その点は、私からは説明できないですが。」
「あっ!まな板や。稀世ちゃん、おっぱい大きいから。タオル足らんで使わせてもろたんやった。」
雅子が左手のひらを拳でとんと叩き、叫んだ。
三朗を背に上半身を起こし床に座った稀世の正面に立ち、まりあが、両手でナイフを引き抜こうとした。一回では抜けず、両足を踏ん張っての二回目でようやくナイフは抜けた。刃先に血痕は無い。暗い鋼色の光沢があるだけである。白無垢の表面には5センチ幅の切創が残る。まりあは、白無垢の合わせひもをほどき、帯をクルクルとほどいていった。
羽織、長襦袢をはだけると、折りたたまれた白いバスタオルが二枚出てきた。中央部には羽織と同様に5センチの穴が開いている。二枚のタオルを取り除くとまたバスタオルが出てきた。(なんか硬い?)まりあが拳の甲で稀世のお腹をたたくと「コンコン」と音が響く。周りの皆が固唾を飲みこむ。
バスタオルにくるまれた、20センチ×15センチで厚み3センチほどの小型の木製まな板が出てきた。さらにその下にもう一枚、下のまな板には1センチほどのナイフの先端が刺さってできたであろう、傷があった。
「あぁ、このサブちゃんのまな板が、稀世の命を救ってくれたんやなぁ。」
まりあが三朗に向かって呟いた。
「いや、この小さいまな板、親父とおかんが出張調理の時に使ってた、巻きずしの切り分け用のものなんです。僕のものじゃないんです。皆さんに、巻きずし振舞うつもりで、親父の形見のまな板と包丁を控室に持ってきてたはずやのに、どこに行ったんかなぁって思ってました。まさか、稀世さんのお腹の中にあったとは。」
「そうやったなあ。きっと先代とひろ子が、稀世ちゃんを守ってくれたんやとわしは思うぞ。」
直が、稀世の肩に手を添え、優しく言葉をかけた。(お義父さん、お義母さん、ありがとうございました。まだ、サブちゃんと一緒に居れそうです。)稀世は、天井を仰いで、お腹のまな板を優しく、何度も撫でた。
「すいません、まな板アップで撮りたいんで、こっちに向けてもらえますか?」
テレビ局のカメラマンの要望に、まりあが、ナイフが貫通した一枚目のまな板をカメラに向けた。
「もう一枚もお願いしていいですか?」
「はいよ。まさに奇跡の一枚ってやつやな?」
とまりあがまな板を取り出そうとした。
「あっ!まりあさん、ダメ!きゃあーっ!」
と稀世が叫んだ時には遅かった。二枚目のまな板をくるんだバスタオルとずれ防止に安全ピンで留められた、最後のバスタオルも一緒に取り払われ、稀世のGカップのバストが、カメラの前に現れた。
門真銀行強盗逃亡立てこもり事件現場生中継とのテロップが出ている午後のワイドショーの全国放送に稀世の「爆乳」が映し出された。稀世は、真っ赤になり両手で胸を隠すが、両手で隠しきれる大きさではない。
「稀世ちゃんの生乳見んの、そういえば初めてやったなあ。乳だけなら、やっぱり心亜以上やわ。」
直が独り言のように言った。雅子が慌ててバスタオルで稀世の胸を隠す。ホッとする稀世。
「そういえば、稀世姉さんが刺された瞬間、直さん、「ここあ―っ!」って叫んでましたよね。稀世姉さん、そんなに「ここあちゃん」っていうお孫さんに似てるん?」
と夏子が聞いた。
「ああ、似とるで。着物着るともうそりゃそっくりや。わしとこの心亜も稀世ちゃんと同じくらいかわいかったでな。見てみたいか?」
「うんうん。見たい、見たい!」
と興味津々の夏子に直は、懐からスマホを取り出し、一枚の写真を開いて、夏子に渡した。
「ぷっ、ぎゃははははは!」
突然、夏子が大笑いした。今度は、陽菜が横からスマホを覗き込み、「どひゃひゃひゃひゃ。」と夏子以上に爆笑している。「えっ、なになに?」とまりあも覗くと、「ぶぶーっ!ぶっぶぶぶぶぶー。」と吹き出し、ふたりの三倍笑い転げている。
大阪ニコニコプロレスのみんなに、夏子が直のスマホの画面を見せて回る。スマホの画面と稀世の顔を見比べて、全員が腹を抱えて笑い出した。
「えっ!この笑いは何なん?私にも見せてよ、直さん。」
と稀世が言うと、直が夏子からスマホを取り上げ、稀世に渡した。
「この子が、わしの一番の自慢じゃった孫の「心亜」や。かわいいやろ。」
「・・・・。」
「どや、稀世ちゃん。色白で、ちょっとポチャッとしたところなんかよう似とるやろ。」
「な、直さん、心亜ちゃんって、男の子やったん?白いまわしつけて、お相撲さん?」
「そうや、高校三年のインターハイ出た時の写真や。通り魔事件に遭って無かったら、淡路島部屋から、大相撲に進む予定やったんやで。120キロあったから、まさに大型新人って期待されとったんやのになぁ。残念なことになってしもたけど。あっ、涙出てきてしもたわ。」
(直さんの孫とはいえ、お相撲さんにそっくりって言われても・・・。)稀世は再び卒倒し、胸を隠していたバスタオルが再び落ちた。三朗が、慌ててタオルを掛け直し、直の写真を覗き込むと、白いまわし一枚で、賞状を胸の前に持った笑顔の心亜の記念写真だった。(120キロのお相撲さんにそっくりやって言われたら、そりゃ卒倒してまうわな。)三朗もクスッと笑った。
リング横のソファーで稀世が目を覚ますと、再びどんちゃん騒ぎが始まっていた。ずっと、横に着いていた、三朗が皆に言った。
「皆さん、稀世さん、目覚ましました。」
テレビ局のカメラマンとインタビュアーと来客のみんなが、稀世と三朗の座っているソファーの周りに集まってきた。インタビュアーが、前に出てきて稀世にマイクを向けた。
「稀世さん、「余命半年の最後のひと月」から、生前葬で「余命100年」の太鼓判をもらい、最後には、披露宴で、強盗犯のナイフに深々と腹部を刺され、三途の川沿いのお花畑から帰還、まさに「不死身の花嫁」ですね。今日一日で、大変な変化がありましたが、感想をお聞かせください。」
「はい、もう近いうちに死ぬと思っていた、午前中からしたら、赤ちゃんも作れることになったし、めちゃくちゃ幸せです。ただ、「不死身の花嫁」って化け物女みたいなイメージですやん。テレビで放送するのは堪忍してください。ここ、カットしたってくださいね。」
インタビュアーが、少し困った顔で言った。
「稀世さん、今これ、生放送でスタジオに繋がってるんですよ。」
「えーっ。うそやー。もう、いややー。堪忍してー。」
両手で顔を覆って、三朗の胸に顔をうずめた。リングの上で、すっかり、酔っぱらった檜と鼻血が顔に残る武藤が音頭を取って、叫んだ。
「ニコニコ商店街の女神、「不死身の花嫁、稀世ちゃん」に万歳三唱やー!」
会場にいた、稀世と三朗とインタビュアーとカメラマン以外の全員が、両手を挙げて、ぴょんぴょん跳ねながら繰り返した。武雄と凜も大人たちに混ざって、飛び回っている。
「稀世ちゃん、ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい。」
その万歳は、途切れることなく、テレビで全国に流されながら、午後三時四十四分を迎え、次の番組に切り替わった。
10
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる