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リーストファー様の一面

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「俺の愛しいミシェルちゃん。愛してる愛してる愛してる」


夜明け前、寝ている私に覆い被さったリーストファー様。何度も口づけを落とし力尽きたのか満足したのか、そのまま眠りについた。

リーストファー様からはお酒の匂いがプンプン香り酔っぱらっているのは分かった。

楽しいお酒だったのか、それは分からない。それでも楽しいお酒だったと思いたい。

残された友と遺して逝った友、魂がこの地に眠るのなら、きっと彼等もあの場に来ていただろう。3人を囲むようにわいわいと騒がしく過ごしていたはずだと。

穏やかな顔で眠るリーストファー様の顔がそう思わせてくれる。

眉間に皺を寄せていつも険しい顔をしていたリーストファー様。


「ほら皺が残っちゃってる」


私は隣で眠るリーストファー様の眉間の皺を撫でる。

夜明けはもうすぐ。

私は祈りを捧げる。

安らかに…

彼等だけじゃない。あの戦で亡くなった数多の騎士兵士達。敵国ではあるけど、誰も弔いをしてくれないバーチェル国の騎士兵士達。

私は皆に祈りを捧げる。

それがこの地を治める者の務め。


忘れてはいけない。戦の恐ろしさを。

忘れてはいけない。残された者の痛みを。


それでもまた戦は起こる。

人が存在し、国土を守る為に、また人は剣を持つ。

どれだけ友好な関係を築こうと、王が次代に移れば考え方も変わる。

この地を守る為に私も戦う。

剣を持てない代わりに必要なら頭も下げよう。声を上げ協力を頼もう。

恥なのは何もしない事。

この領地も領地に暮らす人々もバーチェル国の民ではない。伯爵家の民なのだから。私達が護るべき領民なのだから。

新たな決意と共に夜が明ける。


ぐっすり眠っているリーストファー様を起こさないように私は部屋を出た。


「おはようニーナ」

「おはようございます奥様」


いつもの日常が始まる。

隣の部屋で身支度を整え、シャルクが待つ執務室へ向かう。


「シャルク、今日は孤児院へ行くわ」


孤児院の書類に目を通す。


「さぁ朝食を食べましょう」


4人で朝食を食べ始めていると『ふあぁぁ』と大きなあくびをしてリーストファー様は起きてきた。


「昨日はよく飲んだな…」

「ふふっ」

「なんだ?」

「昨日と言うより夜明け前まででは?」

「そうとも言うな」


リーストファー様は人差し指で頬をかいた。


「久しぶりにお話しはできましたか?」

「ああ」


穏やかな顔で微笑んだリーストファー様。

有意義な時間を過ごせたようでなにより。

本当の意味で私には分からない痛みや悲しみ。共に暮らし共通の思い出がある彼等だけしかその痛みや悲しみは共感できない。

リーストファー様の体に愛を詰める事はできても、彼等にしか癒せないものはある。共に乗り越える、また彼等もリーストファー様に癒やされる。

少しづつ、少しづつ、一歩一歩前へ進む為に。

誰かが一歩後ろへ下がれば、誰かが手を差し伸べ共に進む。手を取り合い助け合い、声を掛け合って。時に立ち止まり景色を眺め『さぁ行こうか』とまた立ち上がる。遺して逝った者達は『さぁ行け』と背中を押す。

それは彼等だけの信頼。そして絆の深さ。


「リーストファー様、今日は孤児院を見てこようと思っています。リーストファー様は領地を視察して頂けますか?他に盗賊はいないか、危険な場所はないか確認して頂けると助かります」

「分かった」


リーストファー様は頷いた。


「リック、ミシェルを頼む」

「はい、お任せ下さい」

「シャルクもニーナもミシェルに付いてくれ。俺は辺境隊と共に行動する。ミシェルの護衛に数人辺境の騎士を頼んである。行動は必ず共にだ、良いな」


リーストファー様は真剣な顔で私を見つめている。


「分かりました」


私は頷いた。

リックが強いとはいえリック一人では何かあった時全員は護れない。リックが優先するのは私。でも私は皆の犠牲を望まない。そうなった時私は迷いなく私を差し出す。

賊がまだ潜伏しているかもしれない。領民達が私に刃を向けるかもしれない。

私の行動を知っているからこそリーストファー様は先手を打った。別々に行動する事もあるとそう想定して。


明け方のリーストファー様とは別人ね。まぁ明け方のリーストファー様の方が貴重な方。あんなに酔っぱらった姿を見た事はない。それに『どちら様?』と思ったほどよ。リーストファー様は誰かに乗っ取られてるの?と、はじめは思ったわ。でもその姿が可愛くて、それに甘えているような、だから私は嬉しかったの。こんな一面もあったのねって。きっと彼等だから引き出せた一面。

でもどうしましょう。

またあの姿を見たいと思ってしまう。さっきは驚いて何も出来なかったけど、今度は抱きしめ思いっきり甘やかしたい。

もしかしたらまた新たな一面が見れるかも?

あぁん、そんな姿も見てみたい。


「姫さん悪巧みの顔をしてるぞ」

「何の事?」


『はあぁ』と大きな溜息を吐くリックは無視して、私はさっきのリーストファー様の姿を思い浮かべている。


「ミシェル、孤児院ではほどほどにな。ほどほどだぞ?相手は子供だからな?」

「現状を確認してくるだけです」


そうね、今は孤児院の事を考えないと。

でもリーストファー様を見るとどうしてもあの姿を思い出しちゃうのよね…。

あぁぁ……



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