傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

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結衣の気持ち

29 優しい彼氏への憧れ

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 夏休みが始まってすぐ、結衣は友達と遊びに行く約束をしていた。
 ノースリーブTシャツにショート丈のシアーシャツを羽織り、ショートパンツを履いた。

 リビングに行くと宗一郎が「足を出しすぎじゃないか?」と苦言を漏らした。

「普通だって。暑いし、みんなこんな格好だよ」

 結衣は千代の用意した朝食を食べる。

「善様だって、そう思いませんか?」

 宗一郎に聞かれて、善は興味なさそうに結衣に目を向けた。
 結衣は食事をしながら、耳をそば立てる。

「好みではない」

 抑揚のない声が聞こえて、結衣は少しだけ胸がチクリと痛んだ。
 そういえば出会った時に大和撫子になって出直してこいと言われた。善の好みはそういう女性なのかもしれない。

 俯きかけて、結衣は無理矢理顔を上げる。なんで善の好みを気にしなければいけないのか。
 結衣は朝食をかっ込む。

「ちゃんと噛んで食べなさい」

 千代に注意されるが、結衣は一気に食べ切った。

「ごちそうさま!」

 手を大きくパチンと鳴らし、声も張った。食器をシンクに置いてリビングを出ようとすると、善に「結衣」と呼び止められた。

「なによ。今日は友達と遊びに行くんだから、私の好きな格好でいいでしょ。善と出かける時には、もう少し清楚な格好をするし」

 結衣の声は尻すぼみになり、善は眉をひそめてわずかに頭を傾ける。

「結衣の格好なんてどうでもいい。出かける前に祈れ」

 結衣は羞恥で顔を真っ赤にして、神棚に手を合わせた。

(善のバカ! 少しくらい気にしくれても良いのに、乙女心が全くわかっていない。デリカシーもない。そんな善にちょっとでも期待しちゃった私が一番ありえない!)

 結衣は両手を下ろす。

「おい、なにも祈っていないだろう。全く伝わってこなかった」
「でも言いたいことは言ったもん」

 頬を膨らませて、プイッと顔を背ける。
 リビングを出て扉を閉めると、千代が「善様、彼女にそんなことを言ってはいけませんよ」と優しく諭していた。

 善との恋人設定にげんなりする。
 早く本物の彼氏を作れば良いんだ、と意気込んだ。
 そうすれば、善の言葉で掻き乱されることも無くなるはずだ。




 自転車に乗って、学校の近くのファミレスに向かう。
 待ち合わせをしていた美咲、莉子、沙苗はすでに揃っていて、結衣が一番最後だった。

「遅くなってごめん」

 自転車を停めながら謝る。

「時間通りだよ」

 時計に目を向けると、待ち合わせ時間ぴったりだった。
 結衣はみんなの格好に目を向ける。ミニスカート、クロップド丈のトップス、ミニ丈ワンピース、と結衣が肌を出しすぎているというわけではない。
 やっぱり普通だ、と結衣は善と宗一郎に言ってやりたかった。

 店に入ると、四人掛けのボックス席に案内される。
 軽食とドリンクバーを注文して、みんなでドリンクを取りに行く。
 席に着くと、正面に座る美咲が身を乗り出した。

「ねぇ、前話した、歌を歌っている綺麗な人のことを覚えてる?」

 ローレライのことだ。美咲の兄がローレライに「あなたじゃない」と言われたのを聞いて、結衣はローレライに興味を持ったことを思い出した。

「えっと、おばあちゃんが知り合いの人に聞いたんだけど、最近はいないみたい」

 河童と引っ越したとは言えず、結衣はしどろもどろに答える。

「そうなんだね、兄貴には縁がなかったってことか」

 美咲は肩をすくめた。

「あっ、お兄さんに、結衣の恋愛成就のお守りをあげたら?」

 莉子が手をパチンと叩いて提案する。

「それいい! 実は私、彼氏ができたんだよね。結衣のお守りがきっかけで」

 沙苗の発言に結衣たちは「えー!」と叫び、慌てて手で口を覆った。あまり騒いでは、お店の迷惑になる。
 全員が顔を寄せ合って、声を顰める。

「どういうこと? ってか、うちら女子校じゃん。どこで出会うの?」

 洗いざらい話してもらおうか、と美咲が隣の沙苗にもたれかかる。
 沙苗は照れ笑いを浮かべて、押し返した。

「塾が一緒の子なんだ。結衣のお守りをカバンにつけてたら、『綺麗だね、どこの?』って聞かれて、結衣の神社に一緒に行ったんだよ」
「待って! それ、私は知らないよ」
「その時はまだいいなって思っているだけだったから。お守りを買う時に結衣が対応してたら、友達って紹介してたかもしれないけど」
「おばあちゃんが対応したの?」

 沙苗は首を振った。

「違うよ。若めの男の人。マスクで顔が半分隠れてたけど、ものすごく綺麗な男の人だったと思う! 結衣にも出会いあるじゃん!」

 全員の目が結衣に集まる。話の矛先は結衣になった。

「結衣にもいい人がいるの?」
「羨ましい!」

 莉子と美咲に詰め寄られ、結衣は首と手を勢いよく振った。

「そんなんじゃないって! 顔はいいかもしれないけど、性格が全然ダメ! 今日だって私の服を見て『好みじゃない』なんてはっきり言うんだよ」

 思い出して腹が立ち、結衣は口をへの字に曲げる。

「でもなんとも思ってない人に言われても、そんなに怒らなくない?」

 揶揄う気満々の表情で莉子が言う。
 結衣は言葉に詰まってしまった。

「……まぁ、そうなのかな? 本当に腹の立つことばかりだけど、ごく稀に優しい時もあるんだよね」

 結衣の蚊の鳴くような声に、三人は即座に反応した。

「少女漫画でよくある、不良が猫を拾ってキュンとする感じ?」
「私、そのシチュエーション大好き!」
「ツンツンしてるのに、自分にだけ甘くなるのがたまらないよね」

 キャイキャイと話に花を咲かせるが、結衣は素直に頷けない。どちらかというと、結衣にだけキツイ。善が千代や宗一郎に暴言を吐くことはない。

「でもやっぱり優しい彼氏がいい。そんな彼氏が欲しい」

 結衣が背もたれに背を預けて天井を仰ぎ見ると、三人はピタリと口をつぐんだ。
 結衣も気が強いし、性格が合わないと悟ってか、三人は結衣に向かって合掌した。




 ファミレスを出た後は学校から一番近い沙苗の家に移動して、ひたすらおしゃべりで盛り上がった。
 話していると時間が過ぎるのはあっという間で、夕方になると別れを告げて家に帰る。

「楽しかった」

 結衣は自転車を漕ぎながら、独り言を漏らす。
 ウキウキとした沙苗の顔を思い出し、結衣は絶対に優しい彼氏を作る、と張り切った。
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