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しおりを挟むあれから1年
嘘をつき続けるのに疲れた私はつい本当の事を言ってしまった。足は治らない、もう騎士には戻れない、と。
私に対して怒鳴ってもこの1年が嘘みたいに暴れる事はしなかった。それから私は毎朝本当の事を言うようになった。
ルイ様が己の体を受け入れたのかは分からない。それでも毎日暴れた後片付けをする事を思えば怒鳴られる事くらい何とも思わない。
昨日の事を忘れてしまうから仕方がない、そんな簡単な感情じゃない。
伝わらない虚しさ、毎朝同じ繰り返し、私はとうに限界にきていた。
私の愛したルイ様はどこにもいないと
目の前にいるルイ様はルイ様だけどルイ様ではない。エマ様を愛しエマ様の為に騎士になった、恋に恋する少女だった頃の私が憧れた身分違いの恋をしているルイ様。
二人が別れを選んだ時、恋とはたわいもないものだと思った。そして今、愛、夫婦の絆とはたわいもないものだと味わった。
彼は夢の中にいる。彼の記憶の中の世界。過去に戻り過去で生きている。そこに私は存在していなくて子供達も存在はしていない。
私は妻ではなくお世話係
それで良い。
「かあさま、とうさまはげんきになった?」
ロイスはルイ様が元気になるのを今か今かと待っている。
「ロイス、父様はここじゃない所、そうね、夢の中にいるの」
「ゆめのなか?ねているの?それでもさっにとうさまのこえがきこえたよ?」
「そうよね、少し難しいわよね。父様は忘れんぼうさんになったの」
「わすれんぼう?」
「父様が怪我をしたのは知ってるわよね?」
「うん。はやくげんきになってって、ぼくおねがいした」
「その時、頭も怪我をしたの」
「あたまにしろいぬのがぐるぐるまいてあった」
「怪我をした時に母様やロイス、ロリーナの記憶を置いてきちゃったの」
「たいへん、さがしにいかないと」
「探しに行っても見つからないの。
ロイスはチョコがいっぱい入った甘いクッキーが大好きよね?」
「うん、あまくておいしいの。ぼくだいすき」
「でもクッキーは他にも食べたでしょ?」
「たべたよ」
「他のクッキーの味やいつ食べたかはあまり覚えてないでしょ?」
「きのうたべたクッキーはさくさくしてたよ」
「さくさくして美味しかったわね。なら昨日食べたクッキーと同じクッキーをいつ食べた?」
「え~っと、ね、わすれちゃった」
「ならロイスが大好きなチョコの入ったクッキーはいつ食べた?なかなか食べれないわよね?」
「うん。チョコのクッキーはロリーナがおねつをだしたときにたべた。ロリーナがおくすりをいやがってのまなかったからぼくがのませたの。そのときかあさまがほめてくれてそのひのおやつはチョコのクッキーだった」
「そうね、ロリーナが2ヶ月前熱を出してお薬を嫌がって飲まなかった時にロイスが『このお薬はロリーナをお熱から守ってくれるお薬なんだよ。このお薬を飲むとお熱が下がって僕と一緒に遊べるよ。僕、早くロリーナと遊びたいな』そう言ったらロリーナがお薬を飲んだのよね。母様を助けてくれて母様すごく嬉しかったの。ロイスが母様もロリーナも護ってくれた事がすごく嬉しかったの」
「だってとうさまとやくそくしたもん」
「そうね、約束したものね…」
私はロイスをギュッと抱きしめた。
「ロイスも大好きなチョコのクッキーは覚えてても、昨日食べたクッキーは覚えてないでしょ?
人はね食べて美味しい、この味大好き、そう思った感動は覚えているの。また食べたい、そしてまた食べれた時の事も覚えているの。心に残り頭に残る、それが記憶。
父様は怪我をする前の記憶を忘れちゃったの」
「だからぼくのこともわすれちゃったの?」
「そうよ。だから毎日『はじめまして』をしないといけないの」
「とうさまなのに?」
「父様だけどロイスの知ってる父様じゃないの。いつか、ロイスとロリーナがもっと大きくなった時にきちんと説明するけど、それまでは父様に毎日『はじめまして』を出来る?」
「よくわからないけどきっとできる」
「もし出来ない、もう嫌だと思ったら我慢しないで母様に教えてね?」
「うん、わかった」
私はロイスをギュッと抱きしめた。そして額に口付けをした。
この子が傷つかないようにと願いを込めて。
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