明日の君は俺を知らない。

マジ卍

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春の風が吹いていた。
 ほんの少し冷たさを残したその風に、桜の花びらが舞っていた。

 それは、出会いでもあり、始まりでもあった。



 悠人と蓮が初めて出会ったのは、幼稚園の頃。
 その頃から、悠人は周囲と少し距離を置くような子どもだった。

 おもちゃの取り合いにも加わらず、いつも静かにブロックで遊んでいた。
 だけどある日、園庭で転んで泣いている悠人に、真っ先に駆け寄った子がいた。

 「大丈夫? これ、使っていいよ」

 差し出されたのは、小さな絆創膏。
 そのとき悠人が見上げた先にいたのが、蓮だった。

 「……ありがとう」

 悠人は、ぎこちなくもその手を取った。
 それが、ふたりの関係の始まりだった。



 それから、小・中・高校と、ふたりはずっと一緒だった。
 蓮は明るくて社交的で、友達が多いタイプ。
 対して悠人は、どこか影のある静かな性格だったけど、蓮の前では少しだけ表情をゆるめた。

 蓮は、そんな悠人の変化が嬉しかった。

 高校1年の冬。
 風邪を引いた悠人に、蓮は毎日のようにプリントを届けに行った。

 「ほら、プリントとノート。あとこれ、ゼリー。お前、食欲ないときでもこれならいけるでしょ?」

 「……お前、毎日来るなよ。バカみたいじゃん」

 「うっせ。バカで結構」

 顔を真っ赤にしてゼリーを押しつける蓮を見て、悠人が珍しく、ふっと笑った。
 それだけで、蓮はその日ずっと浮かれていた。



 蓮は、ずっと自分の気持ちを隠していた。
 これは“友情”だと、必死に自分に言い聞かせていた。

 だけど、高校を卒業して、ふたりで同棲することになったとき。
 蓮の中の何かが変わってしまった。

 同じ屋根の下で、ごはんを食べて、同じベッドで眠って。
 当たり前のように過ごす毎日が、愛しくて、切なくて、苦しかった。



 「……好きだよ、悠人」

 告白したのは、眠れない夜だった。
 眠っていると思っていた悠人に、思わずぽつりとつぶやいてしまった。

 「……俺も」

 小さな声が返ってきて、蓮は目を見開いた。

 「えっ……?」

 悠人は寝返りを打って、蓮の方を向いていた。
 そして、恥ずかしそうに言った。

 「お前がいなくなる方が、よっぽど怖いんだよ」

 それからふたりは、ぎこちなく、でも確かに恋人になった。
 触れ合う手も、キスも、全部が初めてで、全部が宝物だった。



 だからこそ——
 あの夜の喧嘩は、ふたりにとってあまりにも痛すぎた。
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