褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
106 / 152

再会

しおりを挟む

今私達は国境沿いの石垣を積んでいる作業を見ている。


「ここも完成間近だな」

「はい」


リーストファー様はじっと見つめている。

石垣を見つめているのか、隣国のバーチェル国を見つめているのか、それは私には分からない。

『シャルクの兄ちゃん』と労働者の一人がシャルクを呼び、シャルクは労働者の方へ向かった。シャルクと労働者の関係性も良好のようでなにより。

他の労働者も顔は疲れてはいるものの時折笑顔も見える。

作業の様子を見ているとシャルクと労働者の一人がこちらへ歩いてきた。


「旦那様、少々よろしいでしょうか」

「ああ」


シャルクは石垣を見つめていたリーストファー様に声をかけた。


「旦那様にご紹介したい者をお連れしました。労働者達を纏めて頂いている者です。よろしいでしょうか」

「頼む」


シャルクは少し離れた所に立っている者を呼んだ。


「ご紹介致します。こちら責任者と言う訳ではありませんが、こちらを任せているジョイスです。

ジョイス、こちらはホーゲル伯爵ご当主だ」


リーストファー様は労働者を見つめた。


「ジョイスと言ったか、皆を纏めるのは大変だと思うがこれからも頼む。

あの石垣がこの国を守りここに住む者達を護る。この地はバーチェル国の地ではなく、今はエーネ国の地、その事を示す国境の塀だ。簡単に崩れても崩されてもいけない」


ジョイスさんもリーストファー様を見つめた。


「勿論です。

あの、一平民がご当主様にお名前を伺っていいのか分かりませんが、お名前をお聞きしてもいいですか?」

「それは構わない。俺の名はリーストファーだ」

「リーストファー?やっぱりリーストファーか。俺だ、ジョイスだ、覚えているか?」

「ジョイス…、ジョイスなのか?」

「ああ、お互い年をとったな」

「そうだな、あれから13年もたてばお互いな」


お互いを懐かしそうに見つめる二人。

ジョイスさんと目が合い軽く会釈する。


「お前の奥さんか?」

「ああ、妻のミシェルだ」

「そうか、お前結婚したのか。あのお前がな…。おめでとうリーストファー」

「ああ、お前は?」

「俺はなかなかな。弱腰ジョイスは健在だ」

「お前は弱腰じゃない慎重なだけだ」

「だけど俺は逃げ出した」

「逃げたんじゃない、お前は新たな道へ進んだだけだ」

「そう思ってくれているのはお前達だけだ。俺は怖くて逃げた。騎士になりたいと辺境へ来たのに、稽古とは違う争いが、本気で向かってくる剣が恐ろしくて俺は逃げた。

あいつ等の事は風の便りで聞いた。逃げた俺が今更あいつ等に合わせる顔はない。それでも居ても立っても居られなかった。ここで労働者を集めているのを聞いて迷わずここに来た。

あいつ等が最期を迎えた場所…。この場所を守るのがお前で良かった…」


ジョイスさんは顔を俯けた。

悔しい、その思いは皆同じ。固く握るその拳を見れば分かる。

争いには必ず死はつきまとう。死者を一人も出さず終わる争いなどない。争いの恐ろしさを知っているからこそ、彼等の死を受け止められたのではないだろうか。

それでも友人の死を悼む気持ちや悔しさがなくなる訳ではない。

私も陛下も願った。

この領地を守れるのはリーストファー様しかいないと。

彼等だけではなくここは大勢の血が命が奪われた場所。あの壮絶な争いを誰よりも知り、死を誰よりも悼む人。そして二度と争いを起こさせないように抑制できる人。

辺境伯がこの領地を治めても良かった。それでも陛下はリーストファー様に託した。

彼等をはじめ皆の魂が眠る場所を弔いの場所を荒らさない為にも。あの惨劇を二度と繰り返さない為にも。

辺境伯ではなくリーストファー様に託した思い。


「それとなリーストファー、俺が皆の思いを代弁する。

奥さんを前にして言う事じゃないのかもしれない。それでも言わせてもらう。さっき俺がお前の奥さんかと聞いた時、お前は申し訳なさそうに『ああ』と言った。

お前は阿呆か。

あいつ等がお前の幸せを祝わないと思うか?自分だけ生き延びて自分だけ幸せになって、お前が申し訳なく思う気持ちも分かる。それでもな、誰が何を言おうと、あいつ等は、あいつ等だけはお前の幸せを喜ぶ、そういう奴等だったろ。忘れたのか?」


ジョイスさんは真っ直ぐリーストファー様を見ている。その瞳から怒り、怒りの中の慈しみが見えた。

さっきリーストファー様が『ああ、妻のミシェルだ』そう言った時、『ああ』には私も心苦しさを感じた。


「ここにアースが居たらお前一発殴られるぞ。『お前はいつまでそんな事を悩んでいる。今のお前は奥さんを大切にして幸せにする事じゃないのか』ってな。

俺が弱虫だの腰抜だの言われて辺境を去る時他の騎士達に『尻尾を巻いて逃げるのか』そう言われた。『こいつは逃げるんじゃない、弱虫でも腰抜でもない。ジョイスは自分の進むべき道を見つけただけだ。こいつを貶す奴は俺達が許さない』そう言って先輩騎士なのにアースは殴りかかって、アースに続けと言わんばかりに皆が殴りかかった」

「あの頃は俺達も血の気が多かったからな。それに友を貶されて黙っている奴は誰もいない」

「ああ、遊びも稽古も、どんな時も全力で、それが俺達だった。俺が辺境を去る時『頑張れよ、お前ならできる』って俺が見えなくなるまでずっと手を振ってくれただろ?俺は皆が居たから新たな場所でも頑張れた。

なあ、あいつ等は幸せだって全力で祝っていただろ?誰かに好きな子が出来たと言えばお節介なくらいああしろこうしろって。両思いだと知れば『おめでとう、良かったな』って自分の事のように喜んだ。違うか?

あいつ等はお前の不幸なんて望まない。いつまでもお前の幸せを願い喜んでくれる。あいつ等はそういう奴等だ」

「ああ、そうだったな」


リーストファー様は空を見上げた。



しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...