私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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23 贈り物

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街をぶらぶら歩き一軒の服屋に入った。お店の人に勧められるまま服を試着した。


「これを全部包んでくれ。それと一式揃えるにはどこの店に行けばいい。後は化粧品も必要なんだが」


お店の人はうんうんと頷き生暖かい目を私達に向けている。

お店の人が書いてくれた地図を頼りに店を移動する。髪留め、靴、鞄、化粧品まで全てガラン様が支払った。

化粧品は姉さん達が使わなくなった物をずっと使っていた。今までも化粧なんてしていないのも同然。お店の人は丁寧に説明してくれたけど…何が何だか。

それに髪につけるオイルやら体に塗るオイルやら、あれやこれやと凄い量に…。


買った荷物を娼館まで送ってもらい私達は街の中心にある噴水広場のベンチに座り飲み物を飲んでいる。

お互い放心状態…。


「疲れたな…」

「はい疲れました…」

「女の買い物がこんなに疲れるとは思っていなかった」

「私もです」

「いやな、まだかと疲れたは絶対に言うなと言われたんだが、悪い、疲れたしか言葉が出ない」

「それは私も同じなので気にしないで下さい。

あの、本当に沢山ありがとうございました」

「礼は何度も聞いた」

「何度でも言わせて下さい」

「いや、礼を言うのは俺の方だ。いつもお前には助けられてる、その礼なんだ」

「そんな、私の方がガラン様に助けられています。なら私にもお礼をさせて下さい」

「ハンナにとって俺は客の一人だ。あの部屋で過ごす時間もお前にはその一つ。

だが俺にとっては違う。俺はハンナと過ごす時間が好きだ。あの部屋で何気ない会話を楽しみ眠くなったら眠る。そりゃあ時には体を重ねるが…、

人ってこんなに温かいんだ

と初めて知った。人肌という意味もあるが心が温かくなるという意味だ。

俺は冷めた環境で育ったからな。数人の笑い声とうめき声が飛び交う中、爺さんは俺を隠して死んだ。爺さんには厳しく育てられたからな、温もりとは無縁だった。

『強くなれ。そして誰よりも力をつけろ』

爺さんの口癖だ。甘えは許してもらえなかった。

爺さんが死んで俺は剣を握った。傭兵として戦に出ればそれこそ温もりとは無縁だ。昨日一緒に戦った奴が今日いるとは限らない。悲しむ暇もなく目の前の敵と戦う。明日は俺かもしれない、そんな中で数年過ごした。

そうするとな、心が段々冷えていくんだ。目の前の敵を人だと思うと躊躇いが出る。躊躇えば俺が死ぬ。まだ餓鬼だった俺は弱肉強食の世界の獣になった。弱い者は殺され強い者が生き残る。だから俺は強くあろうとした。目の前の敵は人ではなく獣。俺の縄張りを守る為に戦うと、そう思いながら戦った。そう思わないと戦えなかった。

剣を投げ捨て背中を見せれば俺は殺される。生きたいなら前を向き剣を振り続けないといけない。それが生き延びる術だからだ。

爺さんが守った俺の命、なら今度は俺が俺の命を守らないといけない。

そんな時にハンナと出会った。興奮を鎮める為だけに寄った娼館、その日たまたま抱いた娼婦。いつもならそれで終わりだ。

だがお前は娼婦になって日が浅いとマダムに言われたのに俺はマダムの静止を無視しお前に無茶をさせた。流石に俺もそれは酷いと思って様子を見に行ったんだが、あの日のお前の笑った顔やお前が放つ空気が俺には心地よかった。何度も通いたくなるほどにな。

心休まるとはこういう事か、それを俺に教えてくれたのはハンナだ。だからお前からの礼はいらない」

「ですが…」

「ならこれからも俺に安らぎをくれ、それでいい」

「私もガラン様から安らぎを貰っています。それならお互い様です」

「それに娼婦は貢がれてなんぼだろ?お前の姉さん達を見てみろ」

「確かにそうですが」

「お前は受け取っていればいい」

「分かりました。ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」

「ああ」


ガラン様から貰ってばかり。

それにガラン様の話を聞いてガラン様がどんな風に生きてきたのか想像ができた。ガラン様の体には無数の傷跡が今も残っている。過酷な環境下で過ごし育ってきた。

マダムの話だと10歳で戦に行った。まだ少年が人の死を目の当たりにする。それも一人や二人じゃない。戦では何百人何千人と死ぬ。

ガラン様が過ごしてきた環境を考えるとまだ私はましな方よね。裏切られ捨てられても私には私を支えてくれる人達がいた。手を差し伸べてくれる人達がいる。

戦場の中で誰がガラン様を支え手を差し伸べる人がいただろう。きっといない。皆誰しも自分の身を守る事に精一杯。いつまで続くか分からない戦い。死と隣り合わせの毎日。すり減るのは体力だけでなく心も。

ガラン様はお爺さんの言葉通り強く誰よりも力をつけた。


私もガラン様にお礼がしたい。

毎月マダムから少ない賃金を貰う。使い道がないから少しは貯まった。高価なものは買えないけど…、

私はぼうっとしているガラン様を見つめた。

剣は、無理ね。紋章入りの剣なんて高くて買えない。それにこだわりがあるかもしれない。

それなら刺繍入のハンカチ?使わないわね。

マダムや姉さん達に聞いたら『貰える物は貰っておきな』きっとこう言われるわ。

ならやっぱり手料理かしら。ちょっとだけ良いお肉を買って…、うんそれがいいかも。


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