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懐かしい顔ぶれ リーストファー視点
しおりを挟む『積もるお話もおありでしょう。久しぶりにゆっくりお話をしてはどうですか?』とミシェルに言われ、ジョイスと二人で酒を飲んでいる。
邸の外に出てみれば用意された机と椅子があり、シャルクが次から次へと酒と料理を運んできた。机の上にはもう乗らないぞと言わんばかりに料理が並べられ、二人で食べるには少し多い。
「お前と酒を飲めるとは」
ジョイスは感慨深そうな顔をしている。
ジョイスが辺境を去ったのは16歳。当時の俺はまだ14歳、その時は当たり前だが酒を飲める年齢ではなかった。
「とりあえず食べようか」
俺は目の前に並べられた料理を食べ始めた。
「そうだな」
ジョイスも目の前の料理を食べ始めた。
「剣しか興味ないって顔してたのに、いつの間にあんな綺麗な奥さんと知り合ったんだ?奥さんは貴族なんだろ?お前は昔から貴族を嫌っていただろ」
「嫌っていたというか、自分が貴族の息子だというのが嫌だっただけだ。貴族の息子ってだけで寄ってくる奴もいたからな」
「半分は貴族の息子って肩書きだろうが半分はお前のその顔だろ」
「顔?この顔か?」
「こんな無愛想のどこが良いのか、まぁその無愛想な所が良かったんだろうな。
お前奥さんには優しくしろよ」
「優しくしてる。俺には勿体ない人だ」
俺はミシェルとの出会いをジョイスに教えた。褒美として王太子から奪った事、冷たく接した事、それからこうして動けるようになったのはミシェルのおかげだという事。今はミシェルを愛していると。
「馬鹿野郎!お前は一人の人間の人生を軽く考えたのか。お前は騎士だろ、女性は護る者で傷つける者じゃない」
「分かってる、俺が下劣だった」
「奥さんを一生大切にしろ」
「ああ、ミシェルに捨てられたら俺は生きていけない。ミシェルは俺の光なんだ」
「なら離すな」
「離すつもりはない。と言うより離してやれない」
「そもそもあの奥さんがお前を離さないだろ」
突然の声に振り返った。
「ルイス」
「お前の奥さんに呼ばれて来てみれば『ルイス様のお食事は外にご用意してあります。どうぞこのままお進み下さい』って言われたぞ」
ルイスは『またか』と呆れた顔をしていた。
「ルイスか?ルイスなのか?俺だ、ジョイスだ、久しぶりだな」
「ジョイスなのか?どうしてお前がここに居るんだ?」
「俺はあの石垣を作っているんだ。雇われ労働者だ」
「そうか、元気そうだな」
「お前もな」
ルイスも座り久しぶりの顔ぶれに『今あいつ等もここに居たら』と思った。
なぁ、見てるか?聞こえているか?
こうして皆でご飯を食べたよな?今日の稽古はきつかったとか、あの時はああした方がいいこうした方がいいって皆で夜遅くまで語り合ったよな?意見が分かれたら練習刀を持って外へ行った。
『お前等!さっさと寝ろ!』ってケニー小隊長に怒られて、『すいません』って俺達は逃げて、あの頃は毎日笑っていた。お前達と過ごす日々は楽しかった。
なぁ、お前達が恋しいよ…。
「おいリーストファー聞いているのか」
「ん?あっ悪い、何だ?」
ルイスの声に懐かしさを感じた。
「昔からお前はいつもいつも、もう少し人の話を聞け」
「悪い悪い」
「リーストファーは昔から寡黙だったがそれは今も健在なんだな」
ジョイスは懐かしそうな嬉しそうな顔をした。
「リーストファーもルイスも昔と変わらないな」
「俺は口下手だからな」
「それで副隊長が務まるのか俺は心配だよ」
「ハハハッ、本当にお前等は変わらない。ルイスは昔からリーストファーの母ちゃんだったもんな」
「それはこいつが」
「でもリーストファーは「剣を持つと人が変わる」」
ルイスとジョイスは顔を見合わせ笑っている。
「なにお前まで笑ってるんだよ。もう酔っぱらったのか?」
ルイスは俺の頭をガシガシとやった。
「ああ、酔っぱらったのかもしれない。俺には可愛い奥さんがいて、お前達がいる。俺は幸せ者だな」
「はいはい幸せ者ですね」
ルイスは呆れたように言った。
「お前も羨ましいならレティーに愛の告白でもしたらどうだ?」
「だから、そういうのじゃないって言ってるだろ」
「レティー?レティーってあのお転婆レティーか?レティーも元気にしているのか?」
「ああ、子供と元気に暮らしている。レティーも母親だ」
ルイスの声は少し悲しみを含んでいた。
「そうか、レティーも母親か。誰と結婚したんだ?俺の知ってる奴か?」
「結婚は…していない。……テオンの子だ」
ルイスは少し顔を俯けて答えた。
「そうか、テオンの子か……」
俺もルイスもジョイスも顔を俯け沈黙が流れた。
「あいつ等に、会いたかった……」
ジョイスは絞り出すような声で言った。
それは俺もルイスも思うこと。
あいつ等に会いたい
何度恋しいと思っても、何度会いたいと願っても、もう叶わないその願い。
答えてくれない一方通行の会話
何度話しかけても、何度問うても、あいつ等の声は聞こえない。
俺は何度空を見上げただろう
「今も…」
重い口を開いたルイス。
「肉体は死んだ。でも、あいつ等の魂は今もここに生きている。俺はそう思う」
ルイスは拳を自分の心臓に当てている。
「俺はあいつ等をここから消さない。ここから消さない限り、あいつ等は一緒に生き続ける。今はそう思うことにした。
寂しいし悔しいさ。それでもどこを探してもあいつ等はどこにもいないんだ。でもここには居る。なら俺はここに居るあいつ等を殺しはしない」
「ああ、俺もあいつ等を殺しはしない」
俺は心臓に手を当てた。
ここで生き続けるあいつ等を消しはしない。一方通行の会話だっていいじゃないか。俺の目であいつ等が見ればいい。この世界を、この国の未来を、遺した者達を。
目を閉じればいつでもあいつ等の顔が見える。笑って怒って呆れて。『本当にお前は』って俺に言うんだ。
なんだ、答えてくれるじゃないか。
鮮明に聞こえる。
『リーストファー聞いてくれ』そう言うテオンの声が。
『いい加減にしろ。お前達は何度言えば分かる。この飲んだくれ共が』そう怒るアースの声が。
『リーストファー、お前の顔を貸せ。お前の顔があれば俺は女にもてる。俺も女にもてたい!』酒が入るとそういって絡んでくるダンの声が。
『真剣勝負しないか?』そう言うキルトの声が。
いつものように喧嘩しているエリオとライド。『もう』って泣いてるイルク。面白い顔をして皆を笑わかせるレイ。
ヒースは俺よりも寡黙だ。
アースが母親ならヒースは父親。ドシッと構えて俺達をいつも見守ってくれている。『お前達が可愛くてしょうがない』そう言わんばかりに。
ああ、お前達は生きてる。
俺のここで、お前達は今も生きてる。
空を見上げなくても、
こんなに近くに居てくれたんだな……
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