半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ

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医師に告げられたのは足が一生動かない事。それから記憶喪失。

それでも何日か経てば記憶喪失とは違うと分かった。毎朝同じ質問の繰り返し。私をメイドだと言い、エマ様に悪いと言う。そして侯爵家からベイクを呼んで同じ事を初めから説明する。

何度訴えたか分からない。

私は貴方の妻で貴方と愛し合った夫婦だと。

それでもルイ様は愛しているのはエマ様だと言う。エマ様は伯爵夫人だと言えば、お前がエマを誑かしたのかと、俺とエマを引き離したのかと私に怒鳴り散らす。

何度エマ様が嫁いだ伯爵家の前まで行ったか分からない。エマ様が子供達と遊ぶ姿を、幸せそうな顔を見て『悪かった』と一言謝り、何も話さず寂しそうな辛そうな顔を見せる。

彼の中で残った記憶…。

彼の中で残らなかった記憶…。

そして私は後者。


私達の愛は偽物だったのか、それとも本物だったのか。あの日最後に交わした夫婦の会話、そこに愛はあった。寄り添い愛を育み子供も授かった。

これからも夫婦として、父と母として、幸せな未来が待っているはずだった…。




「ねぇ、私を思い出して。私は貴方の妻のリリー、私達は愛し合って夫婦になったのよ?それに可愛い子供達も授かったじゃない。私が分からない?思い出せない?貴方の妻よ?

愛を育み死ぬまで共に歩みたいって、支えてほしいと思うのも、格好悪い姿を見せられるのも私だけって。それに最期の時誰の手を取りたいかと聞かれたら迷わずリリーだって言えるって言ってくれたじゃない。可愛い、愛しい、好きだ、愛してる、護りたい、支えたい、側で抱きしめ眠りたい、温もり、安らぎ、安心、幸せ、俺が帰る所はリリーの所だって、俺はリリーを離せない離したくないって、リリーの笑顔は俺を幸せにしてくれる、だからリリーはずっと笑って俺を幸せにしてくれ、そしたら俺はどんな事も耐えられる。リリーの為ならどんな事でも出来るって、そう言ったじゃない。

ねぇ、私、今笑顔よ?な、泣いて…ない、わ…。だから思い出してよ。お願…い……。


どうしてよ、何でよ、私を忘れてどうしてエマ様は忘れてないのよ!

どう…して、よ……。

愛してるのはリリーだけだって、あれは嘘だったの?

それに帰って来たらロイスを抱っこするって言ってたでしょ?ロイスは父様が抱っこしてくれるのをずっと待ってるわ。お利口さんだったと、ロリーナを護ったと抱きしめていっぱい褒めてあげて。ロイスには貴方と同じ騎士になってほしいって言ってたじゃない。5歳になったら剣の稽古を一緒にやりたいってずっと言ってたじゃない。

ロリーナはまだ産まれたばかりよ?私に似たロリーナをまだ産まれたばかりなのに嫁に出さないと言っていたでしょ?女の子はロイスとはまた違う可愛さがあるって、俺が護ってあげないといけないって言ってたでしょ?

子供達の事も忘れたの?あんなに誕生を喜んだじゃない。俺の背中を見て育ってほしいって、涙を流して喜んだじゃない…」


私はルイ様に訴えた。


「御婦人、申し訳ないが人違いだと思う。俺が御婦人の夫に似ているのかもしれないが、俺はルイ・エンボルト、貴女の夫ではない。俺が愛してるのはエマだけだ」


ルイ様は申し訳無さそうに答えた。

これを毎日繰り返していれば私の心はすり減った。


侯爵家からは離縁していいと言われた。実家のお父様からも子供達連れて帰って来いと言われた。それでも私は『いつか思い出す』それを信じた。

夢幻、そんな事は分かってる。それでもルイ様との愛の絆を信じたかった。


例えルイ様が暴れても、ルイ様が誇りに思っていた騎士という肩書きを嘘をつき続け守った。

貴方は騎士だと、足は治ると、もう一度騎士に戻れると、嘘をつき続けた。


「黙れ、黙れ、黙れ!お前の顔なんか見たくない!出ていけ!」


何度怒鳴られたか分からない。ベッドにある枕を投げられた事もある。

大きな物音で部屋に入れば車椅子に座り部屋の中の本を投げ花瓶を投げ丸テーブルはひっくり返っていた。ひどい時は部屋にあるクッション全部を力まかせに引き裂き中の綿が部屋中に散乱していた時も一度や二度ではない。

度々お義父様が来ては、


「いい加減にしないか!お前は騎士だろう。騎士以前にお前は侯爵令息だ。侯爵令息として紳士であるべきだ。恥を知れ!」

「すみません父上」


それでも次の日には忘れてしまう。


「こんなもの食べれるか」


と、食事を持っていくとトレイごとひっくり返される。食事制限のあるルイ様の為の食事、それでも、


「俺は病人じゃない」

「これは病人食ではありません。今のルイ様に必要な栄養です」


生死をさまよい、目が覚めてからも寝たきりの生活が続き、体の負担、必要な栄養を考えて作られた食事。病人食と言われればそう。

それでももう一度体を作る為に、もう一度前を向く為に、私は違うと言い続けた。



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