明日の君は俺を知らない。

マジ卍

文字の大きさ
4 / 11

4

しおりを挟む
あの日の喧嘩は、些細なきっかけだった。
 でも、きっかけなんてどうでもよかった。
 蓮にとって大事だったのは、“気づいてしまった”という事実だった。



 リビングのゴミ箱を片付けていたとき、何気なく捨てられた紙袋の文字が目に入った。

 ——総合病院/血液内科

 何気なく、というにはあまりに重い単語だった。

 「え……これって……?」

 手が勝手に紙袋を拾っていた。
 中には、診察明細と数種類の薬の説明書が入っていた。

 病名は——再発性の白血病。

 文字を追った瞬間、膝が崩れそうになった。
 冷や汗が背中をつたう。息がうまく吸えない。

 どうして、こんな大事なことを……
 悠人は、なにも言ってくれなかった。



 その夜、悠人が帰ってきたとき。
 蓮は感情の整理もつかないまま、診察票を突き出した。

 「これ、何?」

 「……」

 悠人はそれを見て、しばらく黙っていた。
 答えるまでに、1分かかった。でもその沈黙が、何よりもつらかった。

 「なんで隠してたの?」

 「……言ったら、お前、離れないだろ」

 「離れるわけないだろ!」

 声を張り上げた蓮の喉が痛かった。
 でも、それ以上に胸が痛かった。

 「お前さ、いつもそう。全部ひとりで抱え込んで……俺は、何なんだよ。お前にとって」

 「……お前の未来を、止めたくなかっただけだよ」

 その言葉が、心臓にナイフのように刺さる。
 未来? そんなの、悠人とじゃなきゃ意味がない。

 「俺のこと、信じてないの?」

 「違う、そうじゃなくて……」

 「じゃあ何!? お前が死ぬかもしれないってことより、俺の人生の心配の方が大事ってわけ!?」

 悠人はなにも言わなかった。
 ただ立ち尽くして、蓮の言葉を受け止めていた。

 「……なんで、そんなに勝手に決めるんだよ……」

 蓮の声が、震える。もう涙がこぼれる寸前だった。

 「ずっと一緒にいたいって思ってたのは、俺だけだったの?」

 「そんなこと、一度も思ったことない」

 それは、「そんなことない」じゃなかった。
 その一言に込められた絶望が、蓮の胸を刺した。

 「……もういいよ。勝手にすればいい」

 テーブルの上に置かれた紙が、パラリと風に揺れた。
 そのまま悠人は、部屋を出ていった。
 何も言わず、何も持たずに。

 そして、そのまま——
 戻ってこなかった。



 思い返せば、喧嘩なんてただの引き金だった。
 本当は、もっとずっと前から、すれ違っていたのかもしれない。

 蓮は悠人の全部を愛したいと思っていた。
 でも、悠人は蓮を守るために、自分を切り離そうとしていた。

 ——それが、ふたりを壊した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

処理中です...