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開始の合図とともに目の前にいたはずの雪風の姿が消えた……否、消えたように思えるほどのスピードで懐へと入り込んできたのだ。
(おぉ、速い)
その動きは間違いなく大人でも面食らうだろう。というよりも武を嗜んでいなければ、仮に目で追えたとしても身体が反応できなかったはず。
しかしまだ子供とはいえ沖長もまた古武術に身を置く者。それに加え、その洞察力に関しては他の追随を許さないほど鋭いものを持っている。故に、こちらを掴もうとしてきた雪風の両手をさらりと回避して距離を取った。
「!? ……避けられた?」
どうやら今の一連の攻撃で模擬戦を終わらせようとしていた様子の雪風。だからか回避をした沖長を睨みつけるような視線を向けながらぼやいていた。
(ナクルよりも小さいし、多分スピードタイプだと思ってたけど、当たってたみたいだな)
ナクルもどちらかというとスピードタイプだ。だから普段の組手でもナクルを相手にしている沖長は、こういった手合いには慣れているのである。
(掴もうとしてきたってことは柔術系なんだろうな)
正直いって彼女が学んでいる武の詳細は知らないが、武器や打撃などが主体の日ノ部流とは違うことを瞬時に察した。
「……少し手加減が過ぎたようです。次で……終わらせますから」
明らかに表情が先ほどよりも厳しくなる雪風。それに対し沖長は苦笑を浮かべながら答える。
「あーお手柔らかに、な?」
「……本当に覇気のない……行きます」
するとまたも電光石火な動きを見せてきた。今度は蛇行しながらの肉迫である。無駄な動きにしか見えないが、確かにこれだけの速度で動かれれば翻弄されてしまうかもしれない。しかし沖長にはちゃんと彼女の動きが見えている。
瞬く間に沖長の右側に陣取った雪風は、そのまま沖長の右手首を両手で掴んだ。そして彼女にとってはこれまで相手してきた者たち同様に、軽く捻って地面に倒すつもりだったはず。
だが沖長は掴まれたと同時に自ら腕を素早く捻って、雪風の握力から逃れると、逆に雪風の右手首を掴んでやった。
「ほい、捕まえた」
「!? な、何で……っ!?」
信じられないという面持ちで固まる雪風。勝負の最中にその反応は本来なら説教ものではあるが、叱らず丁寧に説明したのは蔦絵だった。
「何をされたか分からないようね。簡単よ。沖長くんは、あなたが完全に掴む前に手首を拘束で捻り、その勢いで逃れたのよ。そしてその流れであなたの手首を逆に掴んだ。これは合気技の一種。あなたなら理解できるでしょう、すでに柳守流柔術の中伝を治めて奥伝に手が届くと言われている雪風さんなら」
「!? ……雪が……合気で返され……た? ――くっ!?」
愕然とした表情をした雪風だったが、歯を食いしばったと思うと、先ほどの沖長が見せたような腕を捻って拘束から抜け出してその場から距離を取った。
「こら、沖長くん。簡単に外しちゃダメじゃない」
「あ、いやその……すみません蔦絵さん」
相手が小さい女の子ということもあり、全力で掴んでいなかったことが相手を自由にさせた要因だった。模擬戦である以上は真剣にやらないといけないこともありお叱りを受けてしまった。
(とはいっても少しは力を入れてたんだけど……やっぱナクルと一緒で普通じゃないよなぁ。さすがだよ。さすがは――――原作のメインキャラの一人だ)
そう、彼女――柳守雪風もまたナクルと同様に原作キャラの一人。しかも彼女もまた勇者として描かれる。原作を則れば、いまだ勇者として覚醒してはいないはずだが、それでも現時点でも同年代の子供たちと比べても明らかに秀でた力を有していた。
(確かこの子、原作じゃナクルと模擬戦するんだよな。そんでナクルの力に惹かれてお姉さま呼びするとか)
ナクルはお姉さまという柄ではないが、それまで強過ぎて孤独だった雪風にとっては、ナクルの強さは魅力的過ぎたらしい。その輝きに魅せられ慕うようになるのだ。
(それなのに何でこうなっちゃうかなぁ……)
チラリとナクルを見るが、彼女は満面の笑みで沖長を応援している。できれば立場を変えてほしいと思うが、これも自分の存在が引き起こしたイレギュラーだと判断し項垂れてしまう。
「…………分かりました。もう油断はしません。次こそは、あなたを懲らしめてみせます」
「懲らしめるって……俺、鬼じゃないんだけどな」
ただ今度こそマジのようで、空気が一瞬にして変わりピリつく。雪風からも隙が見当たらず、徐々にオーラも膨れ上がっていく。
「あ、あのバカ、オーラまで使い始めちゃった」
頭を抱えながらそう口にしたのは雪風の父である陣一だった。どうやらこの程度の模擬戦でオーラを使うまでもないと思っていたようだ。いや、そもそもオーラを使っていない相手《沖長》に対しオーラを使用するのはマズイと考えていたのかもしれない。
しかし雪風の小さな身体から流れ出るオーラは力強く、さすがに沖長も表情を引き締めるに至る。
「――柳守流柔術継承者・柳守雪風。――参ります」
刹那、雪風の踏み込みと同時に大地に亀裂が走る。一瞬にしてトップスピードへと至った雪風の動きは、それまでのものとは一線を画していた。恐らく彼女は今度こそ沖長は、反応すらできずに成すがままになると思っていただろう。
しかしながらその動きを生んでいるオーラが、フッと掻き消えてしまう。そのせいで元の動きに戻ると同時、弱体化を悟った雪風は動揺し動きが鈍る。
「――――悪いな」
そんな沖長の言葉と同時に、雪風の小さな身体はクルリと一回転して、そっと地面に横たわった。ほとんど衝撃はなかったので痛みはなかったはず。
だがその現象に衝撃を受けたようで、雪風は目を見開いたまま身動きせずにジッとしていた。
現場でただ一人、何が起きたのかすべてを知っているのは沖長だけ。
端的に言うと、雪風のオーラを《アイテムボックス》に回収したということ。どうやらオーラを使うのは禁じ手みたいな雰囲気だったために、悪いと思いながらもそのオーラを回収させてもらったのだ。
そして雪風が隙を見せたところをついて、空気投げの一種で彼女の身体を投げた。もちろん怪我をさせないように気は使ったが。いくら真剣にだからといっても、固い地面の上に自分よりも年下の女子を叩きつけるなんてできないので。
完全な騙し討ちみたいになったが、何はともあれ、これで……。
「――そこまで! 勝者は、札月沖長!」
蔦絵の宣言で模擬戦は終了となった。
(おぉ、速い)
その動きは間違いなく大人でも面食らうだろう。というよりも武を嗜んでいなければ、仮に目で追えたとしても身体が反応できなかったはず。
しかしまだ子供とはいえ沖長もまた古武術に身を置く者。それに加え、その洞察力に関しては他の追随を許さないほど鋭いものを持っている。故に、こちらを掴もうとしてきた雪風の両手をさらりと回避して距離を取った。
「!? ……避けられた?」
どうやら今の一連の攻撃で模擬戦を終わらせようとしていた様子の雪風。だからか回避をした沖長を睨みつけるような視線を向けながらぼやいていた。
(ナクルよりも小さいし、多分スピードタイプだと思ってたけど、当たってたみたいだな)
ナクルもどちらかというとスピードタイプだ。だから普段の組手でもナクルを相手にしている沖長は、こういった手合いには慣れているのである。
(掴もうとしてきたってことは柔術系なんだろうな)
正直いって彼女が学んでいる武の詳細は知らないが、武器や打撃などが主体の日ノ部流とは違うことを瞬時に察した。
「……少し手加減が過ぎたようです。次で……終わらせますから」
明らかに表情が先ほどよりも厳しくなる雪風。それに対し沖長は苦笑を浮かべながら答える。
「あーお手柔らかに、な?」
「……本当に覇気のない……行きます」
するとまたも電光石火な動きを見せてきた。今度は蛇行しながらの肉迫である。無駄な動きにしか見えないが、確かにこれだけの速度で動かれれば翻弄されてしまうかもしれない。しかし沖長にはちゃんと彼女の動きが見えている。
瞬く間に沖長の右側に陣取った雪風は、そのまま沖長の右手首を両手で掴んだ。そして彼女にとってはこれまで相手してきた者たち同様に、軽く捻って地面に倒すつもりだったはず。
だが沖長は掴まれたと同時に自ら腕を素早く捻って、雪風の握力から逃れると、逆に雪風の右手首を掴んでやった。
「ほい、捕まえた」
「!? な、何で……っ!?」
信じられないという面持ちで固まる雪風。勝負の最中にその反応は本来なら説教ものではあるが、叱らず丁寧に説明したのは蔦絵だった。
「何をされたか分からないようね。簡単よ。沖長くんは、あなたが完全に掴む前に手首を拘束で捻り、その勢いで逃れたのよ。そしてその流れであなたの手首を逆に掴んだ。これは合気技の一種。あなたなら理解できるでしょう、すでに柳守流柔術の中伝を治めて奥伝に手が届くと言われている雪風さんなら」
「!? ……雪が……合気で返され……た? ――くっ!?」
愕然とした表情をした雪風だったが、歯を食いしばったと思うと、先ほどの沖長が見せたような腕を捻って拘束から抜け出してその場から距離を取った。
「こら、沖長くん。簡単に外しちゃダメじゃない」
「あ、いやその……すみません蔦絵さん」
相手が小さい女の子ということもあり、全力で掴んでいなかったことが相手を自由にさせた要因だった。模擬戦である以上は真剣にやらないといけないこともありお叱りを受けてしまった。
(とはいっても少しは力を入れてたんだけど……やっぱナクルと一緒で普通じゃないよなぁ。さすがだよ。さすがは――――原作のメインキャラの一人だ)
そう、彼女――柳守雪風もまたナクルと同様に原作キャラの一人。しかも彼女もまた勇者として描かれる。原作を則れば、いまだ勇者として覚醒してはいないはずだが、それでも現時点でも同年代の子供たちと比べても明らかに秀でた力を有していた。
(確かこの子、原作じゃナクルと模擬戦するんだよな。そんでナクルの力に惹かれてお姉さま呼びするとか)
ナクルはお姉さまという柄ではないが、それまで強過ぎて孤独だった雪風にとっては、ナクルの強さは魅力的過ぎたらしい。その輝きに魅せられ慕うようになるのだ。
(それなのに何でこうなっちゃうかなぁ……)
チラリとナクルを見るが、彼女は満面の笑みで沖長を応援している。できれば立場を変えてほしいと思うが、これも自分の存在が引き起こしたイレギュラーだと判断し項垂れてしまう。
「…………分かりました。もう油断はしません。次こそは、あなたを懲らしめてみせます」
「懲らしめるって……俺、鬼じゃないんだけどな」
ただ今度こそマジのようで、空気が一瞬にして変わりピリつく。雪風からも隙が見当たらず、徐々にオーラも膨れ上がっていく。
「あ、あのバカ、オーラまで使い始めちゃった」
頭を抱えながらそう口にしたのは雪風の父である陣一だった。どうやらこの程度の模擬戦でオーラを使うまでもないと思っていたようだ。いや、そもそもオーラを使っていない相手《沖長》に対しオーラを使用するのはマズイと考えていたのかもしれない。
しかし雪風の小さな身体から流れ出るオーラは力強く、さすがに沖長も表情を引き締めるに至る。
「――柳守流柔術継承者・柳守雪風。――参ります」
刹那、雪風の踏み込みと同時に大地に亀裂が走る。一瞬にしてトップスピードへと至った雪風の動きは、それまでのものとは一線を画していた。恐らく彼女は今度こそ沖長は、反応すらできずに成すがままになると思っていただろう。
しかしながらその動きを生んでいるオーラが、フッと掻き消えてしまう。そのせいで元の動きに戻ると同時、弱体化を悟った雪風は動揺し動きが鈍る。
「――――悪いな」
そんな沖長の言葉と同時に、雪風の小さな身体はクルリと一回転して、そっと地面に横たわった。ほとんど衝撃はなかったので痛みはなかったはず。
だがその現象に衝撃を受けたようで、雪風は目を見開いたまま身動きせずにジッとしていた。
現場でただ一人、何が起きたのかすべてを知っているのは沖長だけ。
端的に言うと、雪風のオーラを《アイテムボックス》に回収したということ。どうやらオーラを使うのは禁じ手みたいな雰囲気だったために、悪いと思いながらもそのオーラを回収させてもらったのだ。
そして雪風が隙を見せたところをついて、空気投げの一種で彼女の身体を投げた。もちろん怪我をさせないように気は使ったが。いくら真剣にだからといっても、固い地面の上に自分よりも年下の女子を叩きつけるなんてできないので。
完全な騙し討ちみたいになったが、何はともあれ、これで……。
「――そこまで! 勝者は、札月沖長!」
蔦絵の宣言で模擬戦は終了となった。
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