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望むもの
しおりを挟む「俺だけ生きていいのか?こんな俺が幸せになってもいいのか?」
リーストファー様は空を見上げポツリと呟いた。
彼らの答えは聞こえない。それでも窓から入る爽やかな風が鳥の囀りが彼らからの返事だと思いたい。都合の良い解釈だとしても。
でもその解釈も受け取る心次第。もうリーストファー様の心には復讐の二文字はないと思いたい。
リーストファー様は椅子に座り私の手を包んだ。
「幸せになってもいいと思うか?」
「ええ、幸せになってほしいとそう伝えていると私は思いました」
「伝えている?」
「雲一つない晴天や窓から入る風や鳥の囀りが皆様に『幸せになれよ』と祝福されているように私は思えるんです」
「そうか…」
リーストファー様は優しい顔で微笑んだ。
「こんな俺が望んでいいのか分からないが」
「リーストファー様、例えリーストファー様自身でも私の愛しい人を『こんな』なんて言わないで下さい。『こんな』には様々な思いが詰まっているとは思います。ですがそれが今のリーストファー様でしょ?リーストファー様は素敵な人です。情に熱く一度情を持った人を大切にする方です。だからいつも苦しんでいたんでしょ?
忘れることはできません。きっとこれからも苦しむと思います。それでも復讐ばかり考えていた頃より今の顔の方が素敵です。
もし誰かが『生きてほしい』なんて貴方の都合の良い幻想だと言っても幻想でもそれを信じればいいと思うんです。リーストファー様の人生はリーストファー様のものです。他人が決める事じゃない、そう思います。
リーストファー様は今のリーストファー様を認めて下さい。私が愛した人は今のリーストファー様なんですよ?」
包み込んでいる私の手にリーストファー様は額を付けた。
「なら、望んでいいのか?俺も愛してると言っていいのか?愛してると言っても許されるのか?」
「許しを請う人が彼らなら私も一緒に許しを請います。もし私なら愛してると貴方の口からその言葉を聞けたら幸せです」
リーストファー様は顔を上げた。そして泣きそうな顔で私を見つめている。
「あ……、あい、してる」
「私も愛しています」
「愛して、る…」
「はい…」
「愛してる」
「はい、私も…、…愛してます」
頬を伝う涙が静かに流れる。どこかで待ち望んでいた言葉。言葉がなくても伝わる思いはあった。それでもいつかは言ってくれると聞きたいと思っていた。
復讐の為に妻にした私に情を移せば復讐を糧に生きてきた彼にとって裏切り行為。それでも人の心は止められない。共に暮らせば情が移るのが人。その情が愛情でも情けでも哀れみでも一度情を移した人を簡単に切り捨てられないのもまた人なの。
それが例え情が憎悪に変わったとしても相手を恨み憎む行為は結局は相手を考えてる事なんだから。本当の意味で情がなくなれば興味すらない。
「なあ」
「あら、もうミシェルとは呼んでくれないんですか?」
私は拗ねたようにリーストファー様に問いかけた。
意識が遠のく時『ミシェル』と私を必死に呼んでいたリーストファー様の声が聞こえた。
「……ミシェル」
照れくさそうな顔をしてリーストファー様は小声で私の名を呼んだ。
「はいリーストファー様」
私は嬉しさを抑えきれず笑みが溢れた。
「ミシェル、ようやく…呼べた……。こんな俺が」
「こんな?」
私はリーストファー様の言葉を遮るように少し怒ったようにリーストファー様を見つめる。
「俺が呼んで良いのか今も分からない」
「どうしてです?妻の名を呼ぶのは自然の事です」
「どうしてって、ミシェルは俺にとって女神だから…」
どんどん小声になっていくリーストファー様。
「女神って、ちゃんと私を見て下さい。私のどこが女神です?」
「俺には神々しく見える。綺麗で優しく慈愛の持ち主で女神以外の何者でもないだろ」
「リーストファー様、呆れてものも言えないとはこの事です。私は女神ではなく妬みもするし恨みもします。妬く事もあるし鬼にも悪女にもなれます。案外私は強かですよ?それにあざといです」
「どこが」
「それは秘密です」
私はにっこりと微笑んだ。
「悪かった…」
「悪かったとは?」
「傷つけるつもりはなかった」
「あれは咄嗟に間合いに入った私が迂闊だっただけです」
「だが」
「ええ、それは貴方を守る為。夫を止めるのは妻の役目です、だからもう謝らないで下さい。同じ言葉なら私は愛の言葉の方が良いです」
「愛してるミシェル」
リーストファー様は私の手の甲に口づけを落とした。
「愛してますリーストファー様」
私は目を閉じた。
いつまで経っても口づけされず私は目を開けた。
「リーストファー様!ここは口づけする所です」
怒ったように言ったのは仕方がない。
『そうか、悪い』と言ってリーストファー様は私の唇に唇を重ねた。
リーストファー様はまるで女心が分からないと言いたげのように頬を指で掻いている。
リーストファー様は令嬢にとても人気があるのに本当に剣と共に生きてきた人なのね。でも私だって唇への口づけはリーストファー様が初めてなのよ?それに閨も…。
殿下は手の甲に口づけはしてもそれ以外に口づけはしなかった。手を繋いだり抱きしめられた事はあったけど、そういう意味では殿下は真面目だった。婚姻後に行う行為を婚姻前にする人ではなかった。初心な一面がある人だった。
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