93 / 258
92
しおりを挟む
「それにしても……どうやって千の呪いを解いたのかしら?」
それは千疋もやはり気にはなっていたようで、真剣な目を沖長へと向けてきた。
「あー…………他言しないって誓えるか?」
「無論。我が身も心もすでに主様のもの。その御心に背くことは決してしませぬ」
そう言いながら跪くので、その気持ちの重さに頬が引き攣ってしまったが、これはこれで安心できる要素でもある。
これなら千疋に対してキツク言い含めておけば、本当に他言などしないだろう。問題はこのえの方だ。
「わたしも……千の主を敵に回すようなことは……するつもりはないわ」
こちらはこちらで千疋がストッパーになってくれるか。ならば二人にある程度話しても問題ないかもしれない。もちろん正確な情報を伝えるつもりはない。だから……。
「……俺は、認識したモノを消すことができるんだよ」
「!? そ、それは真でございますかの!」
声を上げた千疋はもちろん、このえも僅かに目を見開いていることから衝撃を受けているのは事実らしい。
実際は回収して、再度取り出すことができるのだが、とりあえず回収までの工程だけを教えることにした。
「つまり……主様はワシの中の呪いを認識したことで、それを消すことができたと? ではあの時、ワシに触れたのは……」
「そうだ。目に見えないものでも、対象物に触れることでその対象のすべて、あるいは一部を消すことができる。もっとも俺が生物だと認識したものは消すことはできないけどな」
「そ、それは……とてつもないお力でございますな。いやしかし、さすがはワシが主と認めたお方じゃ。この胸の高鳴りは、まさに有頂天外!」
ちなみに有頂天外とは、確か大喜びして我を忘れるといった意味だったはず。まあ自分が慕う相手が図抜けた力を持つ存在なのは誇らしいかもしれないが。
「……それが……あなたが授かった力……なのね」
このえだけは、この力の原点を知っているはずなので、「まあな」とだけ答えておく。
ここで〝転生特典〟という言葉を口にしないのは空気を読んでいる証だろう。
ということは、幼馴染の十鞍にも転生については話してないってことかもしれない。
「聞いて分かったと思うけど、この力は周りにとっては危険でしかない。だから他言は絶対にしないでほしい」
二人から改めて了承を得て、とりあえず胸を撫で下ろしておく。
(回収の力だけでも教えるのにリスクはあるけど、これで二人がナクルを危険に巻き込む確率がグッと減ったことだけで良かったとするか)
呪いがなくなったことにより、二人の目的は完遂された。すなわちもう〝ユニークダンジョン〟という迷宮を探して挑む必要がなくなったのだ。とすればナクルが巻き込まれる確率もほぼなくなったといえる。
(もしかしたら原作じゃ、十鞍と仲良くなったナクルが呪いを解くために奔走したってことも考えられるしな)
そうだとすればガッツリ原作ブレイクを果たしてしまったが、それはそれで良しとしておく。
(ただ〝ダンジョンの秘宝〟は手にしておきたいってのはあるんだよな)
理想が叶うというのなら、ナクルが危機に陥った時などにそれを解消することもできるということだ。所持していて損ではない。ただ、それはまたあとで考えることだろう。
「……けれど困ったこともあるわ」
「? 急にどうしたんじゃ、このえ?」
沖長も、いきなりのこのえの発言に意識を向けた。
「〝ユニークダンジョン〟探し……お父様たちにも頼んでいるでしょう?」
「あ……そうじゃったのう」
聞けば、この家の者たちと懇意にしている千疋を救おうと、このえのためにも彼女の父が〝ユニークダンジョン〟の探索に人員を割いているとのこと。
しかしもう必要はなくなった……が、その理由をどう説明したものかと悩んでいる様子。
何せ沖長が呪いを解いたことを伝えることは約束を破ることと同義なのだ。
「別に探索自体は任せておいてもいいんじゃないか?」
そこで沖長はそのように提案した。そもそも探索したところで、挑むことができるのは選ばれた者だけだし、もしその居場所が判明すれば沖長は一人で挑むつもりだからだ。
「どうせダンジョンを見つけるには時間がかかると思うし、最近呪いが徐々に弱まりつつあるなどといったことを事前に親父さんに伝えておくんだ。そんでダンジョンが見つかるか、あるいはその前に呪いが失われたと言う」
「ふむ……弱まった理由はいかように?」
「それはどういった理由でもいいと思うぞ。何せ呪いなんて実際にかかる方が珍しいんだ。不可思議なものなんだから、誤魔化した内容でも経験者でもない限りは納得するしかないだろうしな」
「ククク、なるほどのう。どうやら此度の主様は姦計が得意なようで何よりじゃ」
「いやいや、別にこの程度姦計ってほどじゃ……って、此度? ……ああ、もしかして前の十鞍千疋が仕えてた相手がいるってことか?」
「元々十鞍というのは忍びの一族ですからのう。昔から権力者の草役を担っていたのですぞ」
まさかここでも忍びという言葉を耳にするとは思わなかった。しかしだとすれば、あれほどの動きをしている理由にも説明がつくし。
(なるほど。主を持つことに抵抗がないのは、過去の知識が今の彼女に備わっているから、か)
とはいっても沖長もまたどちらかというと、殿や将ではなくただの忍びだ。忍びに忍びが仕えるといった謎な関係になっているが、そこは気にしても仕方ないだろう。
(けどそう考えると、今代の勇者や候補生全員が忍びの血筋かそれに関係してる……何か理由があるのか?)
まだ他の勇者や候補生たちに会っていないが、何かしらの因果があるのかもしれない。
(いや、あの赤髪は違うか。転生者はそもそもイレギュラーだしな)
ダンジョンに挑むことができる存在は、勇者か候補生。あるいは沖長たちのような特別な〝ナニカ〟を有する者との話だ。
忍びでなくとも、生まれつき身体能力が優れているとか、突出した才能があればダンジョンに入ることができるのかもしれない。
そんな感じで思考を巡らせていると、誰かがこちらに近づいてきている気配に気づく。
それは千疋も察したようで、襖の方へ視線を向けている。その直後だ。
「――――入るぞ、このえ」
このえの承諾を待たずに、襖が勢いよく開かれた。
それは千疋もやはり気にはなっていたようで、真剣な目を沖長へと向けてきた。
「あー…………他言しないって誓えるか?」
「無論。我が身も心もすでに主様のもの。その御心に背くことは決してしませぬ」
そう言いながら跪くので、その気持ちの重さに頬が引き攣ってしまったが、これはこれで安心できる要素でもある。
これなら千疋に対してキツク言い含めておけば、本当に他言などしないだろう。問題はこのえの方だ。
「わたしも……千の主を敵に回すようなことは……するつもりはないわ」
こちらはこちらで千疋がストッパーになってくれるか。ならば二人にある程度話しても問題ないかもしれない。もちろん正確な情報を伝えるつもりはない。だから……。
「……俺は、認識したモノを消すことができるんだよ」
「!? そ、それは真でございますかの!」
声を上げた千疋はもちろん、このえも僅かに目を見開いていることから衝撃を受けているのは事実らしい。
実際は回収して、再度取り出すことができるのだが、とりあえず回収までの工程だけを教えることにした。
「つまり……主様はワシの中の呪いを認識したことで、それを消すことができたと? ではあの時、ワシに触れたのは……」
「そうだ。目に見えないものでも、対象物に触れることでその対象のすべて、あるいは一部を消すことができる。もっとも俺が生物だと認識したものは消すことはできないけどな」
「そ、それは……とてつもないお力でございますな。いやしかし、さすがはワシが主と認めたお方じゃ。この胸の高鳴りは、まさに有頂天外!」
ちなみに有頂天外とは、確か大喜びして我を忘れるといった意味だったはず。まあ自分が慕う相手が図抜けた力を持つ存在なのは誇らしいかもしれないが。
「……それが……あなたが授かった力……なのね」
このえだけは、この力の原点を知っているはずなので、「まあな」とだけ答えておく。
ここで〝転生特典〟という言葉を口にしないのは空気を読んでいる証だろう。
ということは、幼馴染の十鞍にも転生については話してないってことかもしれない。
「聞いて分かったと思うけど、この力は周りにとっては危険でしかない。だから他言は絶対にしないでほしい」
二人から改めて了承を得て、とりあえず胸を撫で下ろしておく。
(回収の力だけでも教えるのにリスクはあるけど、これで二人がナクルを危険に巻き込む確率がグッと減ったことだけで良かったとするか)
呪いがなくなったことにより、二人の目的は完遂された。すなわちもう〝ユニークダンジョン〟という迷宮を探して挑む必要がなくなったのだ。とすればナクルが巻き込まれる確率もほぼなくなったといえる。
(もしかしたら原作じゃ、十鞍と仲良くなったナクルが呪いを解くために奔走したってことも考えられるしな)
そうだとすればガッツリ原作ブレイクを果たしてしまったが、それはそれで良しとしておく。
(ただ〝ダンジョンの秘宝〟は手にしておきたいってのはあるんだよな)
理想が叶うというのなら、ナクルが危機に陥った時などにそれを解消することもできるということだ。所持していて損ではない。ただ、それはまたあとで考えることだろう。
「……けれど困ったこともあるわ」
「? 急にどうしたんじゃ、このえ?」
沖長も、いきなりのこのえの発言に意識を向けた。
「〝ユニークダンジョン〟探し……お父様たちにも頼んでいるでしょう?」
「あ……そうじゃったのう」
聞けば、この家の者たちと懇意にしている千疋を救おうと、このえのためにも彼女の父が〝ユニークダンジョン〟の探索に人員を割いているとのこと。
しかしもう必要はなくなった……が、その理由をどう説明したものかと悩んでいる様子。
何せ沖長が呪いを解いたことを伝えることは約束を破ることと同義なのだ。
「別に探索自体は任せておいてもいいんじゃないか?」
そこで沖長はそのように提案した。そもそも探索したところで、挑むことができるのは選ばれた者だけだし、もしその居場所が判明すれば沖長は一人で挑むつもりだからだ。
「どうせダンジョンを見つけるには時間がかかると思うし、最近呪いが徐々に弱まりつつあるなどといったことを事前に親父さんに伝えておくんだ。そんでダンジョンが見つかるか、あるいはその前に呪いが失われたと言う」
「ふむ……弱まった理由はいかように?」
「それはどういった理由でもいいと思うぞ。何せ呪いなんて実際にかかる方が珍しいんだ。不可思議なものなんだから、誤魔化した内容でも経験者でもない限りは納得するしかないだろうしな」
「ククク、なるほどのう。どうやら此度の主様は姦計が得意なようで何よりじゃ」
「いやいや、別にこの程度姦計ってほどじゃ……って、此度? ……ああ、もしかして前の十鞍千疋が仕えてた相手がいるってことか?」
「元々十鞍というのは忍びの一族ですからのう。昔から権力者の草役を担っていたのですぞ」
まさかここでも忍びという言葉を耳にするとは思わなかった。しかしだとすれば、あれほどの動きをしている理由にも説明がつくし。
(なるほど。主を持つことに抵抗がないのは、過去の知識が今の彼女に備わっているから、か)
とはいっても沖長もまたどちらかというと、殿や将ではなくただの忍びだ。忍びに忍びが仕えるといった謎な関係になっているが、そこは気にしても仕方ないだろう。
(けどそう考えると、今代の勇者や候補生全員が忍びの血筋かそれに関係してる……何か理由があるのか?)
まだ他の勇者や候補生たちに会っていないが、何かしらの因果があるのかもしれない。
(いや、あの赤髪は違うか。転生者はそもそもイレギュラーだしな)
ダンジョンに挑むことができる存在は、勇者か候補生。あるいは沖長たちのような特別な〝ナニカ〟を有する者との話だ。
忍びでなくとも、生まれつき身体能力が優れているとか、突出した才能があればダンジョンに入ることができるのかもしれない。
そんな感じで思考を巡らせていると、誰かがこちらに近づいてきている気配に気づく。
それは千疋も察したようで、襖の方へ視線を向けている。その直後だ。
「――――入るぞ、このえ」
このえの承諾を待たずに、襖が勢いよく開かれた。
318
あなたにおすすめの小説
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる