俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
92 / 258

91

しおりを挟む
(この状況、まあ俺が泣かせたように見えるわな。……いや、泣かせたんだけども)

 しかし悪気があったわけではなく、むしろ千疋は喜びの涙だとは思いつつも、それをちゃんと説明しても聞いてくれるかどうか……。
 そう思っていると、千疋がこのえの手を握り、そのまま自分の胸元へと持っていく。

「千……どうし……っ!?」

 このえの視線は、握られた手の先。そしてそこでこの一連の原因を目にした。
 当然痣についても知っているであろうこのえは、そこに刻まれていない痣を見て言葉を失っている。

 そんな中、少し落ち着いた様子の千疋が沖長を見るべく見上げてきた。そして微笑を浮かべながら晴れやかな表情で口を開く。

「こうして……自身に向き合うと感じる……ワシの中にあったはずのコアが消失していることが」
「!? 千……それじゃ呪いが……っ」
「うむ……まだ信じられぬが、恐らく……のう」

 すると、このえが感極まった様子で千疋を強く抱きしめた。そしてその目からはキラリと光るものが流れ落ちる。

「良かった……良かった…………よく分からないけれど……本当にっ……良かったぁ」

 このえにとって本当に千疋という存在は大切なのだろう。それこそ己の人生には欠かせないほどに。

(正直やってしまった感が半端ないけど…………ま、別にいいか)

 お互いに抱き合って喜びを分かち合う少女たちを見ていると、軽はずみに行動してしまったリスクに目を背けても仕方ないと思ってしまっていた。
 そして二人ともに落ち着いたところで、当然ながら沖長が引き起こした事象に関して説明を求めてきた。

 とりあえず廊下で話す内容でもないということで、再度このえの部屋へと向かう。
 さすがに《アイテムボックス》そのものを伝えるわけにはいかいので、どういうふうに曲解させるか思案していると、突然千疋が目の前で土下座をした。その姿に思わず「え?」となったが、こちらの驚きをよそに彼女から口火を切る。

「この度は、ワシ……私に自由をお与えくださり感謝申し上げまする」

 先ほどまでの豪胆で老獪な彼女はどこへやら、まるで別人かと思うほどの恐縮した態度を示してきた。しかも隣ではこのえも同様に頭を垂れている。

「ちょ、別にいいから頭を上げてくれ!」
「そうはいきませぬ。あなた様は私……いえ、十鞍千疋が追い求め続け、それでも叶うことのなかった望みを果たしてくださったのです。この御恩は、この程度で返し切れぬものではありませぬ」
「いやだから…………おい、壬生島、お前もそんなことは止めてくれ」

 千疋は頑ななようなので、このえならばと思い声をかけたのだが……。

「……私も……感謝しているわ。それに……もし〝ダンジョンの秘宝〟を手に入れてくれたら……今と同じことをするつもりだったから」

 彼女たちにとっては、ここまでするほどの宿願だったというわけだ。
 しかし沖長にとっては別段苦労したわけでもないし、ただ神にもらった力を行使しただけ。だからここまで感謝されると正直にって居たたまれなくなるのだ。

「っ……ああもう分かった! 感謝は受け取る! だからせめて立ってくれ! これじゃ碌に話もできないしな!」

 するとこちらの願いを聞き届けてくれて、「それがお望みならば」と千疋が立つと、このえもそれに倣う。

(ふぅ……どうも畏まられるのは苦手だな。けど……恩を売れたって考えると、こっちとしても利があったかもな)

 二人が本当に感謝の意を向けてきていることは分かっているので、これならこちらを一方的に騙したり利用しようとはしてこないだろうと考えた。軽率に動いてしまったが、結果的に良かったかもしれない。

「沖長様、大変不躾ではございまするが――」
「ちょっと待て。沖長様とか止めてくれ」
「む……では主様とお呼びしても?」
「何でそうなる! さっきまで普通に沖長って呼んでただろ!」
「しかしすでにあなた様は、もう私の中では至高の御方と位置づけされておりまするゆえ」
「…………どういうこと?」

 千疋曰く、もし誰かが自分の呪いを解いてくれたら、その人物に全幅の信頼とともに、主として忠義を尽くすつもりだったようだ。

「いやいや、この時代で主とかないし。それに十鞍の主は壬生島だろ?」
「ん? もしかして雇い主のことですかな? それはあくまでも主様への依頼を受けた立場としてのもの。今はただ信を預ける友であり幼馴染でありまする」
「あ、そうですか…………じゃなくて、とにかく主にはならんぞ! 壬生島からも言ってくれ。君の大切な幼馴染が、道を踏み外そうとしてるんだぞ!」
「? 千が……そう決めたのなら……構わないわ」
「うそぉん……」

 どうやらここには味方はいないようだ。前世の知識を有していて、まだまともな思考を持っているであろう彼女ならば千疋を説得してくれると期待したが、それも儚く散った。

「主……どうかお認めになってくだされ。この通りですじゃ」

 そう言って深々と頭を下げてくる。しかも何故かこのえも同じように。
 正直に言ってこの歳で、いや、歳は関係ないか。偉くもないしそういう身分でもないのに、主なんて立場を許容なんてできない。

 しかし何を言ったところで相手は折れてくれそうにない。このままでは時間を無駄に浪費し、ただただこちらが精神的に疲弊するだけだ。

「っ……………………はぁぁぁぁ。分かった……分かったよもう」
「本当かえ!」

 沖長が認めると、嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべてきた。

「やった! やったぞ、このえ! ワシにも忠を尽くせる主を得ることができたぞ!」
「ん……良かった。わたしも……すごく嬉しい」

 互いに手を取り合ってピョンピョン跳ねている。
 主を得ることがそんなに嬉しいものなのか……。

(この世界じゃこれが普通なのか? …………ファンタジーって難しい)

 そんな感じで少々現実逃避をしていると、さっそくこのえが本題を切り出してきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...