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(この状況、まあ俺が泣かせたように見えるわな。……いや、泣かせたんだけども)
しかし悪気があったわけではなく、むしろ千疋は喜びの涙だとは思いつつも、それをちゃんと説明しても聞いてくれるかどうか……。
そう思っていると、千疋がこのえの手を握り、そのまま自分の胸元へと持っていく。
「千……どうし……っ!?」
このえの視線は、握られた手の先。そしてそこでこの一連の原因を目にした。
当然痣についても知っているであろうこのえは、そこに刻まれていない痣を見て言葉を失っている。
そんな中、少し落ち着いた様子の千疋が沖長を見るべく見上げてきた。そして微笑を浮かべながら晴れやかな表情で口を開く。
「こうして……自身に向き合うと感じる……ワシの中にあったはずのコアが消失していることが」
「!? 千……それじゃ呪いが……っ」
「うむ……まだ信じられぬが、恐らく……のう」
すると、このえが感極まった様子で千疋を強く抱きしめた。そしてその目からはキラリと光るものが流れ落ちる。
「良かった……良かった…………よく分からないけれど……本当にっ……良かったぁ」
このえにとって本当に千疋という存在は大切なのだろう。それこそ己の人生には欠かせないほどに。
(正直やってしまった感が半端ないけど…………ま、別にいいか)
お互いに抱き合って喜びを分かち合う少女たちを見ていると、軽はずみに行動してしまったリスクに目を背けても仕方ないと思ってしまっていた。
そして二人ともに落ち着いたところで、当然ながら沖長が引き起こした事象に関して説明を求めてきた。
とりあえず廊下で話す内容でもないということで、再度このえの部屋へと向かう。
さすがに《アイテムボックス》そのものを伝えるわけにはいかいので、どういうふうに曲解させるか思案していると、突然千疋が目の前で土下座をした。その姿に思わず「え?」となったが、こちらの驚きをよそに彼女から口火を切る。
「この度は、ワシ……私に自由をお与えくださり感謝申し上げまする」
先ほどまでの豪胆で老獪な彼女はどこへやら、まるで別人かと思うほどの恐縮した態度を示してきた。しかも隣ではこのえも同様に頭を垂れている。
「ちょ、別にいいから頭を上げてくれ!」
「そうはいきませぬ。あなた様は私……いえ、十鞍千疋が追い求め続け、それでも叶うことのなかった望みを果たしてくださったのです。この御恩は、この程度で返し切れぬものではありませぬ」
「いやだから…………おい、壬生島、お前もそんなことは止めてくれ」
千疋は頑ななようなので、このえならばと思い声をかけたのだが……。
「……私も……感謝しているわ。それに……もし〝ダンジョンの秘宝〟を手に入れてくれたら……今と同じことをするつもりだったから」
彼女たちにとっては、ここまでするほどの宿願だったというわけだ。
しかし沖長にとっては別段苦労したわけでもないし、ただ神にもらった力を行使しただけ。だからここまで感謝されると正直にって居たたまれなくなるのだ。
「っ……ああもう分かった! 感謝は受け取る! だからせめて立ってくれ! これじゃ碌に話もできないしな!」
するとこちらの願いを聞き届けてくれて、「それがお望みならば」と千疋が立つと、このえもそれに倣う。
(ふぅ……どうも畏まられるのは苦手だな。けど……恩を売れたって考えると、こっちとしても利があったかもな)
二人が本当に感謝の意を向けてきていることは分かっているので、これならこちらを一方的に騙したり利用しようとはしてこないだろうと考えた。軽率に動いてしまったが、結果的に良かったかもしれない。
「沖長様、大変不躾ではございまするが――」
「ちょっと待て。沖長様とか止めてくれ」
「む……では主様とお呼びしても?」
「何でそうなる! さっきまで普通に沖長って呼んでただろ!」
「しかしすでにあなた様は、もう私の中では至高の御方と位置づけされておりまするゆえ」
「…………どういうこと?」
千疋曰く、もし誰かが自分の呪いを解いてくれたら、その人物に全幅の信頼とともに、主として忠義を尽くすつもりだったようだ。
「いやいや、この時代で主とかないし。それに十鞍の主は壬生島だろ?」
「ん? もしかして雇い主のことですかな? それはあくまでも主様への依頼を受けた立場としてのもの。今はただ信を預ける友であり幼馴染でありまする」
「あ、そうですか…………じゃなくて、とにかく主にはならんぞ! 壬生島からも言ってくれ。君の大切な幼馴染が、道を踏み外そうとしてるんだぞ!」
「? 千が……そう決めたのなら……構わないわ」
「うそぉん……」
どうやらここには味方はいないようだ。前世の知識を有していて、まだまともな思考を持っているであろう彼女ならば千疋を説得してくれると期待したが、それも儚く散った。
「主……どうかお認めになってくだされ。この通りですじゃ」
そう言って深々と頭を下げてくる。しかも何故かこのえも同じように。
正直に言ってこの歳で、いや、歳は関係ないか。偉くもないしそういう身分でもないのに、主なんて立場を許容なんてできない。
しかし何を言ったところで相手は折れてくれそうにない。このままでは時間を無駄に浪費し、ただただこちらが精神的に疲弊するだけだ。
「っ……………………はぁぁぁぁ。分かった……分かったよもう」
「本当かえ!」
沖長が認めると、嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべてきた。
「やった! やったぞ、このえ! ワシにも忠を尽くせる主を得ることができたぞ!」
「ん……良かった。わたしも……すごく嬉しい」
互いに手を取り合ってピョンピョン跳ねている。
主を得ることがそんなに嬉しいものなのか……。
(この世界じゃこれが普通なのか? …………ファンタジーって難しい)
そんな感じで少々現実逃避をしていると、さっそくこのえが本題を切り出してきた。
しかし悪気があったわけではなく、むしろ千疋は喜びの涙だとは思いつつも、それをちゃんと説明しても聞いてくれるかどうか……。
そう思っていると、千疋がこのえの手を握り、そのまま自分の胸元へと持っていく。
「千……どうし……っ!?」
このえの視線は、握られた手の先。そしてそこでこの一連の原因を目にした。
当然痣についても知っているであろうこのえは、そこに刻まれていない痣を見て言葉を失っている。
そんな中、少し落ち着いた様子の千疋が沖長を見るべく見上げてきた。そして微笑を浮かべながら晴れやかな表情で口を開く。
「こうして……自身に向き合うと感じる……ワシの中にあったはずのコアが消失していることが」
「!? 千……それじゃ呪いが……っ」
「うむ……まだ信じられぬが、恐らく……のう」
すると、このえが感極まった様子で千疋を強く抱きしめた。そしてその目からはキラリと光るものが流れ落ちる。
「良かった……良かった…………よく分からないけれど……本当にっ……良かったぁ」
このえにとって本当に千疋という存在は大切なのだろう。それこそ己の人生には欠かせないほどに。
(正直やってしまった感が半端ないけど…………ま、別にいいか)
お互いに抱き合って喜びを分かち合う少女たちを見ていると、軽はずみに行動してしまったリスクに目を背けても仕方ないと思ってしまっていた。
そして二人ともに落ち着いたところで、当然ながら沖長が引き起こした事象に関して説明を求めてきた。
とりあえず廊下で話す内容でもないということで、再度このえの部屋へと向かう。
さすがに《アイテムボックス》そのものを伝えるわけにはいかいので、どういうふうに曲解させるか思案していると、突然千疋が目の前で土下座をした。その姿に思わず「え?」となったが、こちらの驚きをよそに彼女から口火を切る。
「この度は、ワシ……私に自由をお与えくださり感謝申し上げまする」
先ほどまでの豪胆で老獪な彼女はどこへやら、まるで別人かと思うほどの恐縮した態度を示してきた。しかも隣ではこのえも同様に頭を垂れている。
「ちょ、別にいいから頭を上げてくれ!」
「そうはいきませぬ。あなた様は私……いえ、十鞍千疋が追い求め続け、それでも叶うことのなかった望みを果たしてくださったのです。この御恩は、この程度で返し切れぬものではありませぬ」
「いやだから…………おい、壬生島、お前もそんなことは止めてくれ」
千疋は頑ななようなので、このえならばと思い声をかけたのだが……。
「……私も……感謝しているわ。それに……もし〝ダンジョンの秘宝〟を手に入れてくれたら……今と同じことをするつもりだったから」
彼女たちにとっては、ここまでするほどの宿願だったというわけだ。
しかし沖長にとっては別段苦労したわけでもないし、ただ神にもらった力を行使しただけ。だからここまで感謝されると正直にって居たたまれなくなるのだ。
「っ……ああもう分かった! 感謝は受け取る! だからせめて立ってくれ! これじゃ碌に話もできないしな!」
するとこちらの願いを聞き届けてくれて、「それがお望みならば」と千疋が立つと、このえもそれに倣う。
(ふぅ……どうも畏まられるのは苦手だな。けど……恩を売れたって考えると、こっちとしても利があったかもな)
二人が本当に感謝の意を向けてきていることは分かっているので、これならこちらを一方的に騙したり利用しようとはしてこないだろうと考えた。軽率に動いてしまったが、結果的に良かったかもしれない。
「沖長様、大変不躾ではございまするが――」
「ちょっと待て。沖長様とか止めてくれ」
「む……では主様とお呼びしても?」
「何でそうなる! さっきまで普通に沖長って呼んでただろ!」
「しかしすでにあなた様は、もう私の中では至高の御方と位置づけされておりまするゆえ」
「…………どういうこと?」
千疋曰く、もし誰かが自分の呪いを解いてくれたら、その人物に全幅の信頼とともに、主として忠義を尽くすつもりだったようだ。
「いやいや、この時代で主とかないし。それに十鞍の主は壬生島だろ?」
「ん? もしかして雇い主のことですかな? それはあくまでも主様への依頼を受けた立場としてのもの。今はただ信を預ける友であり幼馴染でありまする」
「あ、そうですか…………じゃなくて、とにかく主にはならんぞ! 壬生島からも言ってくれ。君の大切な幼馴染が、道を踏み外そうとしてるんだぞ!」
「? 千が……そう決めたのなら……構わないわ」
「うそぉん……」
どうやらここには味方はいないようだ。前世の知識を有していて、まだまともな思考を持っているであろう彼女ならば千疋を説得してくれると期待したが、それも儚く散った。
「主……どうかお認めになってくだされ。この通りですじゃ」
そう言って深々と頭を下げてくる。しかも何故かこのえも同じように。
正直に言ってこの歳で、いや、歳は関係ないか。偉くもないしそういう身分でもないのに、主なんて立場を許容なんてできない。
しかし何を言ったところで相手は折れてくれそうにない。このままでは時間を無駄に浪費し、ただただこちらが精神的に疲弊するだけだ。
「っ……………………はぁぁぁぁ。分かった……分かったよもう」
「本当かえ!」
沖長が認めると、嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべてきた。
「やった! やったぞ、このえ! ワシにも忠を尽くせる主を得ることができたぞ!」
「ん……良かった。わたしも……すごく嬉しい」
互いに手を取り合ってピョンピョン跳ねている。
主を得ることがそんなに嬉しいものなのか……。
(この世界じゃこれが普通なのか? …………ファンタジーって難しい)
そんな感じで少々現実逃避をしていると、さっそくこのえが本題を切り出してきた。
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