褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
35 / 152

望むもの

しおりを挟む

「俺だけ生きていいのか?こんな俺が幸せになってもいいのか?」


リーストファー様は空を見上げポツリと呟いた。

彼らの答えは聞こえない。それでも窓から入る爽やかな風が鳥の囀りが彼らからの返事だと思いたい。都合の良い解釈だとしても。

でもその解釈も受け取る心次第。もうリーストファー様の心には復讐の二文字はないと思いたい。

リーストファー様は椅子に座り私の手を包んだ。


「幸せになってもいいと思うか?」

「ええ、幸せになってほしいとそう伝えていると私は思いました」

「伝えている?」

「雲一つない晴天や窓から入る風や鳥の囀りが皆様に『幸せになれよ』と祝福されているように私は思えるんです」

「そうか…」


リーストファー様は優しい顔で微笑んだ。


「こんな俺が望んでいいのか分からないが」

「リーストファー様、例えリーストファー様自身でも私の愛しい人を『こんな』なんて言わないで下さい。『こんな』には様々な思いが詰まっているとは思います。ですがそれが今のリーストファー様でしょ?リーストファー様は素敵な人です。情に熱く一度情を持った人を大切にする方です。だからいつも苦しんでいたんでしょ?

忘れることはできません。きっとこれからも苦しむと思います。それでも復讐ばかり考えていた頃より今の顔の方が素敵です。

もし誰かが『生きてほしい』なんて貴方の都合の良い幻想だと言っても幻想でもそれを信じればいいと思うんです。リーストファー様の人生はリーストファー様のものです。他人が決める事じゃない、そう思います。

リーストファー様は今のリーストファー様を認めて下さい。私が愛した人は今のリーストファー様なんですよ?」


包み込んでいる私の手にリーストファー様は額を付けた。


「なら、望んでいいのか?俺も愛してると言っていいのか?愛してると言っても許されるのか?」

「許しを請う人が彼らなら私も一緒に許しを請います。もし私なら愛してると貴方の口からその言葉を聞けたら幸せです」


リーストファー様は顔を上げた。そして泣きそうな顔で私を見つめている。


「あ……、あい、してる」

「私も愛しています」

「愛して、る…」

「はい…」

「愛してる」

「はい、私も…、…愛してます」


頬を伝う涙が静かに流れる。どこかで待ち望んでいた言葉。言葉がなくても伝わる思いはあった。それでもいつかは言ってくれると聞きたいと思っていた。

復讐の為に妻にした私に情を移せば復讐を糧に生きてきた彼にとって裏切り行為。それでも人の心は止められない。共に暮らせば情が移るのが人。その情が愛情でも情けでも哀れみでも一度情を移した人を簡単に切り捨てられないのもまた人なの。

それが例え情が憎悪に変わったとしても相手を恨み憎む行為は結局は相手を考えてる事なんだから。本当の意味で情がなくなれば興味すらない。


「なあ」

「あら、もうミシェルとは呼んでくれないんですか?」


私は拗ねたようにリーストファー様に問いかけた。

意識が遠のく時『ミシェル』と私を必死に呼んでいたリーストファー様の声が聞こえた。


「……ミシェル」


照れくさそうな顔をしてリーストファー様は小声で私の名を呼んだ。


「はいリーストファー様」


私は嬉しさを抑えきれず笑みが溢れた。


「ミシェル、ようやく…呼べた……。こんな俺が」

「こんな?」


私はリーストファー様の言葉を遮るように少し怒ったようにリーストファー様を見つめる。


「俺が呼んで良いのか今も分からない」

「どうしてです?妻の名を呼ぶのは自然の事です」

「どうしてって、ミシェルは俺にとって女神だから…」


どんどん小声になっていくリーストファー様。


「女神って、ちゃんと私を見て下さい。私のどこが女神です?」

「俺には神々しく見える。綺麗で優しく慈愛の持ち主で女神以外の何者でもないだろ」

「リーストファー様、呆れてものも言えないとはこの事です。私は女神ではなく妬みもするし恨みもします。妬く事もあるし鬼にも悪女にもなれます。案外私は強かですよ?それにあざといです」

「どこが」

「それは秘密です」


私はにっこりと微笑んだ。


「悪かった…」

「悪かったとは?」

「傷つけるつもりはなかった」

「あれは咄嗟に間合いに入った私が迂闊だっただけです」

「だが」

「ええ、それは貴方を守る為。夫を止めるのは妻の役目です、だからもう謝らないで下さい。同じ言葉なら私は愛の言葉の方が良いです」

「愛してるミシェル」


リーストファー様は私の手の甲に口づけを落とした。


「愛してますリーストファー様」


私は目を閉じた。

いつまで経っても口づけされず私は目を開けた。


「リーストファー様!ここは口づけする所です」


怒ったように言ったのは仕方がない。

『そうか、悪い』と言ってリーストファー様は私の唇に唇を重ねた。

リーストファー様はまるで女心が分からないと言いたげのように頬を指で掻いている。

リーストファー様は令嬢にとても人気があるのに本当に剣と共に生きてきた人なのね。でも私だって唇への口づけはリーストファー様が初めてなのよ?それに閨も…。

殿下は手の甲に口づけはしてもそれ以外に口づけはしなかった。手を繋いだり抱きしめられた事はあったけど、そういう意味では殿下は真面目だった。婚姻後に行う行為を婚姻前にする人ではなかった。初心な一面がある人だった。



しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

最愛の聖騎士公爵が私を殺そうとした理由

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 マリアンヌ・ラヴァルは伯爵家の長女として、聖女の血を引いていた。女当主である母が行方不明になってから父と継母とエグマリーヌ国王家の思惑によって、エドワード王子と婚姻を迫られつつあった。それを救ってくれたのは母の祖国にいた本来の婚約者であり、聖騎士団長のミシェルだった。  マリアンヌは愛しい人との再会に安堵するも、ミシェルに刺されてしまう。 「マリー、──、──!」 (貴方が私を手にかけたのに……どうして……そんな……声を……)  死の淵で焦る愛しい人の声が響く中、気づけば死ぬ数日前に戻ってきて──。  ※旧タイトル:私を愛していると口にしながらアナタは刃を振りおろす~虐げられ令嬢×呪われた伯爵~の大幅リメイク版のお話です(現在全て非公開)

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

処理中です...