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前編
しおりを挟む私は第一王子アーカス殿下の婚約者、公爵令嬢のラナベル。
8歳の時に婚約者になり、もう9年。
アーカス様とは仲が良いと私は思っていた。実際仲が良かった。男爵令嬢のチェルシー様が現れるまでは…。
第一王子と公爵令嬢、始まりは政略。9年間で愛する人になった。
学園に通い出した1年生の時は周りから憧れの存在だった。2年生になりお互いを大切にし仲睦まじい婚約者、そう映っていた。
3年生になった時、男爵令嬢のチェルシー様が入学してきた。平民から男爵令嬢になった彼女は周りから浮いた存在だった。貴族令嬢としての淑女の嗜みもマナーも何一つ出来ない。
アーカス様もチェルシー様を気にかけていた。
「ラナベル、彼女はこのままでは貴族令嬢として浮いてしまう。彼女に淑女の嗜みやマナーを教えてくれないか。彼女一人の為にこの国の品位を落とす訳にはいかない」
私はチェルシー様に淑女の嗜みやマナーを教えた。時に厳しくしたのは仕方がない。何度言っても平民の言葉や仕草が抜けない彼女。それでも私は根気よく教えた。
例えアーカス様との時間が減ったとしてもこの国の品位を落とす事は陛下やアーカス様王族の品位を落とす事になるから。
邸に帰っても私はチェルシー様の為に絵や分かりやすい言葉でノートを作った。
次の日私は出来上がったノートを持ちチェルシー様を探した。
アーカス様やアーカス様の側近、次期宰相と次期騎士総括、アーカス様の取り巻きの令息と仲良く話すチェルシー様を見た時、私は目を疑った。
貴族令嬢が男性に寄りかかっていたから。それもアーカス様にべったりと寄りかかっていた。
取り巻きの令息ならまだしも第一王子のアーカス様に。アーカス様も注意をする事もなくチェルシー様を許しているように見えた。
「チェルシー様、そのように男性に寄り添ってはいけません」
「え~」
「ラナベル、チェルシーはまだ貴族令嬢になったばかりだ。そう目くじらを立てるな」
「そうですよ~」
「分かりました…。チェルシー様、こちらを一度目を通しておいて下さい」
私は何日もかけて書いたノートを渡した。
チェルシー様はパラパラとノートをめくった。
「こんな難しいの私には無理で~す」
そう言うとノートを投げ捨てた。
「ラナベル、もっと簡単に出来なかったのか?難しいとやる気も起こらないだろ」
私は子供でも分かるように簡単に書いた。邸に勤めるメイドにも何度も確認した。分かりやすいか、分かりにくい所はどうすれば分かるのか、平民のメイドと一緒に作ったノートだった。
「分かりました。では作り直してまたお渡しします」
私は投げ捨てられたノートを拾い、悔しさでノートを持つ手に力が入った。
それからもチェルシー様を見かける度に側にはアーカス様や側近がいた。
アーカス様が私と過ごす時間はなくなった。ここ数ヶ月話してもいない。
それでは駄目だと思い、私は思い切ってアーカス様をお茶へ誘おうとアーカス様を探した。誕生日の今日くらいは私を優先してくれるだろうと。
話し声がする教室。聞き覚えのある声。
「チェルシーはなんて可愛いんだ。チェルシーを俺のものにしたい。
チェルシー愛してる」
「私もアーカスを愛してる。でも婚約者はどうするの?」
「ラナベルか、彼女とは所詮政略だ。婚約者を変えるのなんて簡単だ。ラナベルには誰か別の奴を紹介してやればいい」
「ラナベルさん可哀想」
「あんな可愛げもない者を私の婚約者として何年も側に置いていた私の方が可哀想だと思わないか?」
「それもそっか」
私はその足でチェルシー様の教室へ来てチェルシー様の教科書を全てビリビリに破いた。
そう、これは嫉妬。醜い女の嫉妬。
感情のままに私は教科書を破いた。
次の日私はアーカス様から叱責をされた。
どうして婚約者の私を守らずチェルシー様を守るの?
教科書を破いたのは私が悪いわ。でもそうさせたのはアーカス様じゃない。私の誕生日も忘れ、私との時間も作らずチェルシー様とばかり。どちらが婚約者か分からないわ。
私の中で醜い嫉妬が憎しみに変わった。
憎いチェルシー様が階段を下りようとしている。
私はチェルシー様の背中を押した。
駄目だと、こんな事をしてはいけない、無視をすればいい、チェルシー様ではアーカス様の婚約者にはなれない、
全て分かってる。
それでもチェルシー様の背中を見た時、手が勝手に動いたの…。
『背中を押して』
悪魔の声が私に囁いた。
卒業パーティーで私はアーカス様から断罪された。
アーカス様の新しい婚約者としてチェルシー様がなり、私は修道院へ送られた。
味方になってくれると思っていた家族も、誰も私の味方になってくれなかった。
私は一人ボロボロの馬車に乗せられ修道院へ向かった。
修道院へ向かう途中、王都を出た所で突然私はフッと意識が遠くなった。
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