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直後に沖長が思ったことは、〝これもイベント?〟であった。
いやしかし、イレギュラーであるはずの自分に対して原作イベントが直接作用するとは思えない。現在沖長は一人。ナクルが傍にいればイベントの可能性が高かったが……。
(それにこの子、さっき待ってたって言ったよな?)
それは明らかに自分に対して向けられた言葉だった。つまりこれはまず間違いなく原作イベントではない。つまりは長門も知らないはずのイレギュラーイベントということ。
「これ、聞いておるのか?」
「! ……確か十鞍千疋、だったか?」
「うむ! 憶えてもらっておるようで何よりじゃのう!」
嬉しそうに笑い彼女の表面だけを見れば、普通の小学生にしか見えない。しかしこの子が普通ではないことだけは知っている。
(まずったな。そういやこの子のことを詳しく聞いてないぞ)
まだ情報共有の途中だったため、確かめたいことを全部ハッキリさせられていなかった。
「何でここにいるんだ?」
「さっき言うたろう。待っておったと」
やはり沖長を待っていたことに偽りはなさそうだ。
「てっきりナクルに会いに来たのかって思ったんだけどな」
「ほう、それは何故じゃ?」
「君もナクルと〝同じ〟なんだろ?」
「……どうやら勇者について聞いたようじゃのう。まあ周囲に日ノ部と籠屋、それにあの七宮の小娘もいるんじゃから当然か」
カラカラと楽し気に喉を鳴らす。何だかこうして話していると本当に年上と談笑している気分になってくる。
(この子が本物の十鞍千疋なら、十三年前にも勇者として活躍したんだよな)
だとすると今は一体幾つなのか……。見た目通りの年齢ではないのかもしれない。いや、それよりも何故自分に会いにきたのかが先だ。
「ナクルじゃなかったら、何で俺に?」
「回りくどいのは好かんのでな、率直に言うぞ。ワシの雇い主がお主との会合を望んでおるんじゃよ」
「雇い……主?」
その言葉で十鞍千疋が、個人で動いているわけではないことを知る。
(雇い主ってのは何者だ? 原作キャラか? だとすると何で俺と会いたい?)
次々湧いてくる疑問に、ここに長門がいてくれたらと思ってしまう。彼ならばこの状況でも何かしらの答えを出してくれるだろうから。
ここに来て『勇者少女なっくるナクル』を認知していなかった過去の自分を叱咤してやりたい。それほど有名なら一度くらいは漫画でもいいから目を通しておくべきだったと。
「……それって誰かな?」
「名を口にしたとて一度も相見えたこともなし意味はないぞ」
つまり初対面ということだ。なあ猶更沖長と会合したい理由が分からない。
「悪いけど、知らない人について行くのは親から禁止されてるんだよ」
「ワシとは既知じゃろうが」
「一度会っただけでお互い何も知らないじゃないか。信用できる相手でじゃないぞ」
「クク、小童のくせに用心深いのう」
「小童だからこそ誘拐とかに敏感なんだけどな」
とはいうものの、その雇い主とやらに興味が湧いているのも事実。放置のままでも気持ち悪いし、確かめておきたいという思いもある。
(この子からは敵意は感じないけど、雇い主が何を考えてるか分からないしな)
相手の情報がまるで無いのだ。無防備で近づくのは危険なのは確か。
「やはり素直にはついてこぬか。あやつの言う通りじゃったのう。……ほれ」
そう言って千疋が見せてきたのは一枚の封筒である。
「……賄賂?」
「小童相手にんなことするわけがなかろう……とは言いたいが、あやつのことじゃしのう」
「? 中身は知らないの?」
「絶対見るなって言われておるからのう。けど絶対って見るなと言われると見ろってフリじゃと思うじゃろ? だから見ようとした」
コイツ……運び屋には適さない性格のようだ。
「あれ? 見ようと……した?」
それは結果的に見ていないという意味に繋がる。
「うむ。見ておれ」
そう言うと、千疋は封筒を開けようとするが……開かない。次にさらに力を込めて封を破ろうとしても……やはり開かない。最後に全力で引き千切ろうとするが――。
「ふぬぬぬにゅぅぅぅ! ……はあ、はあ、はあ。こ、この通り、ビクともせんのだ。あやつめ、ワシが盗み見ると思って妙な術を使いおってからに……」
シワ一つすら入っていない封筒を忌々しそうに睨みつけている千疋から沖長は託された。
封筒を手にして確認するが、封筒自体は別段変わったところはない。普通の茶封筒である……が、唯一気になるのは封がされているところに奇妙縫い目があること。
よく見れば糸で縫われているようだが、このような封の仕方など初めて目にした。普通は糊やテープなどで止めるものだが、わざわざ縫うなんて真似をするとは驚きだ。
ただ糸で縫われているのなら、簡単に開きそうなものだが……。
そう思いながら縫い目に触れてみると、その瞬間糸が軽く解けて封が開いたのである。
「「……あ」」
思わず二人揃って声を出してしまった。
ひとりでに解けた糸は、そのまま地面に落ちていくが、その最中にスッと煙のように消失したのである。
(消えた!? おいおい、またファンタジーな能力なのかよ……)
もっともあれだけ力を入れてもシワ一つ入らない封筒を見た時点で嫌な予感はしていたが。
千疋はというと、消えた糸から封筒の方へ視線をやり、早く中身を確認しろと言ってくる。
とりあえず言われた通り、だが警戒しつつ中身に何が入っているか封筒を開いてみた。すると中には一枚の白い紙が入っていたので出してみる。
そしてそこに書かれた内容を見てギョッとしてしまった。
――バスジャック――
その言葉が何を意味するか、沖長には瞬時に理解した。
いやしかし、イレギュラーであるはずの自分に対して原作イベントが直接作用するとは思えない。現在沖長は一人。ナクルが傍にいればイベントの可能性が高かったが……。
(それにこの子、さっき待ってたって言ったよな?)
それは明らかに自分に対して向けられた言葉だった。つまりこれはまず間違いなく原作イベントではない。つまりは長門も知らないはずのイレギュラーイベントということ。
「これ、聞いておるのか?」
「! ……確か十鞍千疋、だったか?」
「うむ! 憶えてもらっておるようで何よりじゃのう!」
嬉しそうに笑い彼女の表面だけを見れば、普通の小学生にしか見えない。しかしこの子が普通ではないことだけは知っている。
(まずったな。そういやこの子のことを詳しく聞いてないぞ)
まだ情報共有の途中だったため、確かめたいことを全部ハッキリさせられていなかった。
「何でここにいるんだ?」
「さっき言うたろう。待っておったと」
やはり沖長を待っていたことに偽りはなさそうだ。
「てっきりナクルに会いに来たのかって思ったんだけどな」
「ほう、それは何故じゃ?」
「君もナクルと〝同じ〟なんだろ?」
「……どうやら勇者について聞いたようじゃのう。まあ周囲に日ノ部と籠屋、それにあの七宮の小娘もいるんじゃから当然か」
カラカラと楽し気に喉を鳴らす。何だかこうして話していると本当に年上と談笑している気分になってくる。
(この子が本物の十鞍千疋なら、十三年前にも勇者として活躍したんだよな)
だとすると今は一体幾つなのか……。見た目通りの年齢ではないのかもしれない。いや、それよりも何故自分に会いにきたのかが先だ。
「ナクルじゃなかったら、何で俺に?」
「回りくどいのは好かんのでな、率直に言うぞ。ワシの雇い主がお主との会合を望んでおるんじゃよ」
「雇い……主?」
その言葉で十鞍千疋が、個人で動いているわけではないことを知る。
(雇い主ってのは何者だ? 原作キャラか? だとすると何で俺と会いたい?)
次々湧いてくる疑問に、ここに長門がいてくれたらと思ってしまう。彼ならばこの状況でも何かしらの答えを出してくれるだろうから。
ここに来て『勇者少女なっくるナクル』を認知していなかった過去の自分を叱咤してやりたい。それほど有名なら一度くらいは漫画でもいいから目を通しておくべきだったと。
「……それって誰かな?」
「名を口にしたとて一度も相見えたこともなし意味はないぞ」
つまり初対面ということだ。なあ猶更沖長と会合したい理由が分からない。
「悪いけど、知らない人について行くのは親から禁止されてるんだよ」
「ワシとは既知じゃろうが」
「一度会っただけでお互い何も知らないじゃないか。信用できる相手でじゃないぞ」
「クク、小童のくせに用心深いのう」
「小童だからこそ誘拐とかに敏感なんだけどな」
とはいうものの、その雇い主とやらに興味が湧いているのも事実。放置のままでも気持ち悪いし、確かめておきたいという思いもある。
(この子からは敵意は感じないけど、雇い主が何を考えてるか分からないしな)
相手の情報がまるで無いのだ。無防備で近づくのは危険なのは確か。
「やはり素直にはついてこぬか。あやつの言う通りじゃったのう。……ほれ」
そう言って千疋が見せてきたのは一枚の封筒である。
「……賄賂?」
「小童相手にんなことするわけがなかろう……とは言いたいが、あやつのことじゃしのう」
「? 中身は知らないの?」
「絶対見るなって言われておるからのう。けど絶対って見るなと言われると見ろってフリじゃと思うじゃろ? だから見ようとした」
コイツ……運び屋には適さない性格のようだ。
「あれ? 見ようと……した?」
それは結果的に見ていないという意味に繋がる。
「うむ。見ておれ」
そう言うと、千疋は封筒を開けようとするが……開かない。次にさらに力を込めて封を破ろうとしても……やはり開かない。最後に全力で引き千切ろうとするが――。
「ふぬぬぬにゅぅぅぅ! ……はあ、はあ、はあ。こ、この通り、ビクともせんのだ。あやつめ、ワシが盗み見ると思って妙な術を使いおってからに……」
シワ一つすら入っていない封筒を忌々しそうに睨みつけている千疋から沖長は託された。
封筒を手にして確認するが、封筒自体は別段変わったところはない。普通の茶封筒である……が、唯一気になるのは封がされているところに奇妙縫い目があること。
よく見れば糸で縫われているようだが、このような封の仕方など初めて目にした。普通は糊やテープなどで止めるものだが、わざわざ縫うなんて真似をするとは驚きだ。
ただ糸で縫われているのなら、簡単に開きそうなものだが……。
そう思いながら縫い目に触れてみると、その瞬間糸が軽く解けて封が開いたのである。
「「……あ」」
思わず二人揃って声を出してしまった。
ひとりでに解けた糸は、そのまま地面に落ちていくが、その最中にスッと煙のように消失したのである。
(消えた!? おいおい、またファンタジーな能力なのかよ……)
もっともあれだけ力を入れてもシワ一つ入らない封筒を見た時点で嫌な予感はしていたが。
千疋はというと、消えた糸から封筒の方へ視線をやり、早く中身を確認しろと言ってくる。
とりあえず言われた通り、だが警戒しつつ中身に何が入っているか封筒を開いてみた。すると中には一枚の白い紙が入っていたので出してみる。
そしてそこに書かれた内容を見てギョッとしてしまった。
――バスジャック――
その言葉が何を意味するか、沖長には瞬時に理解した。
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