俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
80 / 258

79

 十鞍千疋という存在は連載時に登場したキャラクターらしい。確かに読み切りで出したら、謎の存在過ぎて説明不足で終わってしまうだろう。
 原作開始の流れは読み切りだが、そこには出てこないはずの連載時のキャラクターが登場する。それはまるで読み切りと連載の内容が同化しているかのよう。
 確かにそれは長門が言うように複雑怪奇かもしれない。

「それにこの予想は、もっと厄介な問題を引き起こす可能性だってある」
「厄介な問題? それって何だ?」
「仮に読み切りと連載が同一化した世界だとして、その二つだけが反映されてるわけじゃない可能性があるって話だよ」
「? ……つまり?」
「前に言ったけど、『勇者少女なっくるナクル』というコンテンツは爆発的人気で、様々なメディア展開もしてる。小説、ゲーム、映画とかね」
「……!? おいおい、まさかそれらもごちゃ混ぜになった世界とか言わないよな?」
「どうだろうね……」

 しかし長門の考察が外れているという確証だってない。何せすでに二つの世界が混流しているのだから。

「長門はそのすべてのメディアを把握してるのか?」
「一応……ね。ただ事細かくすべて覚えてるかって言われると自信はないかな。もっともリリミアが出てくる話は明確に記憶してるけどね」

 そう言いながら自慢げに胸を張る。やはり推しキャラが出てくる話に関しては、彼は無敵のようだ。ここに限っては頼もしい限りだ。 

「けれどゲームとかの場合はパラレルワールドなんかのIFの世界もあるから、全部が全部一緒くたになってるとは思えないけどね。そうなったら矛盾だって出てくるだろうし」

 なるほど。確かに有名なコンテンツでは、そういうメディア展開もあるだろう。このキャラクターが原作では死ぬけれど、プレイヤーの選択次第では死なないとか普通にある。

 ラブコメだって、選択次第で様々なヒロインと付き合ったり結婚したりと、個別にハッピーエンドを迎えることもできるが、それを現実化するなどというのは矛盾でしかない。

「ていうか改めて聞いても凄いな。小説にゲームに映画かぁ」
「さすがに実写化という話は聞かなかったけどね」

 まあ、ファンタジーものというのはとりわけ実写化は難しいだろう。大体が原作を見事に表現することができずにコケてしまう。中には別のジャンルとして成功するパターンもるようだが。

「ただ、スピンオフとかも多いし、全部を含めれば膨大過ぎてさすがにお手上げだね」
「羽竹よりも詳しい奴っているのかな?」
「さあね。あのバカ転生者コンビをとっても、僕が知識で劣っているとは思えないけど」

 バカ転生者コンビというのは、金剛寺銀河と赤髪のことで間違いないだろう。
 確かにアイツらが長門よりも熟知しているとは思えない。もっともそういうふうに見えるというだけで、本当は事細かに記憶していることだってあるかもしれないが。

「そういやサンキューな。金剛寺のことを抑えておいてくれて」

 原作開始時、間違いなく金剛寺が回収してくることを察していたので、邪魔をされないように長門には例の力を使ってもらい、金剛寺を介入できないようにしてもらっていたのだ。

 あの赤髪の介入は想定外だったため、現れた時は心底不安だったが、結果的に見ればアイツを利用することもできたので良しとした。
 長門にとっても原作ブレイクするにも、どう行動するか判別つかない者の介入はできる限り避けたいようだったので素直に力になってくれたのである。

 もっとも長門は蔦絵の死はほぼほぼ確定していると思っていたので、彼女が生存した事実に関しては驚いていたが。
 何せナクルの覚醒は、彼女の死ありきだったからだ。ただ沖長が蔦絵も守ろうとしていたことは知っていたので、もしかしたらという可能性だけは持っていたという。 

 ただ赤髪のお蔭かもしれないという話を、まだ信じていない様子ではあるが。

「とりあえず今後の流れについて改めて聞いておきたいんだけどな。その読み切りの内容はどうなってるんだ?」
「安心していいよ。あくまで読み切りは、ナクルの初ダンジョンクリアまでが描かれているだけだから」

 なるほど。そこまでだったらすでに終わった話だから気にする必要はなさそうだ。

「いや……まだ安心できないかも」
「は? どういうこと?」
「この世界が一体どこまでの作品が反映されてるか分からない以上は、読み切り以前の内容も盛り込まれてる可能性だってあるって思ってね」
「え……読み切りよりも前にどこかで別の話が表に出されたりしてたのか?」
「ほら、どんな物語だって最初は設定……つまりプロットから始まるでしょ?」

 プロットというのは、いわゆる作品を描く上での構想を文字や図で表したものだ。
 作家によって作り方は千差万別だとは思うが、最初から結末まで細かく設定する人や、大体の流れや登場キャラなどを設定するだけという人もいる。
 要はこれから描く作品における指標となるもの。

 長門曰く、『勇者少女なっくるナクル』が人気を博した結果、ある時期に連載前のプロット案や組み込もうとしている設定などが書かれたものが公式ファンブックなどに掲載されたとのこと。
 そこにはボツになった案なども多数掲載され、もしかしたら今後使用するキャラや設定なども記載していた。

「もしプロット案まで盛り込まれていたら僕にはどうしようもないよ。まったく覚えてないからね」
「それはまあ……しょうがないよな」

 そこまで熟知していたらファンを越えてマニアというか、もしかしたら作者よりも知識としては図抜けているかもしれない。

(けどよくクイズ番組とかで、そういうマニアの知識ってすげえしなぁ)

 セリフを一字一句覚えていたり、効果音だけでシーンを特定したり、僅かなシルエットだけでどんなグッズかを当てたりと、その知識は恐らく作者以上だろう。

「まあとりあえずは連載漫画の原作に沿った動きを把握しておけば何とかなると思うよ」
「そっか。じゃあ……」

 その時、学校のチャイムが鳴る。
 どうやら結構な時間を費やしてしまっていたようだ。そういうことで話の続きはまた今度ということになった。

 そしてその放課後のことだ。ナクルは珍しく友達と用事があるということで、久しぶりに一人で下校することになったのだが――。

「――――待っておったぞ」

 正門を出た直後に対面したその人物は――――ダンジョン内で出会った十鞍千疋だった。



あなたにおすすめの小説

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監
ファンタジー
日本のIT企業戦士であった有能な若者がある日突然に異世界に放り込まれてしまった。 異世界に転移した際に、ラノベにあるような白い世界は無かったし、神様にも会ってはいない。 但し、理由は不明だが、その身には強大な魔法の力が備わっていた。 転移した異世界の都市は、正にスタンピードで魔物の大襲撃に遭っているところであり、偶然であるにせよその場に居合わせた転移者は魔物を殲滅して街を救い、以後その異世界で大魔法師として生きることになった。 そうして、転移から200年余り後、親族や大勢の弟子が見守る中で彼は大往生を遂げた。 しかしながら、異世界で生涯を終え、あの世に行ったはずが、230年余りの知識経験と異能を持ったまま赤子になって明治時代に生まれ変わってしまったのである。 これは異世界に転移したことのある出戻り転生者の物語である。 *  あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。 ** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。 *** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。 @ 「小説家になろう」様にも投稿しています。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)