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あの日の喧嘩は、些細なきっかけだった。
でも、きっかけなんてどうでもよかった。
蓮にとって大事だったのは、“気づいてしまった”という事実だった。
—
リビングのゴミ箱を片付けていたとき、何気なく捨てられた紙袋の文字が目に入った。
——総合病院/血液内科
何気なく、というにはあまりに重い単語だった。
「え……これって……?」
手が勝手に紙袋を拾っていた。
中には、診察明細と数種類の薬の説明書が入っていた。
病名は——再発性の白血病。
文字を追った瞬間、膝が崩れそうになった。
冷や汗が背中をつたう。息がうまく吸えない。
どうして、こんな大事なことを……
悠人は、なにも言ってくれなかった。
—
その夜、悠人が帰ってきたとき。
蓮は感情の整理もつかないまま、診察票を突き出した。
「これ、何?」
「……」
悠人はそれを見て、しばらく黙っていた。
答えるまでに、1分かかった。でもその沈黙が、何よりもつらかった。
「なんで隠してたの?」
「……言ったら、お前、離れないだろ」
「離れるわけないだろ!」
声を張り上げた蓮の喉が痛かった。
でも、それ以上に胸が痛かった。
「お前さ、いつもそう。全部ひとりで抱え込んで……俺は、何なんだよ。お前にとって」
「……お前の未来を、止めたくなかっただけだよ」
その言葉が、心臓にナイフのように刺さる。
未来? そんなの、悠人とじゃなきゃ意味がない。
「俺のこと、信じてないの?」
「違う、そうじゃなくて……」
「じゃあ何!? お前が死ぬかもしれないってことより、俺の人生の心配の方が大事ってわけ!?」
悠人はなにも言わなかった。
ただ立ち尽くして、蓮の言葉を受け止めていた。
「……なんで、そんなに勝手に決めるんだよ……」
蓮の声が、震える。もう涙がこぼれる寸前だった。
「ずっと一緒にいたいって思ってたのは、俺だけだったの?」
「そんなこと、一度も思ったことない」
それは、「そんなことない」じゃなかった。
その一言に込められた絶望が、蓮の胸を刺した。
「……もういいよ。勝手にすればいい」
テーブルの上に置かれた紙が、パラリと風に揺れた。
そのまま悠人は、部屋を出ていった。
何も言わず、何も持たずに。
そして、そのまま——
戻ってこなかった。
—
思い返せば、喧嘩なんてただの引き金だった。
本当は、もっとずっと前から、すれ違っていたのかもしれない。
蓮は悠人の全部を愛したいと思っていた。
でも、悠人は蓮を守るために、自分を切り離そうとしていた。
——それが、ふたりを壊した。
でも、きっかけなんてどうでもよかった。
蓮にとって大事だったのは、“気づいてしまった”という事実だった。
—
リビングのゴミ箱を片付けていたとき、何気なく捨てられた紙袋の文字が目に入った。
——総合病院/血液内科
何気なく、というにはあまりに重い単語だった。
「え……これって……?」
手が勝手に紙袋を拾っていた。
中には、診察明細と数種類の薬の説明書が入っていた。
病名は——再発性の白血病。
文字を追った瞬間、膝が崩れそうになった。
冷や汗が背中をつたう。息がうまく吸えない。
どうして、こんな大事なことを……
悠人は、なにも言ってくれなかった。
—
その夜、悠人が帰ってきたとき。
蓮は感情の整理もつかないまま、診察票を突き出した。
「これ、何?」
「……」
悠人はそれを見て、しばらく黙っていた。
答えるまでに、1分かかった。でもその沈黙が、何よりもつらかった。
「なんで隠してたの?」
「……言ったら、お前、離れないだろ」
「離れるわけないだろ!」
声を張り上げた蓮の喉が痛かった。
でも、それ以上に胸が痛かった。
「お前さ、いつもそう。全部ひとりで抱え込んで……俺は、何なんだよ。お前にとって」
「……お前の未来を、止めたくなかっただけだよ」
その言葉が、心臓にナイフのように刺さる。
未来? そんなの、悠人とじゃなきゃ意味がない。
「俺のこと、信じてないの?」
「違う、そうじゃなくて……」
「じゃあ何!? お前が死ぬかもしれないってことより、俺の人生の心配の方が大事ってわけ!?」
悠人はなにも言わなかった。
ただ立ち尽くして、蓮の言葉を受け止めていた。
「……なんで、そんなに勝手に決めるんだよ……」
蓮の声が、震える。もう涙がこぼれる寸前だった。
「ずっと一緒にいたいって思ってたのは、俺だけだったの?」
「そんなこと、一度も思ったことない」
それは、「そんなことない」じゃなかった。
その一言に込められた絶望が、蓮の胸を刺した。
「……もういいよ。勝手にすればいい」
テーブルの上に置かれた紙が、パラリと風に揺れた。
そのまま悠人は、部屋を出ていった。
何も言わず、何も持たずに。
そして、そのまま——
戻ってこなかった。
—
思い返せば、喧嘩なんてただの引き金だった。
本当は、もっとずっと前から、すれ違っていたのかもしれない。
蓮は悠人の全部を愛したいと思っていた。
でも、悠人は蓮を守るために、自分を切り離そうとしていた。
——それが、ふたりを壊した。
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