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四月の終わり、街はほんの少し汗ばむくらいの陽気になっていた。
蓮は仕事帰りの道を、ぼんやり歩いていた。
ふとした瞬間に、となりを歩く幻の気配を探してしまう自分が、まだいる。
もう、半年が経とうとしていた。
なのに、悠人の面影は街の至るところに落ちていた。
信号待ちでふと視線を上げると、向かいの歩道に見慣れた後ろ姿が見えた。
背格好。髪型。歩き方。
——あれは、悠人だ。
胸がぎゅっと締めつけられる。
信号が変わると同時に、蓮は走り出していた。
「悠人っ……!」
自分でも驚くほど、大きな声が出た。
人混みの中で、その男がゆっくりと振り返る。
間違いない。あれは——悠人だった。
けれど、その目に映る蓮の姿は、どこか他人事のようだった。
「……誰、ですか?」
その声も、表情も、確かに悠人のものだった。
なのに、そこに“蓮を知っている悠人”はいなかった。
「……蓮だよ。……お前の、恋人だろ……?」
蓮の声が震える。
でも、悠人はただ困ったように眉を下げて、ゆっくり頭を下げた。
「……すみません。俺、人違いかと」
そう言って、ふたたび背を向ける。
「まって、お願い! 悠人……!」
蓮はその背中を追いかけた。
その手を掴もうと伸ばした瞬間——白衣を着た男が割って入った。
「すみません、この子、事故で記憶をなくしていて……」
「……事故……?」
医者らしきその男性が、小さくうなずいた。
「半年ほど前、車にはねられて頭を打って……。名前と誕生日、住んでいた地域は覚えているんですが、過去の人間関係は……」
その言葉が、現実を突きつけた。
悠人は、生きていた。
けれど——蓮のことだけを、忘れていた。
—
その後、蓮は病院まで同行を申し出た。
医師の許可を取り、簡単な面談のような時間が設けられた。
窓際の椅子に腰掛ける悠人は、どこか落ち着かない様子だった。
けれど、どこか懐かしい空気を漂わせていた。
「ほんとに、何も……思い出せない?」
蓮の問いに、悠人はゆっくりと首を振った。
「でも、不思議なんだ。……さっき、お前の声を聞いたとき……すごく、安心した」
蓮は、泣きそうになりながら微笑んだ。
「それだけで、十分だよ」
—
帰り道。病院の出口で、悠人がふと足を止めた。
「……“蓮”って名前だけは、ずっと頭の中に残ってて……」
蓮がはっとして振り返る。
「顔も思い出せないのに……なんでか、“蓮”って言葉だけは、ずっと……」
蓮は思わず、涙をこぼした。
胸がいっぱいで、もう何も言葉にできなかった。
蓮は仕事帰りの道を、ぼんやり歩いていた。
ふとした瞬間に、となりを歩く幻の気配を探してしまう自分が、まだいる。
もう、半年が経とうとしていた。
なのに、悠人の面影は街の至るところに落ちていた。
信号待ちでふと視線を上げると、向かいの歩道に見慣れた後ろ姿が見えた。
背格好。髪型。歩き方。
——あれは、悠人だ。
胸がぎゅっと締めつけられる。
信号が変わると同時に、蓮は走り出していた。
「悠人っ……!」
自分でも驚くほど、大きな声が出た。
人混みの中で、その男がゆっくりと振り返る。
間違いない。あれは——悠人だった。
けれど、その目に映る蓮の姿は、どこか他人事のようだった。
「……誰、ですか?」
その声も、表情も、確かに悠人のものだった。
なのに、そこに“蓮を知っている悠人”はいなかった。
「……蓮だよ。……お前の、恋人だろ……?」
蓮の声が震える。
でも、悠人はただ困ったように眉を下げて、ゆっくり頭を下げた。
「……すみません。俺、人違いかと」
そう言って、ふたたび背を向ける。
「まって、お願い! 悠人……!」
蓮はその背中を追いかけた。
その手を掴もうと伸ばした瞬間——白衣を着た男が割って入った。
「すみません、この子、事故で記憶をなくしていて……」
「……事故……?」
医者らしきその男性が、小さくうなずいた。
「半年ほど前、車にはねられて頭を打って……。名前と誕生日、住んでいた地域は覚えているんですが、過去の人間関係は……」
その言葉が、現実を突きつけた。
悠人は、生きていた。
けれど——蓮のことだけを、忘れていた。
—
その後、蓮は病院まで同行を申し出た。
医師の許可を取り、簡単な面談のような時間が設けられた。
窓際の椅子に腰掛ける悠人は、どこか落ち着かない様子だった。
けれど、どこか懐かしい空気を漂わせていた。
「ほんとに、何も……思い出せない?」
蓮の問いに、悠人はゆっくりと首を振った。
「でも、不思議なんだ。……さっき、お前の声を聞いたとき……すごく、安心した」
蓮は、泣きそうになりながら微笑んだ。
「それだけで、十分だよ」
—
帰り道。病院の出口で、悠人がふと足を止めた。
「……“蓮”って名前だけは、ずっと頭の中に残ってて……」
蓮がはっとして振り返る。
「顔も思い出せないのに……なんでか、“蓮”って言葉だけは、ずっと……」
蓮は思わず、涙をこぼした。
胸がいっぱいで、もう何も言葉にできなかった。
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