私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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32 家族

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結婚式を隣国で挙げる事になった私は伯父様と伯母様と一緒に隣国へやって来た。

辺境の小さな教会で辺境伯が見守る中私とガラン様は結婚式を挙げた。

結婚式にはごく親しい人達だけを呼んだ。

たまたま辺境へ視察に来ていた国王陛下も参列したけど、たまたまではないわよね。国王陛下もガラン様の家族、初めてお会いしたけど…、とても優しい人だったわ。でも緊張のあまり何も覚えていないの。

平民が暮らすには少し立派な家。毎朝ガラン様を見送り私は家の事をする。週に何度かガラン様が面倒をみている子供達に会いに行き文字を教える。

それから娼館のマダムや姉さん達ともたまに会って話をしたりご飯を食べたりしている。

私も年が年だったから子供は諦めていたんだけど結婚して1年後に子供がお腹に宿った時は涙が出た。

ガラン様はとても大喜びしたわ。

初めは…、私が母親になれるのか、私にもお母様の血が流れているなら私も子供を愛せないかもしれない、そう思った。

でも子供達と接していると『なんとかなる』そう思うの。子供達は自分達の弟か妹が出来るって大喜びで、赤ちゃんのお世話を誰がするかで産まれてもないのに取り合いなのよ?

『ハンナがもし育てられないと思ってもここにはお前に手を貸してくれる人達がいる。愛を教えてくれる人達がいる。お前はもう一人じゃない、そうだろ?』

ガラン様の一言で心が軽くなったの。

私には血の繋がらない家族が大勢いる。勿論血の繋がった伯父様や伯母様、お兄様家族お姉様家族もいる。

親を持たない子供達は以前の私と同じ。誰かに愛されたくて必死にお手伝いをする。

でも子供は子供らしく元気に走り回り甘えたり我儘だって言っていい。

だから私は子供の頃自分がしてほしかった事を子供達にしている。お手伝いをしたら褒めて泣いたら抱きしめる。悪い事をしたら怒り危ない事は止める。

それに狭い自分の中で蹲る私の手を引いて外の世界を教えてくれたフェインのように私も子供達の手を引いて外の世界を教えたい。

そこには助け合いながら生きる優しい世界が広がっているから。


子供達が暮らす家の隣に建つ家には家を持たない人達が暮らしている。皆自分が出来る事をしている。誰にだって得意な事はある。ある人は子供達に勉強を教えている。ある人は庭の花壇に綺麗な花を咲かせている。ある人は皆のご飯を作っている。

浮浪者だったからって何も出来ない訳じゃない。

何かに疲れ彷徨い辿り着いただけで心が元気になれば自然と生き甲斐を見つける。それに王族の離宮だっただけあって広い敷地に色々と道具も揃っている。何かを始めるには環境が整っている。

ガラン様の部下の騎士達も住んでいるから悪さは出来ないし、それにせっかく与えて貰った安住の地を手放す馬鹿な人はいない。



ガラン様の生い立ちは険しい道だった。

浮浪者や子供達を面倒見ているのはガラン様もきっとこうやって誰かの優しさに触れ育ってきたから。

お爺さんもそう。ガラン様を赤子の時から知っているマダムもそう。辺境伯もそう。

誰かがガラン様に手を差し伸べてきた。そして今度はガラン様が誰かに手を差し伸べている。なら私も誰かに手を差し伸べたい。

人は支え支えられ生きているのだから…。


勿論お母様やワンスさんのような人はいる。

伯父様が言っていた。

お母様はずっとお祖父様に愛されたかったと。

それにお祖父様は愛妻家ではなかった。お祖母様が亡くなり後妻を娶らなかったのもただ『女は無駄な金がかかる』それだけの理由。『ようやく一人分減ったと思ったがまだ一人いるのか』それがお祖父様の口癖だったと。

母親は亡くなり父親には愛されなかった。だからお母様は男性に愛を求めた。

子供はその人を繋ぎ止めるだけの必要な駒

だから私は捨てられた。壊れた玩具を捨てるように…。だから罪悪感も何もない。

だっていらない駒を捨てただけだもの。

お母様を擁護するつもりはない。それでももしお祖父様がお母様を愛していたのなら、お祖母様が生きていたのなら、きっとお母様も愛だけに生きる事は無かった。

お祖母様に育てられた伯父様のように優しい人になっていたはずだから。

『母上が亡くなり母上の分まで妹を愛したつもりだった。だが妹が欲した愛ではなかったみたいだ』

お祖母様が亡くなった時、5歳差の兄妹だとはいえお互いまだ子供だった。親が子に向ける無償の愛をまだ子供の伯父様が同じように愛するのは出来ない。だって伯父様も母親を亡くした当事者だもの。

それに兄妹助け合って生きていくならまだしもお母様は助け合う事なんてしなかった。お兄様なんだから私を守るのは当たり前、愛されて当たり前、そう思っていたと思う。

だから『お兄様は何をしているのよ』と言った。伯父様なら自分の尻拭いをしてくれるから。今までそうだったように。


街に建ち並ぶ娼館全てからの注文が無くなり『夫を支える健気な妻』という肩書きが無くなったお母様に何が残るのかしら。

刺繍しか取り柄のないお母様に刺繍の注文が無くなり今度は『子供を愛する母親』かしら。でも世の母親は子供を愛する人がほとんどでそれを褒めてくれる人はいないわ。

お母様こそ娼婦が似合っていたんじゃない?

貴女が欲しかった男性の愛を受け取れる場所だったんじゃないの?



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