私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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19 鎖

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翌朝目が覚めると私を見つめるガラン様と目が合った。


「昨日は悪かった」

「はい」

「なぁ、気になったんだが、これは何だ」


ガラン様は私の首に掛かっているネックレスを指で引っ張った。


「これですか…」


私はネックレスを触った。


「これは戒めです」


捨てられなかったフェインから貰ったチェーンだけのネックレス。

フェインが好きだからではない。ただ私にはこれしかお金に換えられる物がなかったから。だから手元に置いていただけ。

何かあった時にお金に換えよう。例え二束三文でも1日分の食事代くらいにはなるだろうと。

だからワンスさんと結婚した時も付けていた。こんなチェーンだけのネックレスを欲しがる人はいない。二束三文にしかならない物を売れと言う人もいない。

でもワンスさんに裏切られて娼館に売られた時、このネックレスが別の意味になった。


もう誰かを信じて裏切られるのは嫌だ。人と関わるのを止めようと。


マダムや姉さん達が良い人なのも分かってる。同じ痛みを知る人達、そして優しい人達。それでもどこかで一線を引いている。

誰も私の素性は知らない。誰にも教えていない。隣国の出、それだってマダムしか知らない。そのマダムだって私が元貴族令嬢とは知らない。そもそもワンスさんも知らないもの。


お母様は田舎は嫌だと王都から一度も出た事はなかった。

お父様と結婚してもお母様は領地には一度も行った事がない。お父様もお母様を誘う事はしなかった。そうよね、領地へ行くと言ってもう一人の妻と子供に会いに行っていたんだから。お母様や私を連れて行くわけがないわ。

お母様なんて自分の実家の領地なのに領地の場所すら知らなかったのよ?

領民達も侯爵家には息子と娘がいるのは知っていてもお母様がその娘とは誰も知らなかった。私達はどこかから流れて来た親子だと思ってる。

唯一知るのはボルトさんだけ。毎月伯父様から貰っていたお金をボルトさんが届けに来ていたから。でもボルトさんは人に言いふらす人じゃない。それに結局私達は平民になったんだから。

伯父様は領地に来ると領民達とよく話していた。だから私と話していても伯父と姪とは誰も思わない。

ただ、ワンスさんに嫁ぐ事になったのは多少なりとも侯爵家の人間だからだと思う。ワンスさんからの縁談話が断われなかったのも事実だけど。

それにクラリス商会の奥さんが私のお母様だとは誰も知らない。


このネックレスが触れるたびに自分を戒める。誰も信じるな、と。

ガラン様にでさえ気を許しても体を繋げても、心の奥底にある部分はまだ許していない。

信じられる人、それは変わらない。でも私の心が止めている。ガラン様に心の奥底まで許しては駄目と。


心の奥底まで許してしまったら、きっと私は貴方を好きになる…。


だから娼婦とお客さん、その距離が望ましい。


「ふぅん、戒めね」

「なん、ですか?」

「いいや」


何故かガラン様が怒っているような…。


「昔の男から貰った大事な物だからか?」


ガラン様はネックレスを強く引っ張った。


「昔の恋人から貰った物ではありますが意味は違います」

「でも貰った物だろ?」

「………私は…ガラン様のように、そんなに強くありません。誰かに頼りたいと思ってしまいます。でもそうなりたくないんです。それでは駄目なんです」

「誰かに頼ればいいだろう。皆助け合って生きてる。俺だって昨日お前に助けられた。そうだろ?それは悪い事か?」

「悪い事ではありません。ただ…」

「ただなんだ言ってみろ」

「いえ…」

「ハンナ」


ガラン様の大きな声にびくっと体が震えた。


「……誰かに頼れば私は弱くなります。

私の周りには弱い人ばかりでした。弱いから裏切っても許してもらえる、そう思う人達ばかりでした。お母様は自分だけが傷ついていると思ってる人でした。恋人は側にいる人に癒やしを求めました。夫は私を借金の形にするために私と結婚しました。皆私なら許してくれると、私は強いから私なら大丈夫だと言う人達でした。

私はそんな人達と同じになりたくない。だから私は強くなりたいんです。信じて裏切られるのはもう嫌だから、だからもう誰も信じないと自分を戒める為に付けているんです」

「なぁハンナ、皆誰しも弱い。誰だって何かに悩み傷ついてる。俺だって別に強い人間じゃない。自分の弱さを隠す為に強く見せているだけだ。俺は弱い、それを認めて平気な顔をしているだけだ。平気な顔をして心では悩み傷つき、それでも自分と向き合い自分で乗り越えるしかない。手や足が震えようと脈打つ音が体中に響こうが生きていく為には平気な顔をして強く見せる事も必要だ。

だからハンナが強くなりたいと思うのも悪いとは思わない。でもな、頼る事は弱さじゃない、信頼だ。相手を信じる心だ。

確かにお前の周りは弱い人だったのかもしれない。お前に甘えていたのかもしれない。でもな、だからこそそんな鎖に縛られていてどうする。

戒め?お前はそんな鎖に捕らわれているだけだ。

もう誰も信じないように付けていると言ったが、お前にとって過去の人間を忘れたくないのか?忘れろって言うんじゃない。された事を思えば忘れたくても忘れられないだろう。だがな、過去に縛られこの先を棒にふるのは間違ってる。過ぎ去った過去はもう変えられない。だがこの先は変えられる。お前自身が変われば変えられる。

お前自身で這い上がれ」



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