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穢れた獣
35 異種族共同戦線
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リビングにいる千代と宗一郎に事情を話して家を出た。不安そうに送り出してくれた二人の顔が脳裏に焼き付く。
結衣はポケットに手を入れて、お守りに触れた。善が作ってくれた、大切なお守りだ。
このお守りがあるから大丈夫、と結衣は自分に言い聞かせる。
善が結衣の前で片膝をつき、右手を掴んだ。反対の腕は結衣の足の間に入れて右の太ももを掴む。結衣を肩に乗せると、善は立ち上がった。
「キャー、かっちゃんってば力持ち」
ローレライが河童の頬を人差し指でチョンと触れる。
「ライちゃんは羽のように軽いよ」
河童はデレっと顔を緩めた。
ローレライは河童に横抱きにされている。河童の首にしがみついて、顔を寄せ合い幸せそうだ。二人が纏う空気も甘ったるい。
結衣はローレライとの運ばれ方の差に落胆した。
結衣がこっそりとため息を吐くと、善が「どうした?」と結衣を気にかける。
「あのさ、もうちょっと運び方に配慮して欲しいなって」
「これが一番安定するだろう」
「そうなのかもしれないけど……」
語尾は小さくなる。
「まさか、俺にアレをやれというのか?」
善がローレライたちの方へ体を向ける。まだイチャついていた。
結衣の顔に熱が集まる。
「そ、そんなこと言ってないじゃん!」
動揺しながら叫ぶと、善は「そうだよな」とあからさまにホッとする。
「あの抱え方では、結衣の体重で俺の腕がやられる」
「私、太ってないし! 下ろして」
「バカ! 暴れるな」
腕と足をバタつかせるが、善に押さえられてびくともしない。
「太ってるなんて言っていないだろう。背が高ければ、その分体重も増えるのは当たり前だ」
「それならもう少し言い方に気をつけなさいよ」
結衣が叫ぶと、善は「うるさい」と不機嫌な声を出す。
「河童、行くぞ。ついてこい」
善の声が響いたかと思うと、一瞬で景色が消えた。すごいスピードで、体が後ろに引っ張られるようだ。耳元で風が嵐のように唸りを上げる。
さらに加速して、街並みがあっという間に過去のものになった。
背後から、風を切り裂く音が追いかけてくる。河童が善と同じ速さで地面を蹴って駆ける。
結衣は恐怖で目を覆って、奥歯を噛み締めて耐え続けた。
しばらくして速度が落ち、結衣は恐る恐る目を開ける。
周囲には鬱蒼とした木々が立ち並ぶ。ローレライたちが住む山の中だった。
善はゆっくりと結衣を地面に下ろした。
結衣は足場の悪さと移動時の恐怖でふらつき、善の腕にしがみつく。
「結衣、大丈夫?」
ローレライが河童の腕から抜け出し、軽やかに着地して結衣に問いかける。
「あっ、うん。大丈夫だよ」
ローレライに笑いかけると、善が結衣の手を握った。
「穢れの臭いが濃い。この先にいるはずだ。結衣、いけるか?」
「うん、任せて」
結衣は口を引き結んで頷いた。
善は耳栓をした。ローレライがいつ歌ってもいいように。
「結衣は俺が手を離したら、ローレライのそばにいろ」
結衣は「わかった」と口にしながら、善の目の前で親指と人差し指の先をくっつけて、OKサインを出す。
「奴は人を惑わすような言葉を話すほどの知性がある。言葉を交わす間も与えずに祓いたい」
結衣はそれにもOKサインで返し、気を引き締める。
慎重に山の中を進んでいき、滝壺に出た。
巨大な獣が水浴びをしている。
人間の男性のような顔には鋭い牙が並び、ライオンのような体躯は筋肉で盛り上がっている。尾の先にはサソリのような毒針がついており、それがゾッとさせるような禍々しい雰囲気を放っていた。マンティコアだ。
結衣の喉がヒィッと引き攣る。
善は一度ギュッと繋いだ手を握ると、離れていった。安心させようとしてくれたのだろうか。
結衣には善の姿が見えなくなった。すぐにローレライにピッタリと寄り添う。
マンティコアがこちらに目を向けた。前足を曲げて頭を低くすると、水を蹴ってこちらに飛びかかってきた。
ローレライが深く息を吸い込み、澄んだ歌声を響かせる。優しくて温かい、魅力的な歌声だ。初めて会った時のような、悲しい歌声はもう感じられない。
歌声が響き渡った瞬間、マンティコアは動きを止めた。酩酊したように、焦点が合っていない。ローレライの歌が効いている。
結衣は手を合わせた。
(善、お願い! ローレライの歌が効いているから、尾をなんとかして)
結衣の祈りに呼応したように、マンティコアの尾が不自然に捻る。
河童が滝壺に向かって走った。
マンティコアの尾は、輪のような形を作ると先端を中心に入れて結ばれた。あれでは尾を振り回すことはできない。
マンティコアが正気に戻り、鋭い爪を剥き出しにした前足で空を切る。あそこに善がいるのだろう。
善が惹きつけ、河童がマンティコアの尾を掴んで滝壺に引き摺り込んだ。
ローレライが歌うのをやめる。
「ねぇ、今、どうなってるの?」
結衣には滝壺の中でのことはわからない。不安でローレライに聞けば、ローレライは滝壺を凝視しながら口を開く。
「かっちゃんがマンティコアを背後から羽交締めにして抑え込んでる」
結衣は慌てて手を合わせた。
(善、今だよ。祓って)
「善が滝壺に飛び込んだよ」
ローレライが教えてくれるが、しばらく待っても、以前ヴァンパイアを祓った時のような光が見えない。
結衣はポケットに手を入れて、お守りに触れた。善が作ってくれた、大切なお守りだ。
このお守りがあるから大丈夫、と結衣は自分に言い聞かせる。
善が結衣の前で片膝をつき、右手を掴んだ。反対の腕は結衣の足の間に入れて右の太ももを掴む。結衣を肩に乗せると、善は立ち上がった。
「キャー、かっちゃんってば力持ち」
ローレライが河童の頬を人差し指でチョンと触れる。
「ライちゃんは羽のように軽いよ」
河童はデレっと顔を緩めた。
ローレライは河童に横抱きにされている。河童の首にしがみついて、顔を寄せ合い幸せそうだ。二人が纏う空気も甘ったるい。
結衣はローレライとの運ばれ方の差に落胆した。
結衣がこっそりとため息を吐くと、善が「どうした?」と結衣を気にかける。
「あのさ、もうちょっと運び方に配慮して欲しいなって」
「これが一番安定するだろう」
「そうなのかもしれないけど……」
語尾は小さくなる。
「まさか、俺にアレをやれというのか?」
善がローレライたちの方へ体を向ける。まだイチャついていた。
結衣の顔に熱が集まる。
「そ、そんなこと言ってないじゃん!」
動揺しながら叫ぶと、善は「そうだよな」とあからさまにホッとする。
「あの抱え方では、結衣の体重で俺の腕がやられる」
「私、太ってないし! 下ろして」
「バカ! 暴れるな」
腕と足をバタつかせるが、善に押さえられてびくともしない。
「太ってるなんて言っていないだろう。背が高ければ、その分体重も増えるのは当たり前だ」
「それならもう少し言い方に気をつけなさいよ」
結衣が叫ぶと、善は「うるさい」と不機嫌な声を出す。
「河童、行くぞ。ついてこい」
善の声が響いたかと思うと、一瞬で景色が消えた。すごいスピードで、体が後ろに引っ張られるようだ。耳元で風が嵐のように唸りを上げる。
さらに加速して、街並みがあっという間に過去のものになった。
背後から、風を切り裂く音が追いかけてくる。河童が善と同じ速さで地面を蹴って駆ける。
結衣は恐怖で目を覆って、奥歯を噛み締めて耐え続けた。
しばらくして速度が落ち、結衣は恐る恐る目を開ける。
周囲には鬱蒼とした木々が立ち並ぶ。ローレライたちが住む山の中だった。
善はゆっくりと結衣を地面に下ろした。
結衣は足場の悪さと移動時の恐怖でふらつき、善の腕にしがみつく。
「結衣、大丈夫?」
ローレライが河童の腕から抜け出し、軽やかに着地して結衣に問いかける。
「あっ、うん。大丈夫だよ」
ローレライに笑いかけると、善が結衣の手を握った。
「穢れの臭いが濃い。この先にいるはずだ。結衣、いけるか?」
「うん、任せて」
結衣は口を引き結んで頷いた。
善は耳栓をした。ローレライがいつ歌ってもいいように。
「結衣は俺が手を離したら、ローレライのそばにいろ」
結衣は「わかった」と口にしながら、善の目の前で親指と人差し指の先をくっつけて、OKサインを出す。
「奴は人を惑わすような言葉を話すほどの知性がある。言葉を交わす間も与えずに祓いたい」
結衣はそれにもOKサインで返し、気を引き締める。
慎重に山の中を進んでいき、滝壺に出た。
巨大な獣が水浴びをしている。
人間の男性のような顔には鋭い牙が並び、ライオンのような体躯は筋肉で盛り上がっている。尾の先にはサソリのような毒針がついており、それがゾッとさせるような禍々しい雰囲気を放っていた。マンティコアだ。
結衣の喉がヒィッと引き攣る。
善は一度ギュッと繋いだ手を握ると、離れていった。安心させようとしてくれたのだろうか。
結衣には善の姿が見えなくなった。すぐにローレライにピッタリと寄り添う。
マンティコアがこちらに目を向けた。前足を曲げて頭を低くすると、水を蹴ってこちらに飛びかかってきた。
ローレライが深く息を吸い込み、澄んだ歌声を響かせる。優しくて温かい、魅力的な歌声だ。初めて会った時のような、悲しい歌声はもう感じられない。
歌声が響き渡った瞬間、マンティコアは動きを止めた。酩酊したように、焦点が合っていない。ローレライの歌が効いている。
結衣は手を合わせた。
(善、お願い! ローレライの歌が効いているから、尾をなんとかして)
結衣の祈りに呼応したように、マンティコアの尾が不自然に捻る。
河童が滝壺に向かって走った。
マンティコアの尾は、輪のような形を作ると先端を中心に入れて結ばれた。あれでは尾を振り回すことはできない。
マンティコアが正気に戻り、鋭い爪を剥き出しにした前足で空を切る。あそこに善がいるのだろう。
善が惹きつけ、河童がマンティコアの尾を掴んで滝壺に引き摺り込んだ。
ローレライが歌うのをやめる。
「ねぇ、今、どうなってるの?」
結衣には滝壺の中でのことはわからない。不安でローレライに聞けば、ローレライは滝壺を凝視しながら口を開く。
「かっちゃんがマンティコアを背後から羽交締めにして抑え込んでる」
結衣は慌てて手を合わせた。
(善、今だよ。祓って)
「善が滝壺に飛び込んだよ」
ローレライが教えてくれるが、しばらく待っても、以前ヴァンパイアを祓った時のような光が見えない。
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