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6 夫
しおりを挟むフェインの裏切りに恋はしないと決めた。
領地の工場で機織りをし生計を立て暮している。
私ももう22歳。
平民でも22歳なら結婚しててもおかしくない。それでも私は今も一人で暮している。
この領地に暮らす人達は何も言わない。お母様、フェインと私を捨て自分の幸せを取った事を知っているから。
フェインのおじさんもおばさんもここに居づらくなったのか領地から出て行き王都で暮している。
「ハンナ」
「ボルトさん」
ボルトさんは伯父様からこの領地を任されている領主代理人。
「ハンナ、ハンナが結婚したくない気持ちは俺も少しだけだが分かってる。それでも嫁いでくれないか」
ボルトさんの切羽詰まる顔を見て何かあったと分かった。
話を聞くと隣の領地に嫁いでほしいらしい。隣の領地から羊毛を買えないとここの領地は立ち行かなくなる。
隣の領地は平民でも格差があり羊の数で稼ぐ額が違う。放牧場が広く羊も多い家は金持ち、放牧場が狭く羊も少ない家は貧乏。そして羊を多く所有すればその分羊毛もとれる。
一番の取引先なのは確か。
隣の領地は羊の数で立場が決まる。
当主、領主に次いで偉い人。
その偉い人からの縁談話。断る事が出来ないくらい私でも分かる。
「ボルトさん、私は結婚に夢を見ていません。でもいずれ誰かと結婚するならその相手は誰でもいいんです。この領地が守れるならその縁談お受けします」
「すまない、ハンナ…」
貴族令嬢なら政略結婚なんて当たり前。平民ではあるけどこの領地は伯父様の領地。この領地には守りたい人達が大勢いる。
犠牲とは思わない
私は感謝してるの。この領地の人達の優しさに。それとほんの少しだけ伯父様にも。
平民の結婚は嫁ぐ家に行き、そこで相手の家で結婚式をする。白い衣装に身を包み相手の親族に挨拶しお祝いの食事をする。
私はボルトさんと一緒に嫁ぎ先へ行き、白いワンピースを着て初めて会う夫と顔を合わせる。
第一印象はとても優しそうな人
お義父さんは気難しそうな人。お義母さんは派手な人。義妹は我儘そうな子。
「これからよろしくお願いします」
私は頭を下げた。
「よろしく」
夫になった同じ年のワンスさんは優しい笑顔を私に向けた。
食事会を抜け二人で放牧場や羊を見せてもらった。
「俺はここをもっと広くしたいんだ」
そう語ったワンスさんの顔はキラキラしていた。
「ハンナ、って呼んでもいいか?」
「ええ」
「俺、ハンナを初めて見た時、この子だって思ったんだ」
ワンスさんは羊毛を届けに来た時に機織りをしている私を見かけたらしい。
それから私達は初夜を迎え夫婦になった。
ワンスさんの部屋を広げた私達夫婦の部屋。同じベッドで寝起きしワンスさんは朝早くから羊を放牧させ餌の準備や寝床の掃除をし、朝食、昼食は一度家に帰ってくる。
私はワンスさんよりも少しだけ遅く起きみんなの朝食を作る。それから洗濯をし掃除をして昼食を作る。昼からはワンスさんの代わりに帳簿をつけ洗濯物をしまい夕食作り。
お義母さんは嫁が全てするのが当たり前だと何も手伝ってはくれない。義妹にいたっては好きな時間に起きてきて『お腹すいた』と言うだけ。
5人分の料理を作るにも家にある食料だけでは足りない。お義母さんに聞いたら『嫁は残り物を食べてればいい』と言われた。
皆が食べている時に私は湯浴みの準備をする。何度もお湯を運び浴槽を貯める。平民には贅沢なお風呂。この家が裕福なのは分かる。
簡単に夕食を終えると温くなったお風呂にさっと入り部屋に戻ればワンスさんはもう眠っている。起こさないようにベッドに入り私も眠る。
まるで私は使用人ね…
でも領地で暮らすおばさん達も朝からご飯を作り洗濯をして掃除をしていた。昼間工場で働き家に帰ればまた夜ご飯を作る。
機織りしながら皆が愚痴を言っていたのが分かる。『今度生まれ変わるなら男がいい』と言っていたおばさんもいた。
嫁だから、その理由で使用人のような扱いをされるなら誰も嫁になりたくない。それにここは平民でも裕福なら使用人を雇う事だって可能なのに雇っているのは羊の世話をする人達だけ。
貴族と平民では根本的に考え方が違うから仕方がないにしてもワンスさんの奥さんになるのが私じゃなきゃ駄目な理由は何だろう。
ゆっくり話をしたのは結婚式の日だけ。後は一言二言会話するだけ。半年経ってもワンスさんがどういう人か未だに分からない。夫婦の部屋なら、と思っても朝早く部屋を出て行き夜は先に寝ている。生きもの相手だから休みは当然ない。羊毛を他の領地へ運ぶのもワンスさん。この頃は隣国へ手を広げている。
王都に行くより隣国の方が近いここの領地。ワンスさんは所有する放牧場を広げたいと言っていた。取引先の一つに隣国へ目を向けるのは良いと思う。取引先が増えればその分羊が買える。羊が増えれば羊毛はとれる。羊毛が売れればお金になる。お金があれば土地を買える。
余程何かをしない限り手広くするのは悪い事じゃない。
でも夫婦って何だろう…
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