19 / 28
閑話(エルネスト)
しおりを挟む
アリシアに喜ばれるものは何だろう、とずっと考えている。
色々と用意してみたが、反応はよく無かった。
アリシアとは未だ会えていないから実際喜んでくれているのかは分からないが、侍女は受け取る度に微妙な顔をしている。
「おにーさん、なにしてるの?」
通りかかった店のガラスに飾られている巨大な熊が妙に目立っていて思わず見ていれば、足元から舌っ足らずな声が聞こえた。 視線を向ければ、幼子がこちらを見上げている。丸い瞳はキラキラと輝いていて、真っ直ぐこちらを見つめるその顔に、幼い日のアリシアを思い出した。
「女性への贈り物を探しているんだ」
しゃがみこんで目線を合わせてやれば、幼子はさらにキラキラと目を輝かせた。
「おめひめさま!?」
「お姫様、か……。まあ、そうかもしれないな」
姫、と言うならば王族がその頂点だが、貴族の令嬢と言えばその家の姫と言える。一般的に貴族令嬢と言えば高貴な存在で、アリシアもそれに含まれる筈だ。
幼い子供の憧れと言えばお姫様だ、というのは大抵どこでも変わらない。騎士として巡回をする中で子供と関わることは少なくないが、やはりお姫様という存在は不動の人気があるらしい。
アリシアはいつも騎士の話をしていたが、マリーアンジュ様は子供たちの理想を壊さないようにするのも大変だとボヤいていたことがある。
「それならね、さーしゃしってるよ! おひめさまへのぷれぜんとはね、そのくまさんがいいとおもう!!」
サーシャ、というのが名前だろうか。びしり、と短い指が指し示すのは、先程から気になっていた巨大な熊のぬいぐるみだった。この大きさでは怖いのではないか、と考えていたがそうでは無いらしい。ぬいぐるみはどんな大きさでも可愛いのか。
「これがいいのか?」
「うん!おんなのこはみんなだいすきだもん! あとねあとね、ほうせきもいるの! いちばんおおきくてきらきらしてるやつだよ!」
キラキラして大きいやつ、か。なるほど、それなら分かりやすい、と宝石店を思い浮かべる。
子供とはいえ、女性であることに違いはない。参考にしよう。
「あのね、あのね、さーしゃはね、おーじさまをまってるんだけどね」
目の前の少女は俺を見つめたまま、喋り続けた。
俺は愛想がいい方ではないから、初対面の女性には警戒されることが多い。騎士服を来ていない時は尚更。
だが、この無邪気な幼女にはそんなことはどうでもいいことのようだった。
子供好きではないが、嫌いな訳でもない。
黙っていても喋り続けそうだが、一応相槌を入れてみる。
「あぁ」
「でもね、きしさまもかっこいいんでしょ」
騎士様、という言葉に思わず反応してしまう。
この少女のように、アリシアの憧れていた騎士に、俺は結局なれなかったんだろうな。
騎士として忠誠を誓う主君に命を懸けてここまで来たが、結局アリシアを傷つけて、そのことにすら気づけなかった。それはもう騎士とは言えないだろう。
「そう思うのか?」
「きらきらしたおじょーさまがそういってた!」
キラキラしたお嬢様。どこかの貴族令嬢と話したのか、夢の中か絵本の話なのか、子供の話はよく分からない。
「そうか」
その後も支離滅裂に何かを話し続けていた子供は、母親らしい女性に呼ばれて駆けていった。
――ねぇ、もっと見せて――
瞳を輝かせて、大して面白くもないだろう素振りを見たいと強請る、そんな幼い頃のアリシアを思い出す。
物を強請られた記憶は無いが、先程の少女がアリシアに重なって、まるで幼いアリシアにぬいぐるみと宝石を強請られたような、そんな気分になってしまった。
宝石店で一際目立つ大きなブローチを買ってから巨大な熊のぬいぐるみを指させば、店主に怪訝な顔をされた。本当に買うのか、という問いにすぐさま是と答える。たしかにこの大きさだ、買う人間はなかなかいないのだろう。だからこその店主の微妙な反応なのだとは理解したが、それでも買い手がつかないとも言いきれない。
ぬいぐるみの首元にブローチを付けてもらい、贈り物用にと丸ごと包んでもらった。首元に大きなリボンを付けることを提案されたが、せっかくならばアリシアの驚く顔が見たかったから外から見えない物がいい。
巨大な包みはそれだけで目を引く。
今回も俺はアリシアに会えないのだろうなとは思うが、見えない所ででも驚いて喜んでくれたらいい。幼いアリシアの笑顔と今のアリシアの笑顔が俺の中で重なって思い浮かぶ。
早く、会いに行こう。
***
「何ですか、それ」
開口一番、侍女は嫌そうに言い放った。俺の持ってきた大きな包みを上から下まで眺めて、僅かに後ろに下がりながら。
「アリシアへのプレゼントだ」
「それは分かってます。そういう意味ではなくて……。中身はなんですか」
「今度こそ、喜んで貰えると思うから、渡してもらえないか」
「渡しますけど……。本当にこれをアリシア様に?」
巨大な袋を抱えた比較的小柄な彼女は、完全に見えなくなってしまった。中身を知っている俺には熊が喋っているような、そんな錯覚さえ覚える。
毎度、文句を言われている気がするが、今回は俺だけの意見ではない。今度こそ、と侍女の背中を見送った。
俺は、もう一度その笑顔を向けて欲しい。
屋敷を振り返って、俺は今日もどこかの窓にアリシアの姿が見えないかと探した。
色々と用意してみたが、反応はよく無かった。
アリシアとは未だ会えていないから実際喜んでくれているのかは分からないが、侍女は受け取る度に微妙な顔をしている。
「おにーさん、なにしてるの?」
通りかかった店のガラスに飾られている巨大な熊が妙に目立っていて思わず見ていれば、足元から舌っ足らずな声が聞こえた。 視線を向ければ、幼子がこちらを見上げている。丸い瞳はキラキラと輝いていて、真っ直ぐこちらを見つめるその顔に、幼い日のアリシアを思い出した。
「女性への贈り物を探しているんだ」
しゃがみこんで目線を合わせてやれば、幼子はさらにキラキラと目を輝かせた。
「おめひめさま!?」
「お姫様、か……。まあ、そうかもしれないな」
姫、と言うならば王族がその頂点だが、貴族の令嬢と言えばその家の姫と言える。一般的に貴族令嬢と言えば高貴な存在で、アリシアもそれに含まれる筈だ。
幼い子供の憧れと言えばお姫様だ、というのは大抵どこでも変わらない。騎士として巡回をする中で子供と関わることは少なくないが、やはりお姫様という存在は不動の人気があるらしい。
アリシアはいつも騎士の話をしていたが、マリーアンジュ様は子供たちの理想を壊さないようにするのも大変だとボヤいていたことがある。
「それならね、さーしゃしってるよ! おひめさまへのぷれぜんとはね、そのくまさんがいいとおもう!!」
サーシャ、というのが名前だろうか。びしり、と短い指が指し示すのは、先程から気になっていた巨大な熊のぬいぐるみだった。この大きさでは怖いのではないか、と考えていたがそうでは無いらしい。ぬいぐるみはどんな大きさでも可愛いのか。
「これがいいのか?」
「うん!おんなのこはみんなだいすきだもん! あとねあとね、ほうせきもいるの! いちばんおおきくてきらきらしてるやつだよ!」
キラキラして大きいやつ、か。なるほど、それなら分かりやすい、と宝石店を思い浮かべる。
子供とはいえ、女性であることに違いはない。参考にしよう。
「あのね、あのね、さーしゃはね、おーじさまをまってるんだけどね」
目の前の少女は俺を見つめたまま、喋り続けた。
俺は愛想がいい方ではないから、初対面の女性には警戒されることが多い。騎士服を来ていない時は尚更。
だが、この無邪気な幼女にはそんなことはどうでもいいことのようだった。
子供好きではないが、嫌いな訳でもない。
黙っていても喋り続けそうだが、一応相槌を入れてみる。
「あぁ」
「でもね、きしさまもかっこいいんでしょ」
騎士様、という言葉に思わず反応してしまう。
この少女のように、アリシアの憧れていた騎士に、俺は結局なれなかったんだろうな。
騎士として忠誠を誓う主君に命を懸けてここまで来たが、結局アリシアを傷つけて、そのことにすら気づけなかった。それはもう騎士とは言えないだろう。
「そう思うのか?」
「きらきらしたおじょーさまがそういってた!」
キラキラしたお嬢様。どこかの貴族令嬢と話したのか、夢の中か絵本の話なのか、子供の話はよく分からない。
「そうか」
その後も支離滅裂に何かを話し続けていた子供は、母親らしい女性に呼ばれて駆けていった。
――ねぇ、もっと見せて――
瞳を輝かせて、大して面白くもないだろう素振りを見たいと強請る、そんな幼い頃のアリシアを思い出す。
物を強請られた記憶は無いが、先程の少女がアリシアに重なって、まるで幼いアリシアにぬいぐるみと宝石を強請られたような、そんな気分になってしまった。
宝石店で一際目立つ大きなブローチを買ってから巨大な熊のぬいぐるみを指させば、店主に怪訝な顔をされた。本当に買うのか、という問いにすぐさま是と答える。たしかにこの大きさだ、買う人間はなかなかいないのだろう。だからこその店主の微妙な反応なのだとは理解したが、それでも買い手がつかないとも言いきれない。
ぬいぐるみの首元にブローチを付けてもらい、贈り物用にと丸ごと包んでもらった。首元に大きなリボンを付けることを提案されたが、せっかくならばアリシアの驚く顔が見たかったから外から見えない物がいい。
巨大な包みはそれだけで目を引く。
今回も俺はアリシアに会えないのだろうなとは思うが、見えない所ででも驚いて喜んでくれたらいい。幼いアリシアの笑顔と今のアリシアの笑顔が俺の中で重なって思い浮かぶ。
早く、会いに行こう。
***
「何ですか、それ」
開口一番、侍女は嫌そうに言い放った。俺の持ってきた大きな包みを上から下まで眺めて、僅かに後ろに下がりながら。
「アリシアへのプレゼントだ」
「それは分かってます。そういう意味ではなくて……。中身はなんですか」
「今度こそ、喜んで貰えると思うから、渡してもらえないか」
「渡しますけど……。本当にこれをアリシア様に?」
巨大な袋を抱えた比較的小柄な彼女は、完全に見えなくなってしまった。中身を知っている俺には熊が喋っているような、そんな錯覚さえ覚える。
毎度、文句を言われている気がするが、今回は俺だけの意見ではない。今度こそ、と侍女の背中を見送った。
俺は、もう一度その笑顔を向けて欲しい。
屋敷を振り返って、俺は今日もどこかの窓にアリシアの姿が見えないかと探した。
1,109
あなたにおすすめの小説
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
※短編連作
※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる