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22 私が捨てる

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「私はずっと貴女に捨てられたと思っていた。だけど私は貴女に捨てられたんじゃない、私が貴女を捨てるの。

いつまでもお嬢様気分で現実から目を背けて何もしない。そんな貴女を私が捨てたの。だから出て行っても探さなかった。

貴女は可哀想な人。信じていた人に裏切られ、その愛も嘘か真か今はもう聞けない。貴女は愛されていなかったと認めるのが嫌だった。自分だけを愛してくれない人は許せなかった。だから自分を愛してくれる人に付いて行った。そこでなら愛されてると実感できるから。

だって貴女は男性に愛される自分が好きだから。

だから私の愛では満足できなかった。子が親を慕うのは当たり前だと思っているから。貴女がお祖父様を慕っていたように…。

貴女が幼い頃にお祖母様が亡くなりお祖父様は女児の貴女に見向きもしなかった。どれだけ貴女が慕っていても親の愛を貰えなかった。だから貴女は婚約者に愛を求めたの。でもその夫にも裏切られまた違う男性に愛を求めた。

そして得られなかった理想の家族を作りたかったの。自分を愛してくれる夫がいて自分を愛してくれる子供がいる。嘘偽りない家族を作りたかったの。

その中でなら幸せになれると信じているから。

だから私の存在が邪魔だったの。理想の家族だと思ってたのに違ったから。それにこれから理想の家族を作るのに私は余計なもの。壊れた家族の欠片が入るとそれはもう貴女の理想ではないから。

貴女は愛に飢えた可哀想な人。だから私は貴女の幸せを願うわ。

今の幸せをどうか大切にして下さい」

「知り合いか?」


店の中に居たガラン様がいつの間にか後ろに立っていた。


「いえ、もう私とは縁の切れた人です。関わりのない他人です。

あ、そうだ、忘れたふりはお得意でしょ?これからも忘れたふりをして下さいね?

さあガラン様行きましょ」


私はガラン様の腕に腕を絡ませガラン様にしなだれかかった。

私はお母様から離れ歩き出した。

お母様の『待ちなさいハンナ、まだ話しは終わってないわ。待ちなさい』と私を呼ぶ叫び声が聞こえている。

私は無視して歩いた。

今度は私がお母様を捨てるの。


お母様が見えなくなり絡ませていた腕を外した。


「すみません突然…」

「それは構わないが、知り合いだったのか?」

「母親です。私を捨て男を選んだ最低の母親です」

「それならもっと罵倒してやれば良かったんじゃないのか?」

「そうですが、なんか馬鹿馬鹿しくて。

それでも母親の愛を望んだ時もありました。でも娘だからと子供だからと望んだものが与えられるとは限りません。

私は愛に裏切られる運命みたいです」

「愛に裏切られる運命か…」

「私もお母様と同じでずっと愛に飢えていました。それでも過去を振り返るとお父様が私に向ける愛は本物だったと思うんです。幼い私はお父様が大好きでした。お父様と過ごした数年、私は幸せでした。

それに元恋人も私にした事は別として領地でずっと助けてくれていたのは事実です。当時の彼が私を支えてくれたから当時の私は耐えてこれた。彼の存在がずっと私を救ってくれていたんです。領地のおばさん達やおじさん達も我が子のように私を可愛がってくれました。

マダムや姉さん達もそうですが、私は愛されていた、それにようやく気付きました。お母様や元夫は別ですが…。

私はずっと楽しかった思い出を忘れ、辛い思い出だけが心を占めていました」

「それは仕方がないだろ」

「はい。ですが過ぎ去った過去にも幸せはありました。どんな愛でも愛はありました。

過去を見つめ直す事が出来たのはガラン様のおかげです」

「俺は何もしてない。ハンナが自分で乗り越えた結果だ」

「そうだとしても自分で外せなかった枷をガラン様が断ち切ってくださったからです」

「俺は他の男の物を持っていてほしくなかっただけだ」

「それなら私の持ち物は誰かから頂いた物ばかりですよ?自分では買いませんし」

「そうなのか?」

「リズ姉さんのお客さんのように毎度ではありませんが皆さんたまに贈ってくれます。それに姉さん方もいらなくなった物をくれます」

「この服もか?」

「これはリズ姉さんから頂いた物です」

「そうか。女性は好みがうるさいから何か言えば10倍になって返ってくるらしい。だから贈り物は一緒に買いに行った方が良いと言われたんだが」

「そうなのですか?」

「ああ、男は金だけ出しとけと言われた」

「誰がそんな事を?」

「知り合いなんだが。だから今日お前を誘ったんだ、何か贈ろうと思ってな。そしたらさっきマダムに言われたんだ。どうせあんたに女物は分からない、だから助っ人を呼んだって。それがお前の母親だったわけだが…、流石に俺も頼りたくない。

ぶらぶら歩いて回ろう。気になる店に入ればいい、遠慮はするなよ。あ、それとあいつらに化粧品を買ってやれと言われたんだが」

「あいつら?」

「お前のお姉さま方だ。全員出てきてあの店に行けこの店に行けと言われたんだが、悪い、忘れた…。でも先ずは化粧品だな。で、化粧品はどこに売ってるんだ?」

「さあ、どこでしょう」


私も街で買い物をしたのはここに旅行という名の身売りにされた時だけ。あの時はワンスさんの後を付いて行っただけだからどこにどのお店があるのかは分からない。

幼い頃やワンスさんと結婚してからは商人が家に来ていたし、領地ではリクルさんから必要な物を購入していた。

だからどのお店が良いとかどこのお店に売ってるとかさっぱり分からない。


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