褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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初夜はいずれまた

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「お体が治ったら邸の至る所にある絵を探されてはどうですか?」

「良いのか?」

「この邸はもうリーストファー様の邸でもあるんです。入っていけない所はありません。自分の邸を歩くのに許可は必要ありませんよね?」

「そう、だな…」


早く心休まる邸になってほしいと心から思う。

部屋に案内しリーストファー様はベッドで横になった。

私はベッドの脇に椅子を置き座った。


「はあぁぁ……」


リーストファー様は大きな溜息を吐いた。


「痛いですか?」

「痛くないと言えば嘘になる」


横になるリーストファー様の額には汗の粒が無数にあり、粒が合わさり頬を伝う。

私は柔らかいガーゼを手に取り汗を拭いた。


「お、おい、いい、自分でやる」


リーストファー様は私の手からガーゼを取ろうと手を伸ばした。私は横になるリーストファー様の手が届かないように腕を伸ばした。


「夫の汗を拭くのは妻の特権です。リーストファー様は大人しくしていて下さい」


リーストファー様は伸ばした手をベッドに寝かせた。私は優しく汗を拭いた。


「大の大人が恥ずかしいな…」

「こんな小娘に世話をやかれて、ですか?」

「それもあるが、妻という言葉がだ」

「私はリーストファー様の妻ですもの」

「ああ、俺は夫だ。こんな俺が夫か……」


リーストファー様は自嘲するような薄笑いを浮かべた。私はそれに気づかないふりをした。


「汗を拭うのも妻の役目です。そして貴方を支えるのも妻の役目です。妻の私に何でも言って下さいね?」


私はリーストファー様に微笑んだ。


「こんな体じゃあ夫の役目も出来ないな…」

「初夜ですか?初夜はリーストファー様のお体が治ってからにしましょう」

「ち、ち、違う。こんな体じゃあ働けないという事だ」


リーストファー様は真っ赤な顔を私に見せないように反対側に顔を背けた。

こういう所が可愛らしいと思うのよね。

初夜の仕方や流れ、妃教育の一環として教わった。実際に経験した訳ではないけど、どうするかは知っている。その役目も。


「ですが初夜は必要ですよ?私達は夫婦になり私には妻の役目もあります。夫の子を産むのは妻の役目です」

「初夜は…、しない」

「では私は今から邸を出て行きます」


リーストファー様は背けていた顔を私に向けた。


「なぜ出て行く。出て行くのなら俺だ」

「リーストファー様私達は夫婦になりました。そしてこの邸の旦那様はリーストファー様」


私はあえて主とは言わなかった。この邸の主は私。だから旦那様と言った。


「紙切れだけの夫婦は夫婦とは言いません。初夜が行われ初めて私は名実共に貴方の妻になり女主人としてこの邸で暮らせます。

リーストファー様が初夜はしないと言うのなら私は紙切れだけの妻。紙切れだけの妻に誰が従いますか?紙切れだけの妻は奥方とは扱われず居候と同じです。

なら妻でない私は出て行くしかありません」

「そういうものか?」

「妻とはそういうものです。ですから初夜はいずれまたにしましょう。今はお体を治すのを優先させましょう」

「ああ」

「リーストファー様は見たくないですか?」

「なにを」

「私が貴方の手によって花開くその姿をです。どのように花が咲くか気になりませんか?」

「か、揶揄うな」

「ふふ」


真っ赤な顔をしてまた顔を背けたリーストファー様。

私はリーストファー様のその顔が見たいの。いつも険しい顔をしているリーストファー様の素の顔だと思うから。


「お食事はこちらに運びますね」

「頼む」

「あ、それと、医師の診察を受けてもらいます。今日は邸で待機して頂くつもりです」

「必要ない」

「いいえ、今まで横になっていた貴方が今日は馬車に乗り無理して歩いたんです。どこかを痛めたかもしれません。それを確認するだけです」

「だが」

「夫を心配する妻を安心させると思って診察を受けて頂けませんか?」

「分かった」

「ありがとうございます。あと、」

「まだあるのか?」

「では一つだけ。今朝荷が届いたと聞きました」

「ああ、新たに買った。俺は軍服しか持っていない。騎士に戻れない以上もう必要がない物だ、この家に持ってきても邪魔になる」

「だから杖だけだと?」

「元々あの家に俺の物はない。これからは普通の服を着て生活しないといけない。だから買った、それだけだ。

あ、俺からも」


リーストファー様は服の中からお金を取り出した。


「手持ちはこれだけだがまだ蓄えはある。これからの生活に使ってほしい」

「ありがとうございます。では手持ち分だけ、大切に使わさせて頂きます」

「軍に行けばまだある。全部合わせれば当分暮らせると思う」

「王宮軍にあるお金はリーストファー様がご入用の時の為に、ご自身の手元に残しておいて下さい。これからの生活で必要なお金はもう手元にありますから。

荷の荷解きはメイドに任せて頂けますか?」

「ああ、任せる」


リーストファー様は目を閉じた。私は部屋から出ようと扉まで行き振り返った。


「あ、そうそう、私の部屋は二階にあります。いつでもお越し下さいね」

「い、行かない、行かないぞ」


私はそのまま微笑んで部屋をあとにした。

リーストファー様の荷解きをニーナに任せ自分の部屋に戻った。



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