39 / 45
神隠し
39 神隠しの犯人
しおりを挟む
夏休みも残り一週間という頃、結衣は夜中に目を覚ました。
意識はあるのに、体が動かなくてパニックに陥る。視線を忙しなく動かした。結衣の乱れた呼吸音だけが部屋に響く。
結衣は一度瞼を下ろす。落ち着くために深呼吸をした。
金縛りは心霊現象ではなく、睡眠障害の一種だ。数十秒したら動くようになる。
結衣は体が動くようになるのをジッと待った。かなり時間が経ったように思うが、一向に動かせるようにならない。
徐々に不安感に襲われる。
その時、ガチャンと小さな音が聞こえた。結衣は目を開ける。小さな軋みと共に、冷房で冷やされた部屋に温風が流れてきた。
窓の鍵が開く音だったようだ。
結衣は目を大きく見開く。この部屋には結衣しかいない。誰が窓を開けた?
首は動かず、目だけを必死に窓へ向ける。
コツコツ部屋を歩く足音が聞こえた。ベッドの傍に立って結衣を見下ろすのは、長い鼻が特徴的な修験者だった。天狗だと認識した時に、結衣は意識を失った。
顔に日差しが掛かり、眩しくて目を覚ました。カーテンを閉め忘れたのだろうか、と目を擦りながら起き上がる。
瞼を開けると、部屋の中は家具などなにもない、丸太を組み合わせて建てられた殺風景な部屋だった。
屋根が高いだけではなく、窓も通常より上にあり、扉はうんと大きい。
結衣は夜中のことを思い出す。身震いして自分の体を抱いた。
「う……ん」
すぐ近くで声がして、結衣は飛び上がるほど驚く。叫び出しそうになるのを、両手で口を押さえて耐えた。
ゴワゴワとした敷物の上で寝ていた結衣の傍らで、ゴソゴソと動くものがあった。結衣は恐る恐る体に掛けられたタオルケットを捲った。
小学生くらいの女の子が唸りながら寝返りを打つ。
今までいなくなっていた子たちも、天狗の仕業だったのだろうか。
この子を連れてどうやって逃げようか、と結衣考え、女の子を起こさないように慎重に窓に近付いた。窓枠に手を引っ掛けて、背伸びをする。
外は木々が生い茂り、ここがどこなのかも結衣にはわからなかった。
寝巻きのポケットに手を入れる。なめらかで柔らかい布に触れた。それを掴んで取り出す。善が作ったお守りだ。
元々雑に縫われていたが、結衣が肌身離さず持っているからほつれて大きな穴が空いている。
結衣はそれをギュッと握りしめた。一人ではない、と不安が広がっている心を奮い立たせる。善に守られているような心地になった。
大事にポケットにしまい、反対のポケットに触れて大きくため息を吐いた。
「そんな都合よくはいかないよね」
結衣が本来探していたのはスマホだ。スマホは枕元で充電をしていた。持っているものはお守りだけで、これではここがどこなのかを調べることもできない。
扉の外からカッカッと音が近付いてきて、扉の前で止まった。結衣は唾を飲み込んで身構える。
扉の蝶番が軋む音を響かせながら開いた。
天狗は一本歯下駄を履いているのに、軸がブレることなく女の子の元まで歩くと、ジッと見下ろした。
「起きろ」
しゃがれた低い声がズシリと響く。
女の子はパッと起き上がると、すぐに部屋を出ていった。
結衣は天狗と二人っきりになって身を竦める。
天狗が結衣に体を向けた。
「わたしの手足となれ」
「え?」
結衣は言っている意味がわからなくて聞き返す。
「弱った善様ではなく、わたしに付け」
「善のことを知っているの?」
「わたしに付け」
繰り返された言葉に結衣は小さく首を振った。
「そんなのできるわけないじゃん。ってか、さっきの子は?」
結衣は部屋を出て行った女の子が気になった。
「修行をしている。お前もわたしに付いて、修行をしろ。神通力を得てわたしの力となれ」
神通力は人地を超えた不思議な力のことだよな、と結衣は首を捻る。善の言う神力と同じものだろうか?
結衣は修行をしたら、善の役に立つのではないかと考えた。
「私、修行したい!」
天狗は踵を返して部屋を出ていく。結衣は慌てて追いかけた。
「ねえ、さっきの子を帰らせてあげて」
「素質がなければ帰す」
外に出ると、夏の不快な暑さにも関わらず、清らかな空気が漂っているように思えた。
蝉の合唱ではなく、囁くような鳥の囀りが聞こえてくる。
初めて見る景色のはずなのに、なぜか安心できて落ち着く場所だ。
結衣は天狗の後ろを小走りでついていく。天狗は歩くのが速く、歩幅も大きくて、結衣が普通に歩いては差が開くばかりだ。
意識はあるのに、体が動かなくてパニックに陥る。視線を忙しなく動かした。結衣の乱れた呼吸音だけが部屋に響く。
結衣は一度瞼を下ろす。落ち着くために深呼吸をした。
金縛りは心霊現象ではなく、睡眠障害の一種だ。数十秒したら動くようになる。
結衣は体が動くようになるのをジッと待った。かなり時間が経ったように思うが、一向に動かせるようにならない。
徐々に不安感に襲われる。
その時、ガチャンと小さな音が聞こえた。結衣は目を開ける。小さな軋みと共に、冷房で冷やされた部屋に温風が流れてきた。
窓の鍵が開く音だったようだ。
結衣は目を大きく見開く。この部屋には結衣しかいない。誰が窓を開けた?
首は動かず、目だけを必死に窓へ向ける。
コツコツ部屋を歩く足音が聞こえた。ベッドの傍に立って結衣を見下ろすのは、長い鼻が特徴的な修験者だった。天狗だと認識した時に、結衣は意識を失った。
顔に日差しが掛かり、眩しくて目を覚ました。カーテンを閉め忘れたのだろうか、と目を擦りながら起き上がる。
瞼を開けると、部屋の中は家具などなにもない、丸太を組み合わせて建てられた殺風景な部屋だった。
屋根が高いだけではなく、窓も通常より上にあり、扉はうんと大きい。
結衣は夜中のことを思い出す。身震いして自分の体を抱いた。
「う……ん」
すぐ近くで声がして、結衣は飛び上がるほど驚く。叫び出しそうになるのを、両手で口を押さえて耐えた。
ゴワゴワとした敷物の上で寝ていた結衣の傍らで、ゴソゴソと動くものがあった。結衣は恐る恐る体に掛けられたタオルケットを捲った。
小学生くらいの女の子が唸りながら寝返りを打つ。
今までいなくなっていた子たちも、天狗の仕業だったのだろうか。
この子を連れてどうやって逃げようか、と結衣考え、女の子を起こさないように慎重に窓に近付いた。窓枠に手を引っ掛けて、背伸びをする。
外は木々が生い茂り、ここがどこなのかも結衣にはわからなかった。
寝巻きのポケットに手を入れる。なめらかで柔らかい布に触れた。それを掴んで取り出す。善が作ったお守りだ。
元々雑に縫われていたが、結衣が肌身離さず持っているからほつれて大きな穴が空いている。
結衣はそれをギュッと握りしめた。一人ではない、と不安が広がっている心を奮い立たせる。善に守られているような心地になった。
大事にポケットにしまい、反対のポケットに触れて大きくため息を吐いた。
「そんな都合よくはいかないよね」
結衣が本来探していたのはスマホだ。スマホは枕元で充電をしていた。持っているものはお守りだけで、これではここがどこなのかを調べることもできない。
扉の外からカッカッと音が近付いてきて、扉の前で止まった。結衣は唾を飲み込んで身構える。
扉の蝶番が軋む音を響かせながら開いた。
天狗は一本歯下駄を履いているのに、軸がブレることなく女の子の元まで歩くと、ジッと見下ろした。
「起きろ」
しゃがれた低い声がズシリと響く。
女の子はパッと起き上がると、すぐに部屋を出ていった。
結衣は天狗と二人っきりになって身を竦める。
天狗が結衣に体を向けた。
「わたしの手足となれ」
「え?」
結衣は言っている意味がわからなくて聞き返す。
「弱った善様ではなく、わたしに付け」
「善のことを知っているの?」
「わたしに付け」
繰り返された言葉に結衣は小さく首を振った。
「そんなのできるわけないじゃん。ってか、さっきの子は?」
結衣は部屋を出て行った女の子が気になった。
「修行をしている。お前もわたしに付いて、修行をしろ。神通力を得てわたしの力となれ」
神通力は人地を超えた不思議な力のことだよな、と結衣は首を捻る。善の言う神力と同じものだろうか?
結衣は修行をしたら、善の役に立つのではないかと考えた。
「私、修行したい!」
天狗は踵を返して部屋を出ていく。結衣は慌てて追いかけた。
「ねえ、さっきの子を帰らせてあげて」
「素質がなければ帰す」
外に出ると、夏の不快な暑さにも関わらず、清らかな空気が漂っているように思えた。
蝉の合唱ではなく、囁くような鳥の囀りが聞こえてくる。
初めて見る景色のはずなのに、なぜか安心できて落ち着く場所だ。
結衣は天狗の後ろを小走りでついていく。天狗は歩くのが速く、歩幅も大きくて、結衣が普通に歩いては差が開くばかりだ。
0
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜
高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀!
片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。
貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。
しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。
利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。
二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー?
曄琳の運命やいかに!
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
後宮の隠れ薬師は闇夜を照らす
絹乃
キャラ文芸
12月26日よりコミカライズ開始。
旧題:後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる