13 / 107
12 23歳 ⑥
しおりを挟む遠くで他の貴族と話す姿を見かけ私は急いで向かった。
「ウイング侯爵、貴方が何故夜会に来ているのです。今、侯爵領が大変な時に夜会ですか」
「王妃殿下、妃殿下が何をおっしゃりたいのか分かりませんが、天災の被害には合いましたが我が侯爵領の領民は皆元気です。大変な時と言いますが我が侯爵領は平穏を取り戻しました。変な言い掛かりはやめてもらえますか」
「被害にあった侯爵領の事を言っています」
「被害?ああ、あの地は元々必要のない土地、今後平地にし使用しない土地にします」
「では見捨てると」
「見捨てるなど、被害を免れ残った半分の土地で十分利益は出ますから」
「今現在あの土地にいる領民はどうするおつもりです?」
「領民?領民は全て助かりましたと先程言いましたよね。もしあの地に住んでる者がいたら、それは私の領民ではありません。よそから流れてきた流れ者です。きっと隣接する子爵家か男爵家の領民だと思いますよ。領民の管理くらいはしてほしいものですが」
「流れ者、そうですか、貴方の主張は分かりました」
あの地に残った領民をこの人は見捨てた。領民を護るべき当主が、侯爵がこれで良いのか…。
この国の侯爵はろくでなししか居ないのね…。
エンナリー侯爵は自分の地位が今後も守れるように。『王家のワイン』その事が侯爵の誇り。己の誇りを守る為に虚偽をした。虚偽をせず正直に申告していたら、今年は不作だから他家のワインをと言ったのなら、これからも侯爵の誇りも守れ『王家のワイン』は続いたのに。
元侯爵のプロパン伯爵は自分の地位の為に虚偽をした訳ではなかった。いつ何時何があっても領民を護れるように、その思いだった。
プロパン伯爵のように領民思いで悔い改める。高位貴族でも間違いはおこす。それでもあの後の行い、その姿が大事だと思う。罪を認め領民に謝り、そして領民もまた当主を支える。
己の保身ではなく当主として自領の領民を護る。それが貴族の矜持。
ウイング侯爵にも高位貴族としてその姿を見せてほしかった。そして下位貴族に示してほしかった。手本になるように振る舞ってほしかった。
次の日私は昨日の夜会には来なかったウォルダー子爵を謁見の間に呼んだ。
「ウォルダー子爵、大変な時にお呼び出しし申し訳ありません。先ず初めに貴方のご令弟様と使用人のご冥福をお祈りします。そして領主であるご令弟様の迅速な対応で領民の命が助かり、今後の子爵家を支える馬達の命を助け出した勇敢な行動に私はご令弟様と使用人達に敬意を表します」
「ありがとうございます……」
ウォルダー子爵は目に涙を溜めていた。
「そこで子爵、折り入ってお話があります。後日正式に国王からお話がありますが子爵家には国が保有する土地へ移動して頂くつもりです。今の子爵領は国が保有する事になります。領民達、馬共にその土地が子爵家の領地になります。
代々受け継いできた領地を離れたくないと貴方は思うでしょう。そこで暮らしてきた領民達もそう思うでしょう。それでも今は心の安定、生活の安定、安定こそが大事だと私は思います。現在身を寄せている伯爵領では先の不安が増すばかりだと思います。天災の被害にあった領地で生活が出来るのか、生活するまでにどれくらいの期間が掛かるのか、心の不安を取り除く為にも貴方も領民達も今は新しい土地で頑張りませんか?新しい土地を故郷としませんか?」
「はい」
「そしてここからが大事な話です。ウイング侯爵領とは隣同士でした。ウイング侯爵領に親兄弟がいる者もいると思います。その者達の親兄弟を新しい土地で受け入れる事は可能ですか?」
「全員は無理です」
「それは勿論です」
「ですが領民達が親兄弟と暮らしたいと言うのなら受け入れるのは可能です。弟が護った領民達です。領民達の幸せを一緒になって喜んだ弟が護った領民達です。私は弟のその思いを守らないといけないと思います」
「ありがとうございます。では早急に領民達に聞いて受け入れるかどうかを決めてお知らせ下さい」
「分かりました」
子爵が帰り私は一人謁見の間に残った。
子爵家が受け入れられない領民達をどうするか。お父様に頼み公爵領で受け入れるのは可能だけど今後同じ状況になった時に毎度公爵領に受け入れる事は不可能。
今後、天災が起こらないという確証が持てない。
ウイング侯爵が見捨てた領民達の流行り病が治れば侯爵領から追い出されるかもしれない。今更流れ者ではなかったとは言えない。
秘密裏と言っても辺境、男爵領を経由して入り、プロパンス地方の貴族達は穀物が何処に渡っているのかくらいは分かる。公爵家2家が関わり、今更領民です、なんて都合のいい話にはならない。そんな事を言えば何故流行り病が流行する前に薬を準備しなかった、直ぐに国へ報告しなかった、と侯爵が叩かれる。
それが分かれば侯爵は降格。
領民を見捨て領主が逃げた段階で見捨てる事を決めた。
生活が出来ないと盗賊になる者も出てくるかもしれない。それだけは絶対に避けないといけない。悪いのはウイング侯爵当主なのだから。
犠牲になるのはいつも弱い平民。
この国を支える底辺。平民の底力がこの国を、我々を支えている。
だから私は平民を護らないといけない。
5
あなたにおすすめの小説
忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子
水空 葵
恋愛
公爵令嬢のシルフィーナはとあるパーティーで、「忌み子」と言われていることを理由に婚約破棄されてしまった。さらに冤罪までかけられ、窮地に陥るシルフィーナ。
そんな彼女は、王太子に助け出されることになった。
王太子に愛されるようになり幸せな日々を送る。
けれども、シルフィーナの力が明らかになった頃、元婚約者が「復縁してくれ」と迫ってきて……。
「そんなの絶対にお断りです!」
※他サイト様でも公開中です。
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します
凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。
自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。
このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく──
─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる