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とりあえず会話から
しおりを挟む私は毎日リーストファー様の部屋に通った。追い出される時もあれば一緒に過ごす時も増えた。
「自分で食べれる」
今はベッドの横に椅子を置いてリーストファー様に昼食を食べさせている。
「あら旦那様のお世話をするのは妻の役目ですのよ?」
私はにこっと微笑み匙を口元へ持っていく。そうすると嫌々ながらも口を開けてくれる。
私は毎日通うと決めた時にどんな言葉をかけられてもどんな態度を取られてもいつも笑っていようと決めた。
昼食が終われば窓から入る心地良い風に二人の髪が同じようにふわりとなびく。
「リーストファー様、私達はお互いの名は知っていても接点もない赤の他人です」
「ああ」
「それでも縁あって夫婦になります」
何も答えないリーストファー様。
貴方が妻にと言ったのに…。
「毎日少しづつ会話をしましょう。お互いの事を少しづつ知っていきましょう」
リーストファー様の答えを待たずに私は自分の事を話しだした。幼い頃から殿下の婚約者になるまで。
「弟がいるのか」
「はい、2歳年下です」
「仲は、良いのか」
「ええ可愛い弟ですもの。リーストファー様もお兄様と仲が良いのですか?」
「いや、俺は…」
侯爵家に通い気付いた事がある。誰もリーストファー様の部屋に来ない。メイド達は食事を運んだり水差しを替えたり私の飲み物を持って来てくれるけどご両親もお兄様も会った事がない。勿論私が部屋にいるから、そうとも思ったわ。でも出迎えてくれるのもお見送りしてくれるのも執事とメイド。ご両親とは初日だけしか顔を合わせていない。お兄様とはまだ一度も会った事がない。お兄様がこの侯爵家にいないのかもしれないけど。
「リーストファー様は何歳の時に騎士を目指したんですか?」
「4歳だ」
「幼いのに素晴らしいですね」
「そんないいもんじゃない。騎士しか選択がなかっただけだ。
父上に『この家にお前の居場所はない。お前は剣と共に生きろ』そう言われた」
「お父様は幼いリーストファー様に道をお示しになられたんですね」
そんな訳がない。幼い我が子に、まだ自分の意思もころころと変わる4歳児に道を示したんじゃない、厄介者と追い出しただけだわ。
「父上は跡継ぎだけがこの家に必要だと思う人だ」
よくある話ね。お兄様は跡継ぎとして必要な人で次男のリーストファー様はこの家には必要ではない人。一人しか跡は継げない。嫡男主義の男性は多い。お兄様はきっと大切に育てられた。
でも見方を変えると同じ家で同じ両親から生まれた兄弟で一人は大切にされ一人は大切にされない、それを何年と体験するのは心に傷を残す。剣と共に生きろも騎士なら功績次第で爵位を授与される可能性はある。侯爵家にはリーストファー様に譲る爵位がないのだから。
それでも幼い、まだ4歳の幼子にかける言葉ではない。まだ4歳なら親から無条件に愛されて育つ時期。そんな時期に『剣と共に生きろ』は親に見放された、そう思ったかもしれない。自分はこの家に必要ではなくこの家に居る場所もない。4歳で自分の生きる道を見つけないといけないなんて…。
皆それぞれ自分の生きる道を見つける。文官になるにしても騎士になるにしても、それでもまだもっと先の話。
それに侯爵家は文官家系。騎士家系は幼子の時から剣を持たせ稽古をさせると聞いた。でもそれは周りの環境も大きい。生まれた時から剣が側にあり遊び道具も木刀だと聞いた。庭で走り回り木に登り幼子の時から遊びながら体を作る。そして自然と目に入る騎士達の稽古を遊びの一貫として真似をする。
文官家系から騎士になんて何も分からない所に放おり出すようなもの。
「母上は父上に逆らえない」
それもよくある話ね。私のお母様はお父様に遠慮なく意見を言うわ。それにお父様を立てているけど怒ると怖いのはお母様の方。
家と家の繋がりの婚姻が主のこの国でどちらが家として上か、そして下の家は弱い立場になる。
でもそれも家によって考え方が違う。お父様は例えお母様の家が下だとしてもお母様を下とは見ていない。夫婦は上下ではなく対だとお父様は言う。
アンセム侯爵は家の立場が夫婦の立場だと思う人。でもそう思う男性が多いのも事実。初顔合わせの時、侯爵夫人は一言も話さなかった。それが侯爵家を表している。
「辺境にはいつ行かれたのですか?」
「5歳だ。辺境伯は孤児の幼い子供を集め幼い頃から騎士になるように育てていた。いずれ辺境を守る屈強な騎士になれるようにと。俺もそこで騎士として育った」
孤児なら自分の生きる道を指し示す事になる。孤児は平民の中でも底辺。それに騎士として育てるのなら衣食住は約束される。大人の中で子供として育つ事も出来る。周りの大人は全てが父親のようなもの。
孤児は親がいないそれだけの事なのに親がいないという事が大きい。親の背中を見て育つ、親が汗水垂らし働く生活は自分も同じように生活する道標。でもそれは生活出来るだけの家や畑があるから。孤児は初めから家も畑も何一つ持っていない。
騎士になるように育て、育った辺境を守り一緒に過ごした父親代わり兄代わり弟代わり、そして友を守る為に強くなろうと思う。
それでもリーストファー様は孤児ではない。本当のお父様もお母様もお兄様もいる。
例え育った環境は孤児に近いとしても。
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