聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第六章

棺の中

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 ユリウスは、縛られていた下級魔族の縄を切った。

「大丈夫ですか?酷い目に遭いましたね」
「っすげー!あんた、強いんだな」

 ユリウスが声を掛けると、2人の獣人はあんぐりと口を開いたまま、彼の姿に見とれていた。
 彼らは双子で、毛皮の青い方がロキ、赤い方がバルデルと名乗った。
 小柄で、ネコっぽい釣り目の少年のような容貌を持つ2人は、助けてくれたユリウスを尊敬と憧れの目で見た。
 彼らは精神スキルの影響を受けていないようだった。

「ちゃんと逃げないとダメですよ」
「だってさっきコレに連絡があってさ、預けたものを取りにいくから、ここで待ってろって言われたんだよ」

 ロキがポケットから取り出したのは宝玉だった。

「…!これはどうしたんです」
「主様からの贈り物だって、貰ったんだ」
「…主とは、エウリノームのことですか?」
「ひぃぃ!主様を名前で呼ぶなんて、あんたどうかしてるよ!」

 ロキとバルデルは恐れおののきながら云った。
 やはり、彼らにとって、エウリノームという存在は特別のようだ。
 ユリウスはそんな彼らにお構いなしで尋ねた。

「それに連絡があったのはいつですか?」
「ついさっきだよ。主様の代理って人から連絡があったんだ」

 ロキから宝玉を受け取ったユリウスは、それを調べてみた。
 それはスキルが封じられているものではなく、遠方からでも相手に連絡ができる通信用の宝玉だった。受信専用のようで、こちらから連絡を送ることはできないようだった。
 ユリウスは眉間にしわを寄せた。
 エウリノームは死んだはずだ。では、連絡してきたのは誰だ?

「預かっている物があるんですか?」
「うん、あるよ」

 2人の獣人は、部屋の隅へ行くと、2人同時に呪文を唱えた。
 すると、何もなかった地面にぽっかりと穴が開いた。
 深さは平均的な大人の男性の身長くらいはある。
 その穴の底には、皮袋に入った荷物が2つ置かれていた。

「これがオイラたちのスキル<陥穽かんせい>さ。落とし穴ってやつだよ。こうして物を隠しておくのにも使えるんだ」ロキが得意そうに云った。
「いつから預かっているんです?」
「去年か一去年くらいかな?隠しておいてくれって言われて預かったんだよ。ドロボウに盗まれるからって」

 バルデルが経緯を説明した。
 ユリウスは彼らと共にしばらく待ってみることにした。
 しばらくすると、鎧姿の人間の男が入ってきた。
 ユリウスは瞬時に身を隠した。
 兵士は敵意のないことを告げて、ロキたちに話しかけてきた。

「ロキって魔族はいる?」
「あ、オイラだけど」
「ああ、さっき連絡したエウリノームの使いの者だけど、宝玉を渡してちょーだい」

 その鎧の男はオネエ言葉で話し、ロキたちは云われるままに穴の中に荷物を取りに行った。
 ユリウスにはそれが誰かすぐにわかった。

「あなただったんですか」

 鎧姿の男の前に姿を現したユリウスは呆れた顔で云った。

「えっ?わっ!あんた、いたの?」

 その兵士は変身したカラヴィアだった。地下王国で別れたはずのカラヴィアが、なぜかここに現れたのだ。

「ここで何をしてるんですか」
「何って、地下王国にあるエウリノームの部屋から連絡用の宝玉を見つけたから、それで、宝玉を預かってないかどうか、連絡してみたのよ。そしたらここが当たりだったってわけ」
「ここが当たりって、他にもあるんですか」

 すると、カラヴィアは腰につけた袋から手のひらに収まる程の小さな宝玉をいくつか取り出した。

「これ1つずつ、違う相手と繋がってるの。便利じゃない?こっちの宝玉はさ、なんとメトラだったのよ!懐かしくて久々に長話しちゃったわ!ちゃんとエウリノームは死んだって伝えといたわよ」
「…他には?」
「あとはイドラね。さっき呼び掛けてみたけど返事はなかったわ」

 2人が話している間に、ロキとバルデルが皮袋を持ってきた。
 カラヴィアはその中身を全部出して確認し始めた。
 ユリウスの予想した通り、袋の中身は宝玉だった。
 カラヴィアがさりげなく宝玉を選別していくつか自分のポケットに突っ込んでいたのをユリウスは見逃さなかった。

「うーん、肝心なスキルがないわね…」
「何ですか?」
「もちろん<能力奪取・宝玉化>よ」
「ああ…殺した相手のスキルを奪うっていうアレですか。本人が持っていて、団長が持って行ったのでは?」
「用心深いあいつのことだから、絶対複製品を持ってるはずだと踏んだのよ。地下王国にもなかったから、絶対ここだと思ったのに。あとはどこかなあ…?あいつ、国外に出たことあったっけか…」
「そんな大事なものを自分以外の誰かに預けるのは考えにくいですが…」
「む~、それもそうねえ。ま、いいわ。これは魔王様にお返しするから、持って行くわね」
「さっきいくつかネコババしていませんでした?」
「え?あ~ら、何のことかしら?オホホホ!」

 ユリウスは溜息をついてカラヴィアを見た。

「ところで、ここの魔族たちは皆エウリノームに精神スキルで操られているようなんです。この精神支配を解く方法を知りませんか?」
「そうねえ…上級精神スキルを使える者なら解けるんじゃないかしら」
「上級精神スキル…」
「あの、それならオイラたち知ってるよ」

 ユリウスが考えていると、ロキが話に割り込んできた。

「それは本当ですか?」
「うん、イドラって人だよ。オイラたちの面倒をよく見てくれてたんだ」
「…イドラですって?あなた方が精神スキルに支配されていないのは、その人が解除したおかげなのですか?」
「そうだよ。その荷物と一緒にこの宝玉を預けてきたのもその人だよ」

 この話を聞いたカラヴィアは、ユリウスに連絡用宝玉を1つ渡した。

「それあげる。イドラに連絡取って、ここへ来てもらえば?」
「さりげなく押し付けましたね…」
「そんくらい自分でやってよ。ワタシ忙しいんだから。んじゃね。ワタシはこれ持ってポータル・マシンで一旦グリンブルに戻るから」
「グリンブル?ゴラクドールに戻るんじゃないんですか」
「ほら、あそこまで行くの遠いしさ~とりあえず一番近いマシンで戻ろうかな~って」
「…ネコババした宝玉を売りさばくつもりじゃないでしょうね?」
「ギクッ。ま、まあいいじゃない。ホホホ」

 カラヴィアは乾いた笑いを残して去って行った。

 双子の魔族は不安そうにユリウスを見ている。

「オイラたち、もうここには戻って来れない?」
「おそらくは」
「そっか…。それじゃあどこへ行けばいい?」
「魔族の国へ帰してあげたいのですが…」
「えっ?帰れるの?」

 ロキとバルデルは2人同時に云った。

「もちろんですよ」
「やったー!」
「ですが、それはもっと後の話です。今は旧市街まで逃げましょう」

 ユリウスはロキとバルデルを連れて、ウルクたちの後を追った。

 ウルクは魔族たちと共に先に旧市街の地下古墳にたどり着いていた。
 魔族たちは慣れたもので、地下古墳から旧市街へと続々と出て行った。朽ち果てた旧市街の中にもまだ住める家がいくつかあり、それぞれそこへ向かうようだ。
 だがここもいつ人間たちに攻められるかわからない。

 ユリウスを待つ間、彼は地下古墳の中をうろついていた。
 ふいに、ウルクは誰かに呼ばれたような気がして、地下神殿へと足を向けた。
 その場所は元々旧オーウェン王国の霊場であり、その場にいるだけでうなじの毛が逆立つ程の魔力を感じた。レリーフが掘られた床を歩いて行くと、明かりの灯った6つの柱が見えた。
 そこは以前、イドラがオルトロスを召喚し、イシュタルが蘇った場所だった。
 まだ魔法陣の跡が残るその場所には、かつてイシュタルの器となっていた魔族の遺体がそのまま放置されていた。

「こんなとこに放置してごめんよ。あとで埋めてやるからな」

 ウルクはイシュタルだった者の遺体に語り掛けた。 
 その時、妙に気になって、目線を移した。 
 薄暗い魔法陣の隅に、棺桶のような大きな箱が置かれていることに気付いた。

「あれ?こんなの、あったっけ…?」

 その棺桶は蓋の部分に豪華な彫刻が装飾されており、相当身分の高い者の棺であることがわかる。
 前回、ここへ来た時はなかったと思うが、レナルドとジュスターに気を取られていて、気づかなかっただけかもしれない、と彼は思った。
 ウルクは、その棺の重い蓋をずらして中を見た。

「え…!?」

 そこには、人が入っていた。
 蓋を完全に避けて、その人物をよく見た。
 それは彼の良く見知った人物に似ていた。
 ウルクは目をこすって、再び棺の中を見た。すると今度はそれが残像のようにスーッと消えていった。

「な、何だったんだ今の…」

 棺の中には誰もいない。空っぽだ。
 彼は薄暗い中だったので、何かの見間違いだと思った。
 もしやこれが幽霊というものだろうかと、ウルクはゾッとした。


 地下から命からがら逃げのびた兵士たちから報告を受けたオーウェン王国新政府は、本格的に大聖堂地下を攻略することを決めた。
 その矢先、ある事件が起こり、それが大陸中を巻き込む大惨事を引き起こすことになろうとは、この時誰も予想しなかった。
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