憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

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 暫くしてラシュ様が迎えに来て、ガイに手を繋がれ獣人街の入口へ着いた。


「帰したくない」

「ガイ君、駄目ですよ」

「分かってる。アイリス、また会えるか?」

「どうやって会うの?」

「手紙とか?」

「住所も知らないのに?」

「そうだな」


 ガイの耳と尻尾が垂れ下がっている。正直者の耳と尻尾を見てると本当に癒やされる。そしてとても可愛い人に見える。


「ガイ君の次の休みはいつですか?」

「来週だ」

「その休みに会えば良いのではありませんか?」

「アイリス、会えるか?」

「大丈夫よ」

「なら来週の週末に会いに行く。人族の入口まで迎えに行く」

「入口まで来れるの?」

「ああ。番だからな」

「アイリス嬢、手続きはありますが可能です。これから手続きをしていきましょう」

「はい。お願いします」


 ガイは私を抱きしめた。


「離したくない」

「ガイ君」

「分かってる。ちゃんと帰す」

「なら良いです」


 ガイはクンクンと匂いを嗅いで吸っている。その行為も何だか、なれてきた。


「ガイ!」


 突然大きな声がしてガイが振り向いた。


「チッ」

「ガイ!」


 ガイは私をガイの後ろに隠した。それでも手を離さない所はガイらしい。


「邪魔するな」

「ガイの番か?」

「ああ」

「ガイ、おめでとう~」

「煩い」


 私は繋いでるガイの手を引っ張った。


「ガイ?」


 ガイは私の方を振り返り、ガイの胸の中に隠す様に抱きしめられた。


「ガイ、知り合い?」

「さっき話した従兄弟だ」

「挨拶しないと」

「いい」

「ガイ」

「会わせたくない」

「ガイ」

「あいつも狼獣人だ。牙も爪も持ってる」

「それでもガイの身内でしょ?」

「そうだけど、会わせたくない」

「ガイ、お兄様の夢物語の一歩よ?」

「はぁぁ、分かったよ」


 ガイは私を離し手を繋いで柵の前に行った。


「アイリス、ジンだ」

「はじめまして、アイリスと言います」

「ジン、俺の番のアイリスだ。見るな、話すな」

「ガイ、無茶言うなよ。 はじめまして、ジンです。ガイとは従兄弟です。ガイに番が出来て、それも仲良くなって俺は嬉しいです。ガイの事お願いします。ぶっきらぼうだけど根は優しい奴です。少し人族を嫌ってるけど、番の君の事は護るから安心してガイに頼ってほしい」

「はい」

「ジン、話し過ぎだ。匂いが移る」

「これくらいで移らないよ」

「アイリスの匂いが減る」

「俺にはアイリス嬢の匂いは分からないよ」

「それでもだ」

「あの…」

「アイリス、どうした?」

「ジン様には私の匂いが分からないのですか?」

「正確には匂いはするよ?俺達獣人は匂いで人を判断するから。それでもガイが匂う番の香りはガイにしか分からない。俺には君から甘い匂いなんてしないから。今はガイの匂いがプンプン香ってる」

「ガイの匂い?」


 私は自分の腕の匂いを嗅いだ。ガイの匂いする?分からない。


「ハハッ、君には分からないよ」

「そうですか」

「一番強く香るのは手と首からかな」

「手と首、ですか…」

「ラシュさんも分かりますよね」

「はい。アイリス嬢、ガイ君に舐められませんでしたか?」

「あっ!」


 私は真っ赤になった。そしたらいきなりガイに抱きしめられ、ガイの胸の中に閉じ込められた。


グルルル

「ガイ、怒るなよ」

「煩い」

「もうマーキングしたのか?」

「当たり前だろ」

「あのお前がな…」

「煩い」

「俺は嬉しいよ。ガイに番が出来て。ううっ」

「泣くな」

「良いだろ?安心したんだ」


 ジン様はとても優しい方なのですね。ガイを心配しガイの幸せを本当に願ってる。牙や爪だけで人を判断しては駄目だわ。話したら良い人という事が分かるもの。

 お兄様、獣人にも心優しい良い人が居たわ。ラシュ様もジン様もとても良い人よ。 勿論ガイもよ?ぶっきらぼうだけど優しい人、それに可愛い人。獣人だけど私と変わらないわ。


 またなっと言ってジン様は去っていきました。私はガイの胸の中に閉じ込められたまま。


「ガイ?」

「ちょっと待って」

「何してるの?」


 ガイは私の頭にスリスリとしてる。


「俺の匂いを付けてる」

「私はガイの匂いだって言ってたわよ?」

「それでもジンの匂いが微かに香る。それを今消してる」

「それは大事な事なの?」

「当たり前だ。番に対する求愛行動みたいなものだ。諦めてくれ」

「ガイが落ち着くなら何も言うつもりはないけど…」

「何?」

「少し恥ずかしい」

「俺に隠れてるから見えないよ」

「そう、ね」


 ガイは今、頭にチュッチュッと口付けてる。それからクンクンと嗅いで吸って…。


「ようやく俺の匂いだけになった」

「そうなの?」

「ああ」

「安心した?」

「ああ」

「良かった」

「離したくないな」

「ガイ君」

「分かってる」

「ねぇ」

「何?」

「ラシュ様はどうしてガイの声が聞こえるの?」

「嫌、獣人は聴覚も優れているからな。おまけにラシュ殿は兎だから」

「そういうもの?」

「そういうものだ」


 ガイが獣人街を出れる様に手続きをして、帰って来た。ガイは最後にってクンクンと嗅いで吸って、ペロっと舐めて獣人街の中に入っていった。私が見えなくなるまでずっと柵の向こう側から見つめていた。


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