傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

文字の大きさ
43 / 45
神隠し

43 一緒にいたい

しおりを挟む
「結衣!」

 空から善の声が聞こえて、結衣は上に目を向けた。
 善が空から降ってきて、足音もなく軽やかに着地する。結衣は驚いて身を捩り、尻もちをついた。
 善は結衣と目線を合わせるようにしゃがみ込む。

「善、なんで見えるの?」

 触れてもいないのに、善の姿が見える。
 修行でパワーアップしたから見えるようになったのか、と結衣は顔を輝かせた。一日修行しただけですごい、と自画自賛する。

「なにを言っている。ここは鎮守の杜だ」
「え? うちの神社ってこと?」
「ああ、だから見えて当たり前だ」

 結衣は早とちりをして、恥ずかしさから頬を染めた。
 一日で成果があったら苦労なんてしないか、と項垂れる。
 そしてすぐにハッとして口を開いた。

「でも、鎮守の杜とは違うよ。私だって入ったことあるし」
「幻術で景色が変わっているだけだ」

 結衣は口をポカンと開けて、辺りを見渡した。

「怪我をしているな」
「うん、天狗を追いかけてたら、こけちゃって」

 善に手を差し出され、結衣は目をパチクリとしてその手を凝視した。
 善は眉間に皺を深く刻み、結衣の手を掴んで引っ張り立たせる。その拍子に前に倒れそうになり、善の胸に顔を埋めた。
 咄嗟に飛び退く。熱くなった頬に触れた。

「結界を破るのに時間がかかった。助けに来るのが遅くなって悪かった」
「ううん、全然気にしないで」

 結衣は両手と首を目一杯振る。

「あっ、それより善は大丈夫なの?」
「なにが?」
「弱ってるんでしょ?」
「結衣が祈ればいい」

 善の目が尖り、結衣の背後を睨みつける。善から発せられるピリピリとした空気に身がすくんだ。
 恐る恐る振り返ると、天狗が立っていた。

「どういうつもりだ?」

 善の声に木々が震えた。結衣も肩を跳ねさせる。
 善は結衣を庇うように、一歩前に出て結衣を背中に隠した。

「この地に弱い神はいりません。善様を倒してわたしが神になります」

 天狗は目を細めて口角を上げた。

「そうではなく、なぜ結衣を攫った」
「その娘は神通力がありますから。修行をさせて、わたしの駒にしようと思いました。子供にやらせても、見込みのない者ばかりでして。……ですが、どうやら善様の弱点のようですね。そんなに取り乱した善様は初めて見ます」

 天狗の言葉に、結衣は俯いた。

「私は善の弱点なの?」
「そんなことはない!」

 善が振り返ってすぐに否定する。
 結衣は下唇を噛んで顔を上げると、キッと天狗を睨みつける。

「あったまきた! 善は弱くないし、私だってお荷物じゃないって証明してやる!」

 天狗に指を突きつけた。善が口に手を当てて、くつくつと笑いを堪える。

「なに笑ってんのよ」
「いや、頼もしいなと思って」

 善は手を下ろすと、微かに口元が緩んでいた。

「善と私で天狗を倒すよ」
「ああ」

 結衣は両手を合わせた。

「善様、貴方を倒します」
「できるものか」

 善と天狗が足を踏み出し衝突する。衝撃音に怯みそうになるけれど、結衣は歯を食いしばって二人に目を向ける。

(善、勝って。お願い!)

 結衣が祈り、善が加速したように見えた。
 善が天狗を蹴り、空を切る音が響くが天狗は難なく手で受け止めて善の顔に拳を叩き込む。すんでのところで善は避けたが、天狗の方が余裕がありそうだ。

 地面や空で縦横無尽に繰り広げられる戦いに、結衣は視線を走らせて目で追うのがやっとだった。

「アメコミ映画を見てるみたい」

 無意識に漏れた声に、我に返る。
 ひときわ大きな音が轟き、善が吹き飛ばされた。木に背中を打ちつけて、顔を歪めながら立ち上がる。

「善!」

 結衣は駆け寄って善を支える。

「危ないから離れていろ」

 善は結衣を手で後ろに下げる。

「善様、弱すぎます」

 天狗の声は憂いを帯びていた。
 善は「そうだな」と漏らして、大きく息を吐き出した。

「結衣、天狗は今の俺より強い。俺を勝たせてくれ」

 善の背中を結衣は見つめる。
 善が倒されたら、天狗が神になる? そうしたら善はいなくなってしまう。
 滲む瞳を拭って、奥歯を噛み締めた。

「私が絶対に善を助ける!」

 結衣は再び手を合わせて瞳を閉じた。

(善を助けたい。いなくならないで。善とずっと一緒にいたい)

 ありったけの気持ちを込めて祈っていると、ドンッと爆発音のようなものがして結衣は驚き目を開ける。

 木々が倒れ、天狗が地に臥していた。善は倒れている天狗の胸ぐらを掴む。天狗は咳き込みながら「お見事です」と漏らした。
 天狗は善に手を外させると、膝をついて頭を下げてひれ伏す。

「……お前は俺を試したのか?」
「善様が弱いままなら倒そうと思っておりました。そのために子供に神通力を覚えさせて、わたしのために動く駒にしようとしたのは本当です」
「結衣は?」
「その娘は善様の力になる存在。力をつけさせて善様が強くなるなら、と修行をさせました」

 善は大きく息を吐き、しゃがみ込む。

「結衣の怪我を治せ」
「かしこまりました」

 天狗は顔を上げると、結衣の元までふらつきながら歩いてきた。
 天狗が結衣に手をかざす。結衣は白い光に包まれて、傷は跡形もなく消えた。

「ありがと。ねえ、本当は善のことを倒そうとなんて思っていなかったんでしょ?」
「いや、弱った善様なら全力で潰そうと思っていた。わたしの一番優先するものは、この地だからだ。弱い神はいらない」

 天狗はずっと『弱った善様』と言っていた。この土地を守れるくらい強ければ、善が神で不満はないのだろう。
 ドサッと音がして、善が倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

後宮の隠れ薬師は闇夜を照らす

絹乃
キャラ文芸
12月26日よりコミカライズ開始。 旧題:後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~ 陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

処理中です...