傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

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心の光

25 お守りの効果

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 15分後に宗一郎が店にやってきて、支払いを済ませると結衣は店を出た。

「大丈夫か?」

 顔色の悪い結衣を心配して、宗一郎が声をかける。
 結衣は微かに頷いた。

「大丈夫。でも、本当におばあちゃんはずっと家にいたの?」
「ああ、それは間違いない。善様とリビングでテレビを見ていたから」
「なにがあったかは善様と一緒に聞くから、まずは帰ろうか」

 結衣は自転車を押しながら、宗一郎と家に向かった。




 家に帰ると千代は夕食の準備をしていた。
 リビングで寝転がる善が起き上がり、結衣と宗一郎は善の近くに腰を下ろす。

「千代の中では宗一郎の存在が大きいはずだ。なぜ結衣に接触してきたんだ?」

 宗一郎を囮にするという作戦は破綻した。
 結衣は声を顰め、善と宗一郎にことのあらましを話した。
 善は腕を組み、大きく息を吐き出した。

「ドッペルゲンガーか……」
「ドッペルゲンガーって、自分のそっくりさんで、出会うと不幸になるってやつだよね?」

 それがどうして千代の記憶を奪うのか、結衣にはわからなかった。

「ドッペルゲンガーは弱い。結衣のお守りが効きすぎて、宗一郎を諦めて結衣に近付いたのかもしれない」

 善は失敗した、と額を押さえる。

「でも私から話しかけたんだよ」
「結衣の記憶があるんだ。帰宅時間や通る道なんかは知っているはずだ」
「じゃあどうしてすぐにいなくなったの?」
「自分の知らない話を聞かれて、バレる前に逃げたのだろう」

 記憶を奪った後の出来事は知らないらしい。

「善様、なぜ千代の記憶が奪われたのでしょうか?」

 黙っていた宗一郎は、背筋を伸ばして善に問いかける。なんでも受け止める、と覚悟を決めたような顔だった。
 善も真剣な面持ちになった。

「結衣と宗一郎の記憶を消し、千代の心を弱らせて吸収して千代に成り代わろうとしたのだろう」

 結衣の喉がヒュッと鳴る。

「成り代わる?」
「ああ、出会うと不幸になるというのは、あながち間違いではない。本人は成り代わられ、周りの人間はそうとも知らずに生活を続ける」

 別の存在を千代だと思いながら、いつも通り暮らしていくことを想像して背筋が凍る。

「そんなの絶対に嫌!」
「ああ、わかっている。結衣、もう一つお守りを作れ。効力があるとわかったのだから、自分でもっていろ」
「うん、わかった」

 結衣が大きく頷くと、善は宗一郎に目を向ける。

「宗一郎はもっているお守りを千代に渡せ」
「承知いたしました」

 宗一郎は立ち上がってキッチンへ向かい、すぐに戻ってきた。お守りを渡したようだ。

「ねぇ、それじゃあ、おじいちゃんが危ないんじゃないの?」
「初めから宗一郎を囮にすると言ってあっただろう。安心しろ。ドッペルゲンガーは力の弱った俺でも祓える。見つけるのが大変だから、宗一郎のところに来るようにおびき寄せるんだ」

 結衣は宗一郎に不安気な目を向ける。宗一郎は安心させるように穏やかな表情で頷いた。

「わかった。私はお守りを作るのを頑張る」
「それと結衣にはもう一つ仕事をやる」

 結衣は善にキョトンとした目を向けた。
 そしてすぐに身を乗り出す。

「なに? 私にもおじいちゃんを助けるお手伝いができるの?」
「宗一郎のことは俺に任せておけ。結衣は千代が出て行こうという気すら起こさせないように、もっと千代の懐に入り込め」

 宗一郎に惹かれて、千代はこの家を出て行こうとした。結衣への気持ちを大きくすることで、千代をここに引き留めようということらしい。

「任せて。おばあちゃんに甘えるのは得意だから」

 結衣が胸を張って叩くと、善は「結衣にしかできないことだから頼んだ」とよく見ないと見逃していたかもしれないほど微かに頭を下げた。
 結衣は目をまん丸に見開いて固まった。

「お夕飯ができましたよ」

 キッチンから料理を運ぶ千代が、柔らかい声をかける。
 結衣はハッと我に返って立ち上がった。

「手伝うよ」
「ありがとう」

 千代と結衣はキッチンに入った。味噌汁を千代がよそい、結衣はお盆に乗せて配膳した。
 その後もご飯とサラダと肉じゃがを運ぶ。
 全てがテーブルに並ぶと、全員揃って手を合わせて食べ始める。

 肉じゃがはほくほくのじゃがいもと柔らかい肉に甘辛い煮汁が染み込んでいて、結衣の大好きな味だった。

「美味しい!」

 頬骨を上げて笑うと、千代も同じ顔で笑った。
 美味しい夕飯を完食してお風呂に入ると、結衣は自室に向かう。

 お守りを作るのに、桜柄のちりめんを選んだ。
 裁縫道具を用意して、はたと気付く。

「そういえば、自分に作ったお守りって効果なかったよな」

 よく効くと評判にも関わらず、結衣には恋愛成就のお守りを持っていても叶ったことがない。
 結衣は道具を持って、善の部屋の扉を叩いた。

「善、入ってもいい?」
「ああ」

 気怠そうな返事があった。
 結衣が開けると、善はベッドから起き上がるところだった。本当によく寝転がっている。千代の祈りが弱まっているせいだろう。

 結衣は少しでも善が楽になるように、両手を合わせて瞼を下ろした。

(善が私にお守りを作ってくれますように)

 目を開けると、心底嫌そうに口を引き攣らせる善がいた。

「なんで俺がそんなことをしなければいけないんだ」
「だって、私には効かないんだもん。私が恋愛成就のお守り、今まで何個持っていたと思ってるの?」

 片手では足りないほど持っていた。一向に恋の気配すらやってこなかった。

「だから善が作ってよ」

 結衣は作り方を説明して、針に糸を通す。

「じゃあ、頼んだから」

 善の返事を待たずに部屋に戻った。
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