明日の君は俺を知らない。

マジ卍

文字の大きさ
5 / 11

5

しおりを挟む
悠人がいなくなって、一週間が経った。

 季節は春のはずなのに、蓮の世界はずっと冬だった。
 どんなに朝が来ても、あの人の声が聞こえない朝は、ただ冷たくて、空っぽだった。



 警察に届けを出し、悠人の写真を持って街を歩いた。
 駅、病院、行きつけのカフェ、何度も足を運んだ。

 けれど、どこにも彼の姿はなかった。
 何の手がかりもないまま時間だけが過ぎていく。

 「……なんで、俺に何も言ってくれなかったんだよ」

 独り言が癖になっていた。
 返事のない部屋で、蓮は何度も名前を呼んだ。

 そうして何日か経ったある日。
 蓮はふと、悠人の古いジャケットがクローゼットの奥に残っていることを思い出した。



 ジャケットのポケット。
 そこに、小さく折りたたまれた紙が入っていた。

 焦る指先で開くと、そこには見覚えのある筆跡。
 少し滲んだインク。雑な字。だけど、間違いなく——悠人の文字だった。

  ごめん。最後まで言えなかった。
  本当は、もっと早く伝えるべきだったんだ。
 
  病気の再発、知ってた。
  でも、言ったら……お前が泣くだろ?
 
  それが一番、嫌だった。

 蓮の指が止まる。
 心臓がきゅっと締めつけられるような感覚。

  蓮はさ、俺よりもずっと先に進める人間だから。
  俺が足かせになりたくなかった。
  
  それに、何より——
  お前には、笑っていてほしかった。

 「……そんなの……」

 蓮の声が震える。
 あのとき怒鳴った自分の言葉が、胸に刺さる。

  お前のこと、誰よりも好きだったよ。
  
  本当に、ありがとう。
 
  置いていくこと、許してくれ。



 許せるわけがなかった。
 でも、同時に——愛しかった。

 「バカ……勝手に、俺の幸せ、決めんなよ……」

 何度も涙をこらえたのに、今日はダメだった。
 悠人の手紙を胸に抱きしめたまま、蓮はソファにうずくまって泣いた。



 次の日から、蓮は何かを変えるように、生活を整えはじめた。
 部屋を片づけ、毎日ちゃんとご飯を食べ、仕事も再開した。

 ただ、ひとつだけ変えられなかったのは——
 ベッドの片側を空けて眠ること。

 「……帰ってくるって信じてるわけじゃないけどさ。
 それでも、ここは……お前の場所だから」

 蓮はぽつりと呟いて、手紙を枕元に置いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

処理中です...