傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

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心の光

24 千代?

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 金曜日はいつも通り学校へ行った。
 授業が終わり、自転車に乗って家に向かっていると、千代を見かけた。

 結衣は近付いて「買い物?」と声をかけ、自転車から降りた。
 千代は突然声をかけられて目を丸くしていたが、結衣だとわかり表情を和ませる。

「結衣、おかえり。早かったわね」

 今度は結衣が目を見開く番だ。
 千代に結衣と呼ばれた。記憶が戻ったのか、と結衣は嬉しくて千代に抱きつく。
 支えを失った自転車が、大きな音を響かせて倒れた。

 結衣と千代はその音に首をすくめる。抱きつきながら顔を見合わせて笑った。
 結衣は自転車を起こし、手で押しながら、千代と並んで歩く。

「おばあちゃんはどこにいくの?」
「商店街で買い物をしようと思って。でもその前に、せっかく結衣と会ったんだし、月見庵つきみあんへクリームあんみつを食べに行こうか」
「行きたい」

 月見庵は商店街にある和カフェで、その中でもクリームあんみつは結衣と千代のお気に入りのメニューだ。

 本当に記憶が戻ったんだ、と結衣は感極まって涙を浮かべる。すぐに拭って、「楽しみだね」と千代と笑った。




 月見庵はテーブルの席と、畳の小上がりの席とで分かれている。結衣と千代は奥にある畳の席を選んだ。靴を脱いで、ふかふかの座布団の上に座る。

 クリームあんみつを二つと、千代はほうじ茶、結衣は抹茶ラテを注文した。

「ねえ、旅行のことを聞かせてよ。楽しかったんでしょ?」
「旅行?」

 千代は首を傾けた。
 結衣のことは思い出したけれど、忘れていた間の記憶がなくなってしまったのだろうか。

 結衣が不安に思っていると、千代は「ああ、旅行ね」と手をパチンと叩いて頷いた。
 若干の違和感はあったけれど、覚えているようでホッとする。

「ちょっと待っていて。お手洗いに行ってくるわね」

 千代が席を立ち、結衣はスマホを取り出した。
 宗一郎からは連絡が来ていない。千代の記憶が戻ったなら、すぐに連絡をくれるはずなのにおかしい。結衣は首を捻ってスマホをしまう。

 しばらくすると「お待たせしました」と店員が元気な声をあげ、クリームあんみつとドリンクをテーブルに並べた。
 結衣は「いただきます」と手を合わせて、クリームあんみつを頬張る。

 寒天のつるんとした食感と甘めの粒あんを、ソフトクリームが優しく包み込む。スプーンに乗り切らなかった白玉も、急いで口に含んだ。幸せな味が口の中に広がる。
 半分ほど食べ、戻ってこない千代が心配になった。

「おばあちゃん、お腹が痛いのかな?」

 席を立ってお手洗いに行くと、使用者はいなかった。

「え? おばあちゃんはどこに行ったの?」

 店内を見渡してもおらず、結衣は店員に声をかけた。

「お連れ様なら、すぐに戻るからと言って出て行かれましたよ」
「出て行った?」

 店員が「はい」と不安そうに頷く。
 結衣はフラフラとしながら、自分の席に戻った。

 スマホを見ても、千代から連絡はない。電話をかけてみるが、コール音が鳴るだけで繋がらない。
 結衣は溶けかけのソフトクリームを、大きな口を開けて食べた。

「どうしよう」

 結衣は財布の中身を確認したが、千円しか入っていなくて途方に暮れる。
 理由はわからないが、結衣に言わなかったということは、千代は戻ってこないのかもしれない。

 結衣は千代の分のクリームあんみつも完食した。
 泣きそうになりながら宗一郎に電話をかける。

『もしもし、どうした?』

 宗一郎の声に、結衣はホッと息をついた。

「おじいちゃん、助けて!」
『今どこにいる? なにがあった?』

 宗一郎の声が硬く張り詰めたものになった。

「おばあちゃんと月見庵に入ったんだけど、おばあちゃんがいなくなっちゃって。お金が足りなくて、お店から出られないの」

 理由を話せば、しばらく沈黙が続く。

「おじいちゃん?」

 結衣が呼びかけると、宗一郎から信じられない言葉が続く。

『ばあさんはずっと家にいるから、結衣と月見庵になんて行けるはずがない』

 結衣の背筋からヒヤリとした空気が広がって、体が震えた。

『とりあえず、すぐに迎えに行くから。もう少し待っていなさい』

 通話が切れて、結衣の手からスマホが落ちる。畳の上でゴトリと音が鳴った。結衣は拾うこともせずに呆然としていた。
 千代じゃないなら、結衣はだれと一緒にいたのだろう。

 結衣の名前を呼び、千代との共通の好物まで知っている。
 千代に抱きついた時のことが、頭の中をよぎった。

 千代と同じ見た目の、別のなにかに抱きついた。結衣は身震いして、庇うように自分の体を抱いた。
 冷房がキツいわけではないのに、震えが止まらない。
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