褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
124 / 152

笑顔には笑顔が返る

しおりを挟む

「貴女に頼みたいのは元バーチェル国の人達の分よ?元バーチェル国の人達でここに残ったのは6家族13人。13人分のパンを焼いてほしいの。頼めるなら三食分。でも貴女も自分の生活があるわ。無理のない程度で、最低一食分はお願いしたいの」

「分かりました。一食分でもいいのなら…」

「ありがとう。なら必要な材料を紙に書いてもらえる?材料が揃い次第お願いしたいんだけどいいかしら?」

「はい」

「お爺さんが畑の先生なら貴女はパン屋さんね?フィンはお母さんが焼いたパンを皆に配る配達人、どう?」


フィンは『うんうん』と笑顔で頷いている。


「お駄賃がこれで申し訳ないんだけど、配達が終わったらお母さんから一粒貰ってね?」


私はキャンディーの瓶を母親に渡した。

今までは人付き合いをしてこなかったのかもしれない。それでもいざという時助けてくれるのは近所に住む人達。

大人だけじゃない、子供も親以外に頼れる大人が必要。夫がいない、子供がいない、確かにそうよ?でも大きな家族は作れる。大人全員で子供達を育てていけばいい。動けない人の代わりに手伝ったり、野菜を収穫したり、そうして人は助け合い生きている。

自分の゙持つ知識を教え、そしてそれは受け継がれていく。


「畑の事はこのお爺さんに聞くのよ?お爺さんは畑の先生なの」

「お爺ちゃんは先生なの?すごいね。僕も畑やりたい」


フィンは目をキラキラさせてお爺さんを見ている。


「坊主、今度一緒に苗を植えるか?」

「うん、僕に植え方教えて」


お爺さんはフィンの頭を撫でている。

こうして他人と関わり癒やされる。

家の中で悲しみに暮れるのもいい。残された者でお互いを慰め合い支え合うのもいい。

でも見て?他人と関わり笑顔があふれる事もあるの。もう一度笑う事が出来るの。もう一度一歩踏み出そうと思うの。


「やっぱり男の人だから?」


ぼそっと呟いた母親。


「違うと思うわよ?笑顔には笑顔が返ってくるものなの。フィンはまだ子供だもの、貴女が悲しければフィンも悲しいの。

でもやっぱりフィンは男の子なのね。小さい体で貴女を助けたいと思っているわ。お父さんの代わりに貴女を守らないとって。

素敵な息子さんね?」


母親は優しい顔で微笑みフィンを見つめている。


「まだ貴女達を信用はできません。ですが私は息子を信じます」


私は微笑んで母親を見つめた。


「ミシェル、次の家に行くか」

「分かりました」


私は母親に頭を下げてリーストファー様のもとへ向かった。


「僕も付いて行っていい?」

「フィン約束して。必ずお母さんに聞いてからよ?」


『母さんいい?』とフィンは母親に尋ねた。『いいけど邪魔をしちゃ駄目よ?』母親の返事にフィンは嬉しそうに笑った。『行ってくるね』フィンは元気に手を振った。母親もフィンに手を振っている。

私達は次の家に向かった。


「少し歩くわよ?」


次の家は少し離れている。


「うわあぁ」


リーストファー様はフィンを肩車した。リーストファー様の肩の上でフィンは『高い高い』と喜んでいる。


「おじちゃんが父さんになってくれればいいのにな」

「おじちゃん?リーストファー様はおじちゃんじゃないわ、お兄さんよ?それにこのお兄さんは私の旦那様なの。だからフィンのお父さんにはなれないわ」


私はリーストファー様の腕に腕を絡ませた。


「姫さん、子供相手に大人気ないぞ」

「煩いわね、子供相手だろうがこういう事ははっきりしておかないといけないの。リーストファー様は私の旦那様だもの、私も譲れないわ」

「お姉ちゃん、僕、本当に父さんがほしいわけじゃないよ?だから安心して?」

「ハハハッ、姫さんよりフィンの方が大人だな」


大きな声で笑うリックを睨んだ。お腹を抱えて笑っている。

『クッ』と聞こえ私はリーストファー様を見た。平静を装うリーストファー様。それでも口角が上がっている。

リーストファー様やリックだけじゃない、お爺さんもフィンも声を出して笑っている。


「ニーナは私の気持ち分かるわよね?」

「ん、んっ、私は奥様の味方です」


ニーナも笑っていたわね。

でもこれでいいの。こうして皆で笑いあえる所から始めればいい。

何気ないことで笑い、面白いことで笑い、リックのように人を小馬鹿にして笑い、それにつられて周りも笑う。

笑うことは先に逝ってしまった者への裏切り行為ではない。

笑うことは人間本来の感情の一つ。

笑ったことが一度もない人はいない。笑顔を忘れたとしても、無邪気に笑った頃もあった。幸せに笑ったこともあった。

その時を思い出してみて?相手も同じ顔で笑っていなかった?

笑顔には笑顔が返ってくる、私はそう信じているの。

愛しい我が子を亡くし、愛する夫を亡くし、寂しいと泣く夜があってもいい。行かせなければ、止めていれば、騎士なんて辞めさせていればと後悔する夜もあってもいい。

それでも周りにつられて笑う日があればそれでいい。嬉しいと楽しいと喜ぶ日があればいい。

少しづつ人間本来の感情を取り戻してほしい。

明るい未来は明るい感情の側にあるのだから。


しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...