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託す思い
しおりを挟む私はリーストファー様越しの空を眺めた。
きっとリーストファー様を天から見守っているだろう大勢の方々へ祈る。
戦場で命を落とせ本望だと思う人も、まだ生きたかったと未練を残し旅立った人も、理不尽な死を覚悟して敵に向かい戦った人もいると思う。
それでもその人達は復讐を果たしてほしいと望むのだろうか。
もし、復讐を果たしてほしいと望んでいる人がいるのならごめんなさい。私はリーストファー様の復讐をここで止めたい。
私は目を閉じた。
目を開けリーストファー様を見つめる。
「リーストファー様、生きるには生きる希望が必要です。先に旅立った者には生き残った者へ託した思いがあります。それは復讐なんかじゃない。自分の分まで生きてくれ、そうではありませんか?
貴方が天に召された者達と同じ立場に立った時、生き残った者へ託す思いは『俺の分まで生きてくれ』そうではないんですか?貴方は家族や友、兄弟達に復讐を望みますか?」
リーストファー様と見つめ合う。
「貴方には貴方を家族だと友だと兄弟だと慕った人達が大勢いました。同じ境遇で同じ環境下で彼らと共に育ち共に過ごす日々は貴方にとってかけがえのない時間だったと思います。彼らの死が貴方に暗い影を落としたのも事実です。
ですが、今は貴方を慕う私や公爵家の家族、使用人達がいます。貴方はもう孤独じゃない。
よく考えて下さい。貴方の家族や友が、貴方の兄弟が復讐を望むような人達でしたか?貴方を孤独に追い込み恨み憎み続けてくれと願う人達だったんですか?貴方の不幸を望む人達だと貴方は思いますか?
もしかしたらお前だけどうして生き残ったと、どうしてお前だけ幸せになれるんだと、そう妬む人はいるのかもしれません。でも私はそう思いたくない。家族だと友だと兄弟だと思っている者へ託す思いが妬みだなんて悲しすぎます。貴方に託す思いが復讐だなんで辛すぎます。
私がもし誰かの手によって理不尽な死を迎えたとしても私は復讐を望みません。貴方にもお父様にもお母様にもライアンにも使用人達にも復讐をしてほしいなんて望みません。
犯人を捕まえてほしいとは望みます。そして法に基づき罰を与え生きて罪を償ってほしいとは思いますが、敵を討つのは貴方の手ではなく法で討ってほしい。
そして私は望みます。私が愛した人達には生きてほしいと幸せになってほしいと。
私が残された者達へ託す思いは幸福になってほしいそれだけです。きっと天に召された彼らも貴方には幸福になってほしいと願っているといると思います。今も天から貴方を見守り続けていると思いますよ?」
私は見つめていたリーストファー様から視線を外し窓から見える空を見つめた。リーストファー様も振り返り私の視線の先の空を見つめた。
「これは私の勝手な願望ですが、生き残れて良かったな、嫁さんもらって良かったな、俺達の分まで幸せになれよ、そう今も見守ってくれていると良いなと思っています」
彼らがリーストファー様に託した思いは彼らにしか分からない。生き残ったリーストファー様にも彼らの思いは分からない。
ただ、理不尽な死に残る感情は無念。
生き残った者が抱く感情は計り知れない。
例え彼らが幸福を望んでいるとしてもそれは自分の都合の良い解釈、そう思う。生きてくれなんて今も生きてる者が勝手に作り出した願望。
でも願望は彼を支える私達の強い願い。
生きてほしい、幸せになってほしい、恨みや憎しみの世界で苦しみ続けるのではなく、助かった命を粗末にせず些細な幸せを積み重ねてほしいと願う願望。
「この青空のように晴れやかな顔で見守っていて下さると私は信じたいです。だって復讐を望んでいるなんて思ったら彼らの人となりを穢す事になりませんか?」
空を見つめたいたリーストファー様は勢いよく振り向いていた体を戻し私を見つめた。私もリーストファー様を見つめる。
「私は彼らではありません。ですがもし復讐を望んでいないのに望んでいると勝手に想像し復讐を果たしたとしたら、彼らは復讐を望む人達だったと人々の心に残ります。
私が彼らの存在を心に残すなら、勇敢な騎士として誇り高き戦士として残したい、そう思います」
復讐はある人には正義になりある人には不義になる。それでもどんな思いがあろうと人に手を掛ければそれば罪。
そしてリーストファー様が処刑を覚悟し殿下や殿下の関係者を殺そうと思っていたのなら孤独でいなければいけなかった。私と縁を繋いではいけなかった。
リーストファー様は立ち上がり窓を開けて空を見上げた。
「そうだな…、俺もあいつらを騎士だと戦士だと残したい。そしてそう残ってほしいと思う…」
私は空を見上げるリーストファー様の後ろ姿を見つめる。震える体、『ゔぅ』と漏れる声、私はただただ見守り続けた。
一人で涙を流すリーストファー様に今必要なのはかけがえのない人達の死を本当の意味で受け入れること。騎士として戦士としての彼らの姿を心に残せばいい。そしたら彼らはあの笑いあった日々のまま貴方の心に居続ける。そしてまた心の中で貴方に笑いかけてくれる。
死に向かう背中も彼らではあるけど、その姿は騎士として戦士として戦う彼らの本来の姿。敵に臆せず戦う勇敢な誇り高き戦士の姿。
きっと後世まで語り継がれる隣国との争いで、彼らは勇敢な誇り高き戦士として語り継がれる。そうでなければならない、そうであってほしいと後世に託す私の思い。
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