褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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隊長の言葉

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「リーストファー、お前もだ。お前の浅はかな行為がこいつ等を助長させた一因だ。己の感情だけで女性を軽率に扱った、恥を知れ」


おじさまの射抜くような鋭い眼光はリーストファー様に向けられていた。


「申し訳ありません」


リーストファー様は深々と頭を下げた。そして柵越しとはいえ、私の目の前で片膝をついて頭を下げた。


「申し訳なかった。俺は卑怯な真似をした、許されない過ちだった。心から謝罪する、本当に申し訳なかった」

「はい、謝罪を受け入れます。だからもう頭を下げないで下さい。

リーストファー様立って下さい」


立ち上がったリーストファー様に手を差し出せばリーストファー様は私の手に手を重ねた。


「その事はもう許しましたよ?だから私達は愛しあったんでしょ?違いますか?

私達夫婦は対等です。もう謝罪は必要ありません。彼等の手前必要だとは思いますが、これで最後にして下さいね?」

「ああ」


微笑み合う私達を横目に、おじさまの顔は優しい顔になっていた。


「申し訳ありませんでした」


私はさっき『すみません』と言った子と向かい合った。


「感情が表に出ても仕方がないわ、まだ貴方は若いもの。決して軽視しているわけではないのよ?貴方達はまだまだこれから経験する若人だもの、テネシー隊長のように感情を隠せなくても今は良いと思うの」

「おいおい、俺を年寄りだと言ってるのか?」

「若くはないですよね」


『確かにな』と、ククッと笑っているおじさま。


「それでも、テネシー隊長にも彼等のように若人の頃がありましたよね?色々な経験を詰んで、苦労もして、だから今の隊長になったんです。傷一つ一つに戦いの記憶があり、皺一つ一つには辛さや悲しみや悔しさを飲み込み刻まれたものです。それでも騎士として感情は表に出すものじゃないと笑うんです。だから隊長には若い頃から笑いじわが深く刻まれているんです。

辛い時こそ笑え、そう私に教えたのは貴方ですよ?」

「笑顔は希望だ。お前の屈託のない笑顔が俺の唯一の希望だった。人が存在する以上争いはある。戦だけじゃない、競争相手や意見の相違、金のいざこざ、男女の揉め事、兄弟の格差、争いの火種はそこら中にある。そしてそこで生まれる感情も人に与えられたものだ。喜怒哀楽、誰しもが持つ人間の感情だ。幼い頃は一晩寝れば忘れられた。だが歳を重ねれば一晩で忘れられなくなる。喜ぶ事が楽しむ事が悪に思えてくる。心は人から見えない、だからこそ人から見られる顔だけは笑う。どれだけ笑うのが辛くても無理してでも笑う。

『お前は命を守る為に剣を振るんだろ?なら心を守る為に笑顔という最強の武器を手に入れろ。笑顔には笑顔が返ってくる、その一時だけは争いのない世界だ。その一時を積み重ねろ、そしたら案外この世も悪いものじゃないと思えてくる。争いを恨むなら笑え、無理してでも笑え』

俺が昔、過酷な戦場で尊敬する人に言われた言葉だ。彼の周りには人が集まった。彼が笑えば皆が笑った」


おじさまは懐かしい昔を思い出すように遥か彼方を見つめている。


「だがな、若かった俺は戦場で笑いが許せなかった。皆が真剣に剣を振る場所で、誰かが死んだ場所で、どうして笑えると。俺達は真剣に剣を振ってる、度胸試しで来ているあんたとは違うと。

だが彼は言った『嘆き悲しむだけが弔いか?それも大事だろう。だがな、彼等は最期まで諦めずに剣を振り続けたんじゃないのか?この過酷な戦場から逃げ出さず、最期まで騎士として立派に戦ったんじゃないのか?なら彼等を称賛する言葉は『貴方は立派な騎士だ、英雄だ』だと俺は思う。英雄の最期は賛美だ、そして魂を無事に天に贈る為にも俺は笑う』

俺はこの偽善者がと思った。だが彼も嘆き悲しむ一人だった。皆が寝静まった闇夜に彼は亡骸一人一人に手を当て祈りを捧げていた。酷い時は明け方近くまで一人一人を弔った。あれだけ俺は笑うと言っていた人が決意した顔で、まるで志は受け取ったと言わんばかりに戦場で剣を振る。鬼公子なんて呼ばれていたがな」


フッと笑ったおじさま。


「だが日を追う事に疲弊し負の感情がたまる。剣を見るのも嫌だ、あの出撃の音も、地鳴りのような騎馬の音も、全ての音が恐怖になった。そんな時、前を行く彼の背中が俺を奮い立たせた。付いてこい、皆があの背中を追いかけた。俺とそう変わらない若者の背中に皆が付いて行った。

一戦が終わり陣へ戻れば、あれだけ忌み嫌っていたはずの彼の笑顔に救われた。一時でもあの惨劇を忘れられた。喉を通らなかった食事も誰かと話しながら食べれば食べれた。誰かと話せば自然と笑っていた。すぐ隣が戦場だと思えないくらい、陣は明るかった。

彼はいつも中心にいた。皆を鼓舞し乗り切る為にな…」


遥か彼方を見つめていたおじさまの視線が目の前の若者達に移った。


「いいかお前達、生きたいなら笑え、切り替えろ。ここは戦場じゃない、戦場とはかけ離れた場所だ。

知ってたか?死神の好物は負の感情だ。死神は正の感情が苦手だそうだ。まあ、俺も受け売りだがな。

死神に取り憑かれたくないなら、死にたくないなら笑え。笑いじわができるまで笑え」


皆が隊長の言葉を聞き入った。



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