悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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12 23歳 ⑥

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遠くで他の貴族と話す姿を見かけ私は急いで向かった。


「ウイング侯爵、貴方が何故夜会に来ているのです。今、侯爵領が大変な時に夜会ですか」

「王妃殿下、妃殿下が何をおっしゃりたいのか分かりませんが、天災の被害には合いましたが我が侯爵領の領民は皆元気です。大変な時と言いますが我が侯爵領は平穏を取り戻しました。変な言い掛かりはやめてもらえますか」

「被害にあった侯爵領の事を言っています」

「被害?ああ、あの地は元々必要のない土地、今後平地にし使用しない土地にします」

「では見捨てると」

「見捨てるなど、被害を免れ残った半分の土地で十分利益は出ますから」

「今現在あの土地にいる領民はどうするおつもりです?」

「領民?領民は全て助かりましたと先程言いましたよね。もしあの地に住んでる者がいたら、それは私の領民ではありません。よそから流れてきた流れ者です。きっと隣接する子爵家か男爵家の領民だと思いますよ。領民の管理くらいはしてほしいものですが」

「流れ者、そうですか、貴方の主張は分かりました」


あの地に残った領民をこの人は見捨てた。領民を護るべき当主が、侯爵がこれで良いのか…。

この国の侯爵はろくでなししか居ないのね…。

エンナリー侯爵は自分の地位が今後も守れるように。『王家のワイン』その事が侯爵の誇り。己の誇りを守る為に虚偽をした。虚偽をせず正直に申告していたら、今年は不作だから他家のワインをと言ったのなら、これからも侯爵の誇りも守れ『王家のワイン』は続いたのに。


元侯爵のプロパン伯爵は自分の地位の為に虚偽をした訳ではなかった。いつ何時何があっても領民を護れるように、その思いだった。

プロパン伯爵のように領民思いで悔い改める。高位貴族でも間違いはおこす。それでもあの後の行い、その姿が大事だと思う。罪を認め領民に謝り、そして領民もまた当主を支える。

己の保身ではなく当主として自領の領民を護る。それが貴族の矜持。

ウイング侯爵にも高位貴族としてその姿を見せてほしかった。そして下位貴族に示してほしかった。手本になるように振る舞ってほしかった。



次の日私は昨日の夜会には来なかったウォルダー子爵を謁見の間に呼んだ。


「ウォルダー子爵、大変な時にお呼び出しし申し訳ありません。先ず初めに貴方のご令弟様と使用人のご冥福をお祈りします。そして領主であるご令弟様の迅速な対応で領民の命が助かり、今後の子爵家を支える馬達の命を助け出した勇敢な行動に私はご令弟様と使用人達に敬意を表します」

「ありがとうございます……」


ウォルダー子爵は目に涙を溜めていた。


「そこで子爵、折り入ってお話があります。後日正式に国王からお話がありますが子爵家には国が保有する土地へ移動して頂くつもりです。今の子爵領は国が保有する事になります。領民達、馬共にその土地が子爵家の領地になります。

代々受け継いできた領地を離れたくないと貴方は思うでしょう。そこで暮らしてきた領民達もそう思うでしょう。それでも今は心の安定、生活の安定、安定こそが大事だと私は思います。現在身を寄せている伯爵領では先の不安が増すばかりだと思います。天災の被害にあった領地で生活が出来るのか、生活するまでにどれくらいの期間が掛かるのか、心の不安を取り除く為にも貴方も領民達も今は新しい土地で頑張りませんか?新しい土地を故郷としませんか?」

「はい」

「そしてここからが大事な話です。ウイング侯爵領とは隣同士でした。ウイング侯爵領に親兄弟がいる者もいると思います。その者達の親兄弟を新しい土地で受け入れる事は可能ですか?」

「全員は無理です」

「それは勿論です」

「ですが領民達が親兄弟と暮らしたいと言うのなら受け入れるのは可能です。弟が護った領民達です。領民達の幸せを一緒になって喜んだ弟が護った領民達です。私は弟のその思いを守らないといけないと思います」

「ありがとうございます。では早急に領民達に聞いて受け入れるかどうかを決めてお知らせ下さい」

「分かりました」


子爵が帰り私は一人謁見の間に残った。

子爵家が受け入れられない領民達をどうするか。お父様に頼み公爵領で受け入れるのは可能だけど今後同じ状況になった時に毎度公爵領に受け入れる事は不可能。

今後、天災が起こらないという確証が持てない。


ウイング侯爵が見捨てた領民達の流行り病が治れば侯爵領から追い出されるかもしれない。今更流れ者ではなかったとは言えない。

秘密裏と言っても辺境、男爵領を経由して入り、プロパンス地方の貴族達は穀物が何処に渡っているのかくらいは分かる。公爵家2家が関わり、今更領民です、なんて都合のいい話にはならない。そんな事を言えば何故流行り病が流行する前に薬を準備しなかった、直ぐに国へ報告しなかった、と侯爵が叩かれる。

それが分かれば侯爵は降格。

領民を見捨て領主が逃げた段階で見捨てる事を決めた。


生活が出来ないと盗賊になる者も出てくるかもしれない。それだけは絶対に避けないといけない。悪いのはウイング侯爵当主なのだから。

犠牲になるのはいつも弱い平民。

この国を支える底辺。平民の底力がこの国を、我々を支えている。

だから私は平民を護らないといけない。


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