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かなり酷いようで
しおりを挟む「…………もう副隊長ではない」
重い口を開いたリーストファー様。
「剣を振れない、一人で立つ事も歩く事も出来ない。騎士には……もう、戻れない」
怪我が酷いとは聞いていたけど。
「剣を振れないとは?」
「足もだが腕も怪我をした」
さっき私に向かって投げた枕は私が女性だから当たらないようにしたと思ったけど、違った?騎士のリーストファー様が私に当てれないほどに腕の怪我は重傷だったって事?
足はあの謁見の間で見て分かるけど。
「見せて下さい」
私はリーストファー様の服を無理矢理脱がした。上半身に包帯が巻かれ所々血が滲んでいる。まず肌が見える所がない。顔にもガーゼに覆われている傷があるのは知っていたけど…。
私は驚き言葉を失った…。
静寂に包まれた部屋の中。寸刻だとしても数刻にも感じるほど。
それでも…、
「リーストファー様、どんな形であれ私は貴方の妻です。それを忘れないで下さい」
「もう良いだろ」
私は服を戻した。
はあぁぁ…、こんなに酷いとは…。
ベッドから起き上がらないのではなく起き上がれない。それに騎士として今まで歩んできたリーストファー様にとって騎士に戻れない事は幼い頃から剣と共に生きてきたこの人に死ねと言ってるようなもの。
きっと大勢の友を失い騎士として生きる道を失い今までのように動かない体に、生きる希望を失った。
何も知らない私は『また騎士に戻れます』そう簡単に言える。怪我を治せば王宮軍ではなくても騎士は続けられると。でも彼は自分の体だから分かる。騎士としてもう使いものにならない体だと。腕が治っても以前のように剣を振る事はできない。そして杖なしでは歩けない足は騎士として致命傷。
騎士以外の道はない、幼い自分で決めた騎士の道。幼い頃から親元離れ辺境で騎士になる為に育った彼にとって騎士を続けられない現実は諦めと絶望。
目の前には名ばかりの赤の他人の妻。
それでも望んだのは……きっと王太子殿下を恨んでいるから。
机上の空論を戦場で我が物顔で振るだけ振って王宮へと帰って行った。
きっとそう。
私だって机上の空論は出来る。敵の騎馬隊の馬を矢で射る。馬が使えなければ歩兵のように地面の上で戦うしかない。騎馬なら歩兵を蹴散らす事も槍で突く事もでき敵国の兵士を減らす事が出来る。一斉攻撃の弓矢を浴びた時逃げるにも馬の方が早い。
騎馬隊は逃げる時歩兵を守らないといけない。それでも戦場で弓矢の雨が振る時に己の身を守る為に歩兵を気にしてはいられない。歩兵のほとんどが平民で馬には乗らない。騎馬隊は武術に長けている者が多い。騎馬隊は戦術には要だから。歩兵を蹴散らしいかに敵陣へ入っていけるかは騎馬隊にかかっている。
でも人と人とのぶつかり合いの戦場で戦場を知らない私の机上の空論は理想論に過ぎない。敵の後ろを取ればいい、身を隠して敵陣へ入ればいい、そんなのが通用すれば戦は直ぐに終わる。一刻一刻で変わる戦況を瞬時に判断し戦術を変える、それが戦術家。時に退却も立派な戦術。
でも殿下の机上の空論は攻めて攻めて攻め続ける。攻めるのも戦術ではあるけど攻め時がある。今ここで、そういう時には良いけど…。殿下の机上の空論の木の駒は敵国が直ぐに落ちる。確かに穴はあるかもしれない。それでも人が戦う以上いつも以上の力を発揮する時はある。仲間の死が引き金になり、きっとリーストファー様のように…。
辺境へ向かう殿下はこう言った。『どうして5年もかかる戦をしている。こんなの直ぐに決着がつくはずだ』
だから私は『殿下知っているとは思いますが5年間ずっと戦をしている訳ではありません。両国は戦、休戦を繰り返しています。長い時で1年休戦した時期もありました。決着が中々つかないのは両国共に五分だからです。力も騎士兵士の数も戦術も両国共に差がないから拮抗しているんです。だから時には退却し撤退しもう一度策を練り直すから長きに渡る争いになっているんです』そう言った。
『そんな事言われなくても分かってる。それでも5年もかける必要はない』
『殿下、陛下もおっしゃりましたが殿下は騎士兵士に激励をしに行くんです。長きに渡る争いに皆が疲弊しています。騎士達兵士達を労い声を掛け士気を上げる為に殿下は辺境へ向かう事をくれぐれもお忘れなく』
『分かってる』
殿下の護衛騎士達は言っていた。殿下は騎士兵士の士気を上げたと。でもロータス卿と言い争う事もあったと。
それでもロータス卿は殿下の理想論を鵜呑みにはしない。戦のいの字も分からない殿下は王宮へお帰り下さい、そんな言い争いをしていたかもしれない。
意見を出し合うのが悪いとは思わない。思わないけど空論を意見と言えるのかは別。
目の前のリーストファー様とどう会話をすればいいのか私にも分からない。
妻になるのは決まっていてもまだ婚姻証明書も書いてもいない。
早く領地へ行きたいと思っていても今のリーストファー様の体を見ても行ける状況ではない。
それに、あの地へ行くには心が強くないといけない。
私はどうしたらいいの?
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