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飢えた牙
9 守る
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家に帰ってからは白衣と緋袴に着替えて、お宮参りの儀式を手伝った。
終わってリビングに入ると、善はカーペットの上で寝転がっていた。
夜のために温存しているのだろうか?
それとも、動けないほど力が弱まっているのだろうか。不安がふつふつと湧いてくる。
善の肩を叩き、口元に手を添えて善の耳に顔を寄せる。
善はあからさまに嫌そうな顔をしたが、構わず小声で話しかけた。
食事の準備をしている千代には聞かれたくない。
結衣が狙われているなんて知られたら、卒倒してしまうだろう。
「ねえ、体調悪いの? 夜に戦える?」
「気になるなら、少しでも祈れ」
結衣は目の前にいる善ではなく、神棚に向かって手を合わせた。
祈る先は同じだけれど、善に直接手を合わせるのは癪だった。
(善が元気になりますように)
善がふっと声を漏らして笑った。
結衣は怪訝に思い、そちらに目を向ける。
「意外と可愛いところもあるのだな。今のはいつもの心のこもっていない祈りと違った」
結衣の顔にカッと熱が集まる。
善には祈ったことが伝わってしまうことを忘れていた。
結衣は恥ずかしさに耐えるよう、真っ赤な顔で下唇を噛んだ。
「あら、楽しそうね」
千代が昼食をテーブルに運びながら微笑む。
「結衣と善様は全然甘い雰囲気にならないから心配していたけれど、ラブラブね」
千代がポッと頬を染める。
善と結衣は半目でお互いに目を向けた。
否定したいけれど、できないのがもどかしい。
結衣は口角を無理矢理上げて頷いた。
「そう、私たちラブラブなの」
結衣は善と手でハートを作ろうとするのに対し、善は親指を立ててグッドサインを作る。
千代がすかさずスマホをかざして写真を撮った。
「どっかで見たことあるポーズね。なんだったかしら?」
千代が首を傾ける。
アイドルとオタクで見るやつだ、と結衣は呆気に取られるけれど、自分がオタク側だったことに頭を抱える。
善のことなんて全く好きじゃないのに。
「……っていうか、善って写真に映るの?」
「神社の敷地内ならな」
善は小さく頷いた。
「素敵に撮れてるわよ」
千代が印籠のようにスマホを結衣に向ける。
腹の立つほど整った顔が写っていた。
結衣は手をパンと叩いて、顔を輝かせる。
「ねえ、ホームページに善の写真を載せればいいんじゃない? そうしたら参拝者が増えて、善にも力が戻ると思うの」
名案が浮かんで、得意げにうんうんと頷く。
善は結衣に聞こえるように、わざと盛大なため息を吐いた。
「なに? なんかおかしなこと言った?」
結衣はムッとして口を尖らす。
「俺が本殿にこもっていた理由を忘れたか? また殺傷事件を起こしたいのか?」
結衣は思いっきり首を振って、肩を落とした。
「結衣、お昼ご飯の準備ができたから、おじいさんを呼んできてちょうだい」
テーブルには親子丼と味噌汁が並んでいて、食べて欲しそうに湯気が手招きしているように見えた。
口の中に唾液が溢れ、ゴクリと飲み込む。
「わかった。すぐに呼んでくる」
結衣は家を飛び出した。拝殿の前で宗一郎を見つける。
「おじいちゃん、ご飯だよ」
「ああ、わかった。……結衣」
宗一郎が柔らかな表情を引っ込めて、硬い声で結衣を呼ぶ。
結衣は「なに?」と恐々と聞いた。
普段温厚な宗一郎が、こんな声を出すのが珍しくて体がこわばる。
怒られるようなことはしていないはずだ、と記憶を遡る。
「結衣のことは、絶対にじいちゃんが守るからな」
結衣は目を瞬かせた。
結衣はヴァンパイアに狙われていることを、祖父母に知られたくなかった。心配をかけたくなくて。
「……善に聞いたの?」
宗一郎は瞼を下ろして首を振る。ゆっくりと目を開き、眉を下げて笑った。
「結衣の様子が気になってね。家族だからわかるよ。なにがあったかは知らないけれど、善様だけじゃなく、じいちゃんだって結衣を守りたい。もちろん、ばあさんだってそう思っているよ」
結衣は先ほどのことを思い出す。
千代は無理をして、明るく振る舞っていたのかもしれない。結衣を気遣って。
結衣の視界が滲む。手の甲で目を拭った。
「心配かけたくないから話さなかった」
「わかっているよ。結衣はじいちゃんとばあさんが好きだからね。でもな、私たちも結衣が大好きなんだ。理由がわからなくてもわかっても心配はする」
結衣は鼻を啜って頷いた。
「まずはご飯を食べよ。ご飯が冷めちゃう。その後に話を聞いて」
「ああ、ばあさんの作るご飯は美味しいからね。冷めてはもったいない」
「だよね。私、おばあちゃんの作るご飯が一番好き」
結衣は宗一郎と肩を並べて、境内を歩いた。
結衣は祖父母が大好きだ。二人を悲しませることは絶対にしたくない。
善がヴァンパイアを倒すためなら、なんだってやってやる! と意気込む。
恐怖がなくなることはない。
それでも祖父母がついていると思えば、とても心強かった。
終わってリビングに入ると、善はカーペットの上で寝転がっていた。
夜のために温存しているのだろうか?
それとも、動けないほど力が弱まっているのだろうか。不安がふつふつと湧いてくる。
善の肩を叩き、口元に手を添えて善の耳に顔を寄せる。
善はあからさまに嫌そうな顔をしたが、構わず小声で話しかけた。
食事の準備をしている千代には聞かれたくない。
結衣が狙われているなんて知られたら、卒倒してしまうだろう。
「ねえ、体調悪いの? 夜に戦える?」
「気になるなら、少しでも祈れ」
結衣は目の前にいる善ではなく、神棚に向かって手を合わせた。
祈る先は同じだけれど、善に直接手を合わせるのは癪だった。
(善が元気になりますように)
善がふっと声を漏らして笑った。
結衣は怪訝に思い、そちらに目を向ける。
「意外と可愛いところもあるのだな。今のはいつもの心のこもっていない祈りと違った」
結衣の顔にカッと熱が集まる。
善には祈ったことが伝わってしまうことを忘れていた。
結衣は恥ずかしさに耐えるよう、真っ赤な顔で下唇を噛んだ。
「あら、楽しそうね」
千代が昼食をテーブルに運びながら微笑む。
「結衣と善様は全然甘い雰囲気にならないから心配していたけれど、ラブラブね」
千代がポッと頬を染める。
善と結衣は半目でお互いに目を向けた。
否定したいけれど、できないのがもどかしい。
結衣は口角を無理矢理上げて頷いた。
「そう、私たちラブラブなの」
結衣は善と手でハートを作ろうとするのに対し、善は親指を立ててグッドサインを作る。
千代がすかさずスマホをかざして写真を撮った。
「どっかで見たことあるポーズね。なんだったかしら?」
千代が首を傾ける。
アイドルとオタクで見るやつだ、と結衣は呆気に取られるけれど、自分がオタク側だったことに頭を抱える。
善のことなんて全く好きじゃないのに。
「……っていうか、善って写真に映るの?」
「神社の敷地内ならな」
善は小さく頷いた。
「素敵に撮れてるわよ」
千代が印籠のようにスマホを結衣に向ける。
腹の立つほど整った顔が写っていた。
結衣は手をパンと叩いて、顔を輝かせる。
「ねえ、ホームページに善の写真を載せればいいんじゃない? そうしたら参拝者が増えて、善にも力が戻ると思うの」
名案が浮かんで、得意げにうんうんと頷く。
善は結衣に聞こえるように、わざと盛大なため息を吐いた。
「なに? なんかおかしなこと言った?」
結衣はムッとして口を尖らす。
「俺が本殿にこもっていた理由を忘れたか? また殺傷事件を起こしたいのか?」
結衣は思いっきり首を振って、肩を落とした。
「結衣、お昼ご飯の準備ができたから、おじいさんを呼んできてちょうだい」
テーブルには親子丼と味噌汁が並んでいて、食べて欲しそうに湯気が手招きしているように見えた。
口の中に唾液が溢れ、ゴクリと飲み込む。
「わかった。すぐに呼んでくる」
結衣は家を飛び出した。拝殿の前で宗一郎を見つける。
「おじいちゃん、ご飯だよ」
「ああ、わかった。……結衣」
宗一郎が柔らかな表情を引っ込めて、硬い声で結衣を呼ぶ。
結衣は「なに?」と恐々と聞いた。
普段温厚な宗一郎が、こんな声を出すのが珍しくて体がこわばる。
怒られるようなことはしていないはずだ、と記憶を遡る。
「結衣のことは、絶対にじいちゃんが守るからな」
結衣は目を瞬かせた。
結衣はヴァンパイアに狙われていることを、祖父母に知られたくなかった。心配をかけたくなくて。
「……善に聞いたの?」
宗一郎は瞼を下ろして首を振る。ゆっくりと目を開き、眉を下げて笑った。
「結衣の様子が気になってね。家族だからわかるよ。なにがあったかは知らないけれど、善様だけじゃなく、じいちゃんだって結衣を守りたい。もちろん、ばあさんだってそう思っているよ」
結衣は先ほどのことを思い出す。
千代は無理をして、明るく振る舞っていたのかもしれない。結衣を気遣って。
結衣の視界が滲む。手の甲で目を拭った。
「心配かけたくないから話さなかった」
「わかっているよ。結衣はじいちゃんとばあさんが好きだからね。でもな、私たちも結衣が大好きなんだ。理由がわからなくてもわかっても心配はする」
結衣は鼻を啜って頷いた。
「まずはご飯を食べよ。ご飯が冷めちゃう。その後に話を聞いて」
「ああ、ばあさんの作るご飯は美味しいからね。冷めてはもったいない」
「だよね。私、おばあちゃんの作るご飯が一番好き」
結衣は宗一郎と肩を並べて、境内を歩いた。
結衣は祖父母が大好きだ。二人を悲しませることは絶対にしたくない。
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