褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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新居へ引越しします

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王宮の帰りに侯爵家へ寄り、リーストファー様と一緒に私達の新居へ向かった。

馬車にゴトゴト揺られ、目の前に座るリーストファー様を見つめる。リーストファー様は馬車の窓から外を眺めている。


侯爵家を出る時、もう戻らないというのにお見送りは執事とメイド達だけだった。2階の窓から眺めているお義母様の姿は見かけたけど…。

誰の手も借りず、杖を突いて歯を食いしばり、一歩一歩とゆっくり歩くリーストファー様。私は馬車の前で立ちその姿を見つめていた。

リーストファー様は馬車に乗り込む時だけ、執事の手を借りて乗り込んだ。


「やっぱり馬車は遅いな」


独り言のように呟いたリーストファー様。今まで馬に跨り移動していた人には、ゆっくりゆっくり進む馬車は遅いと感じるだろう。

私からしてみれば、快適とは言わないけど座っているだけで目的地まで運んでくれる馬車は便利だと思う。今はリーストファー様を乗せているからいつも以上にゆっくりではあるけど。

妃教育の一環として、私もゆっくりではあるけど乗馬し歩いた事はある。いつもより高い目線、体はぐらぐらと揺れ、不安定な馬上に私は落ち着かなかった。騎馬隊はよくこれで剣が扱えるわね、と感心したほど。

私はやっぱり馬車の方が落ち着くわ。


馬車が止まり、外から扉が開けられ、私は騎士の手を借りて馬車から降りた。リーストファー様も騎士の手を借りて馬車から降りてきた。


「お、おい」

「はい何でしょう」

「邸は小狭いと言っていなかったか」

「公爵邸に比べれば小狭いですよ?」

「そこは公爵邸と比べる所じゃないだろ。それに俺達はアンセムを名乗れても平民のようなものだぞ。それに騎士を続けられない以上給金だって減る」

「そこはリーストファー様のお体が治ってからご説明しますわ。今はお体を治す事だけを考えましょう」

「だが」

「もう中に入りませんか?」


私は先に邸の中に入って行った。私の後をゆっくりと歩くリーストファー様。

玄関にはメイド達が待っていてくれた。


「お帰りなさいませ、奥様」

「出迎えありがとう。ニーナ、私の荷物は?」

「荷解きは終わっております」

「ありがとう」


ニーナは公爵家で私付きのメイドだった。私がこっちへ来ると決めた時、一緒に付いてきてくれると言ってくれた。ニーナにはメイド長としてメイド達をまとめてもらうつもり。


「ニーナ、リーストファー様の荷物は?」

「今朝、商会から服などの荷物が数個届きました。勝手に荷物に触れる訳にはいきませんから、そのまま置いてあります。旦那様のお部屋は一階にご用意しましたがよろしかったでしょうか」

「ええありがとう。階段の上り下りはまだ辛そうだから暫くは一階で過ごしてもらうわ」


ニーナと話していたらリーストファー様が玄関に入ってきた。


「お帰りなさいませ、旦那様」


驚いた顔をしたリーストファー様。


「リーストファー様、メイド長のニーナです」

「ああ、よろしく頼む」

「よろしくお願い致します」


ニーナも紹介したし部屋を案内して私も自分の部屋を見たい。


「リーストファー様のお部屋は一階にご用意しました。お体が治り次第二階に移りましょう。お部屋にご案内しますね、今は横になってお体を休めて下さい」

「助かる」


今までベッドで横になっていた人が馬車に乗り歩いたんだから疲れているはず。早く横になってゆっくりと過ごしてほしい。


「ではご案内しますね」

「ああ」


カツンカツンと杖の音が響き、ゆっくりと歩いているのが分かる。時折痛みを我慢する声が漏れ、それでも誰かの手を借りようとはしない。

カツンカツンと鳴っていた杖の音が止まり、私は振り返った。リーストファー様は立ち止まっている。


「これ、へったくそな絵だな」


壁に飾ってある絵を見ているリーストファー様。


「ええ、下手くそですね」

「でも自由だな」

「自由ですか?」

「それになんだろう、この絵を見ていると温かい気持ちになる」

「ええ、私もそう思います」

「それに懐かしい…」

「懐かしい、ですか」

「辺境を思い出す。この絵を見ていると遊んだ森や登った木、その光景が思い浮かぶ」

「それはそうかもしれませんね。この絵はとある領地の絵です。その領地は辺境に近く自然豊かな領地だったと聞きました。

この絵を描いた者は、この絵を贈られた者が育った領地の絵を描きました。この邸には領地の絵が至る所に飾ってあります。この邸は思い出したくない過去のしがらみではない、自由に羽ばたいていた領地だと。絵を描いた者の心が詰まっているから見ていて温かいと感じるのかもしれませんね」

「誰が描いたんだ?」

「お祖父様です。そしてこの邸はお祖母様の邸でした。ここで暮らしていた訳ではありませんが、それでももしこの邸に足を踏み入れた時に、この絵で少しでもお祖母様の心が穏やかになればと、お祖父様は邸の至る所に絵を飾りました。実際お祖母様がこの絵を見たのかは知りませんが」


お祖父様の絵を飾ったままにしたのはリーストファー様の癒やしになればいいと思ったから。穏やかに暮らせるようにと。

伯爵家が没落し領地の半分が辺境伯の領地になったと聞いた。小競り合いが続く辺境で森は身を隠せる場所になる。木々が生い茂る場所は、戦うには不利でも森を知り尽くす辺境の騎士なら待ち伏せるには有利な場所。

辺境から続く森の一部が伯爵家の領地だった。場所は違えど同じ森、懐かしさを感じると思う。

ただ本当に下手くそな絵なの。



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