俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
212 / 258

211

しおりを挟む
 開始の合図とともに目の前にいたはずの雪風の姿が消えた……否、消えたように思えるほどのスピードで懐へと入り込んできたのだ。

(おぉ、速い)

 その動きは間違いなく大人でも面食らうだろう。というよりも武を嗜んでいなければ、仮に目で追えたとしても身体が反応できなかったはず。
 しかしまだ子供とはいえ沖長もまた古武術に身を置く者。それに加え、その洞察力に関しては他の追随を許さないほど鋭いものを持っている。故に、こちらを掴もうとしてきた雪風の両手をさらりと回避して距離を取った。

「!? ……避けられた?」

 どうやら今の一連の攻撃で模擬戦を終わらせようとしていた様子の雪風。だからか回避をした沖長を睨みつけるような視線を向けながらぼやいていた。

(ナクルよりも小さいし、多分スピードタイプだと思ってたけど、当たってたみたいだな)

 ナクルもどちらかというとスピードタイプだ。だから普段の組手でもナクルを相手にしている沖長は、こういった手合いには慣れているのである。

(掴もうとしてきたってことは柔術系なんだろうな)

 正直いって彼女が学んでいる武の詳細は知らないが、武器や打撃などが主体の日ノ部流とは違うことを瞬時に察した。

「……少し手加減が過ぎたようです。次で……終わらせますから」

 明らかに表情が先ほどよりも厳しくなる雪風。それに対し沖長は苦笑を浮かべながら答える。

「あーお手柔らかに、な?」
「……本当に覇気のない……行きます」

 するとまたも電光石火な動きを見せてきた。今度は蛇行しながらの肉迫である。無駄な動きにしか見えないが、確かにこれだけの速度で動かれれば翻弄されてしまうかもしれない。しかし沖長にはちゃんと彼女の動きが見えている。

 瞬く間に沖長の右側に陣取った雪風は、そのまま沖長の右手首を両手で掴んだ。そして彼女にとってはこれまで相手してきた者たち同様に、軽く捻って地面に倒すつもりだったはず。
 だが沖長は掴まれたと同時に自ら腕を素早く捻って、雪風の握力から逃れると、逆に雪風の右手首を掴んでやった。

「ほい、捕まえた」
「!? な、何で……っ!?」

 信じられないという面持ちで固まる雪風。勝負の最中にその反応は本来なら説教ものではあるが、叱らず丁寧に説明したのは蔦絵だった。

「何をされたか分からないようね。簡単よ。沖長くんは、あなたが完全に掴む前に手首を拘束で捻り、その勢いで逃れたのよ。そしてその流れであなたの手首を逆に掴んだ。これは合気技の一種。あなたなら理解できるでしょう、すでに柳守流柔術の中伝を治めて奥伝に手が届くと言われている雪風さんなら」
「!? ……雪が……合気で返され……た? ――くっ!?」

 愕然とした表情をした雪風だったが、歯を食いしばったと思うと、先ほどの沖長が見せたような腕を捻って拘束から抜け出してその場から距離を取った。

「こら、沖長くん。簡単に外しちゃダメじゃない」
「あ、いやその……すみません蔦絵さん」

 相手が小さい女の子ということもあり、全力で掴んでいなかったことが相手を自由にさせた要因だった。模擬戦である以上は真剣にやらないといけないこともありお叱りを受けてしまった。

(とはいっても少しは力を入れてたんだけど……やっぱナクルと一緒で普通じゃないよなぁ。さすがだよ。さすがは――――原作のメインキャラの一人だ)

 そう、彼女――柳守雪風もまたナクルと同様に原作キャラの一人。しかも彼女もまた勇者として描かれる。原作を則れば、いまだ勇者として覚醒してはいないはずだが、それでも現時点でも同年代の子供たちと比べても明らかに秀でた力を有していた。

(確かこの子、原作じゃナクルと模擬戦するんだよな。そんでナクルの力に惹かれてお姉さま呼びするとか)

 ナクルはお姉さまという柄ではないが、それまで強過ぎて孤独だった雪風にとっては、ナクルの強さは魅力的過ぎたらしい。その輝きに魅せられ慕うようになるのだ。

(それなのに何でこうなっちゃうかなぁ……)

 チラリとナクルを見るが、彼女は満面の笑みで沖長を応援している。できれば立場を変えてほしいと思うが、これも自分の存在が引き起こしたイレギュラーだと判断し項垂れてしまう。

「…………分かりました。もう油断はしません。次こそは、あなたを懲らしめてみせます」
「懲らしめるって……俺、鬼じゃないんだけどな」

 ただ今度こそマジのようで、空気が一瞬にして変わりピリつく。雪風からも隙が見当たらず、徐々にオーラも膨れ上がっていく。

「あ、あのバカ、オーラまで使い始めちゃった」

 頭を抱えながらそう口にしたのは雪風の父である陣一だった。どうやらこの程度の模擬戦でオーラを使うまでもないと思っていたようだ。いや、そもそもオーラを使っていない相手《沖長》に対しオーラを使用するのはマズイと考えていたのかもしれない。

 しかし雪風の小さな身体から流れ出るオーラは力強く、さすがに沖長も表情を引き締めるに至る。

「――柳守流柔術継承者・柳守雪風。――参ります」

 刹那、雪風の踏み込みと同時に大地に亀裂が走る。一瞬にしてトップスピードへと至った雪風の動きは、それまでのものとは一線を画していた。恐らく彼女は今度こそ沖長は、反応すらできずに成すがままになると思っていただろう。
 しかしながらその動きを生んでいるオーラが、フッと掻き消えてしまう。そのせいで元の動きに戻ると同時、弱体化を悟った雪風は動揺し動きが鈍る。

「――――悪いな」

 そんな沖長の言葉と同時に、雪風の小さな身体はクルリと一回転して、そっと地面に横たわった。ほとんど衝撃はなかったので痛みはなかったはず。
 だがその現象に衝撃を受けたようで、雪風は目を見開いたまま身動きせずにジッとしていた。
 現場でただ一人、何が起きたのかすべてを知っているのは沖長だけ。

 端的に言うと、雪風のオーラを《アイテムボックス》に回収したということ。どうやらオーラを使うのは禁じ手みたいな雰囲気だったために、悪いと思いながらもそのオーラを回収させてもらったのだ。

 そして雪風が隙を見せたところをついて、空気投げの一種で彼女の身体を投げた。もちろん怪我をさせないように気は使ったが。いくら真剣にだからといっても、固い地面の上に自分よりも年下の女子を叩きつけるなんてできないので。
 完全な騙し討ちみたいになったが、何はともあれ、これで……。

「――そこまで! 勝者は、札月沖長!」

 蔦絵の宣言で模擬戦は終了となった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界召喚はもう勘弁してください。~五度目の異世界召喚は国の再興からスタートです~

山椒
ファンタジー
今まさに召喚されようとしている男子高校生、星宮勇輝はただの男子高校生ではない。 一度ならず四度異世界召喚を経験している男子高校生であった。 四度も四つの世界を救い、ようやく落ち着けると思ったところで五度目の異世界召喚が行われた。 五度目の異世界召喚を受け異世界召喚されることが常識になりつつあった勇輝であったが、勇輝を呼び出した国は闇の者によって崩壊していた国であった。 世界を救わなければならず、国も復興しなければいけない状況であった。 だが勇輝は異世界召喚ごとにステータスを持ち越していたためそれができる存在であった。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

処理中です...