悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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26 始まりの時

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1ヶ月かけ子爵領へ向かう。ローレン隊長が宿の手配をし宿に泊まりながら子爵領を目指す。今回私の世話係としてメイドのミーナだけを連れて来た。

ミーナは元々伯爵家のメイドだった。まだ私が公爵令嬢だった時に孤児院へ行く途中に知り合った。体に痣をつくり足を引きずって歩いている所を街で見かけ声をかけた。初めは何も話さなかったミーナを説得し、泣きながら伯爵に鞭で打たれると教えてくれた。それから伯爵家を辞めさせ公爵家で雇った。アルバートと婚姻し王宮に嫁ぐ時にミーナは私に付いて来た。それから私付きのメイドとして今も私の側でお世話をしてくれる。

1ヶ月の長旅が終わり子爵領へ着いた私達は領主の邸で暫く暮らす事になる。元々子爵の従兄弟が領主をしていて今も領地に残っている。


「貴方がハミルね。子爵の事は聞いてる?」

「妃殿下、この度は当主がとんでもない事をしました」

「それはもう良いの。それよりも子爵を安らげる所に眠らせてあげたいの。何処か良い場所はある?」

「捨て置かれても仕方がない亡骸をわざわざこちらまで…。ありがとうございます。ありがとう…ううぅ…ござい、ます……」


涙を流す領主が落ち着くまで待った。


「すみません、取り乱しました。では領地を見渡せる丘に。当主は領地へ来るとそこにいつもいました」

「そう、ならそこに案内してもらえるかしら」

「はい」


ハミルは馬に乗り、私は荷馬車を御者しているテオの横に座った。

少し離れた小高い丘に着き、騎士達が穴を掘る。ローレン隊長が領地に咲く花を摘み後から追いついた。

騎士達が掘った穴に子爵を寝かせ土をかける。その上にローレン隊長が摘んできた花を置いた。

私は地面に両膝付いて座り子爵が眠る土の上に左手を置き右手を胸にあて目を閉じた。


(王にはなれないけど、それでも私の信じる道を歩いて行くわ。それに強くなる。私がいつかお空に行った時貴方に誇れるように頑張るから。貴方の好きな領地で安らかに眠れるように祈ります…)


「妃殿下」


ローレン隊長の声に軽く土を払い立ち上がる。

そこから見渡せる領地を眺めた。他の子爵領よりも少ない領民達の住む家が点々とある。


「あの妃殿下、こんな事妃殿下に聞く事ではないのは重々承知していますが、他の親族の亡骸はどこにありますか」

「詳しい話は邸に戻って話しましょう」

「はい」


邸に戻り領主と向かい合い座る。


「ハミル、貴方にも関係のある事だから説明をするわ。子爵以外の王都に住んでいた者達は全員内密にこの国を出る為に今は隣国との国境の辺境へ向かっています。きっと辺境へもう着いて隣国に入国していると思うわ。隣国から帝国へ入国してもらいディモルト男爵領へ向かっています」

「ディモルト男爵領といえば粘土の取引先です」

「ええ、そこにここの子爵領民も行ってもらうつもりなの。元々住んでる男爵領民には粘土の採取を、子爵領民には新たな地で陶器職人になってもらうつもりよ。男爵当主は子爵の子息がなるわ」

「え?」

「ディモルト男爵は私なの。私の爵位を子息に継いでもらうのよ」

「夢を見ているみたいですが、それならここの領民達も直ぐに帝国へ移動させるという事ですか」

「そう。でも少しづつね。一気に居なくなるのも他の貴族の手前ね…。男爵は誰だってなっても困るから。それと領民には子息が男爵当主とは言わないで。彼等はこの国を出た時にこの国の名は捨ててもらったの。それに生きてると分かるのは、分かるわよね」

「はい。皆の命をお救い下さり感謝しかありません」

「領民には私から明日説明するわ」

「分かりました。明日領民を集めます」

「ただ、もうこの国にはもう帰って来れないの。この国に一歩も入る事は出来ないわ。子爵の親族が生きていた、なんて噂になっては駄目だから。だからもし恋人がこの国にいて離れたくないならこの国の違う領地へ行ってもらうことになる。そこは了承してもらってもいいかしら」

「分かりました」

「貴方も混乱しているだろうから明日また話しましょう」

「はい、ありがとうございます」


私は1階の客間に案内され、騎士達は少し狭いけど一部屋に数人で寝泊まりする事になった。


コンコンコココン コン

夜、客間の窓を叩く音がしてカーテンを開ける。


「どうしたの?」

「王宮では側室を、とフォスター公爵が声をあげ、お父上のルヴェンド公爵とシャドネー公爵、公爵夫人が反対の声をあげています。法で定められていると今の所はなんとか…。ですがそれも、」

「そうね時間の問題ね。わざわざ遠い所までありがとう。私がアルバートの近くにいないからこの機会を狙ってくるとは思っていたわ。想定内といえば想定内ね。また詳しく分かったら教えて頂戴」

「はい、では…」

「あ!そうそう、この辺で帝国まで出稼ぎの人達を運ぶ荷馬車を生業にしてる人を知らない?」

「知ってますよ。手配します」

「お願いね」


私の情報員の一人で商人。街から街へ自由自在に行き来が出来る商人は情報には敏感だし情報屋にもってこいなの。



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