恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

最終話 抑鬱

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 午後の二時半に目が覚めた。最近よく眠る。今日は週に一度の診察の日だというのに、体は起き上がらない。うだうだとしていると三時になり、三時半になり、四時になったところで慌ててシャワーを浴び、病院へ向かった。待ち時間は一時間程で呼ばれた。
「なんだかんだと眠れてますよ」
「ベルソムラいいじゃん! じゃあ薬はそのままね」
「はい」
「それより今後どうする?」
「どうしましょうかねぇ」
「まあ俺としたら、生きててくれりゃそれでいいんだけど」と主治医は少し笑った。「どっか通う?」
「そうっすねぇ……」
「友達も減ったしなぁ?」
「そうなんすよ……」
 欝々とした気分のまま、診察と薬局が終わった。今日の夜中に保護費が振り込まれるというのに、気分は晴れない。最後の金でechoを買い、吸いながら家に帰った。
 ひたすら音楽を聞いて時間を潰し、腹が減っているのを水と煙草で紛らわせ、夜中の十一時四十分になったところで、様々な支払い用紙を持ってコンビニへ行った。なぜか緊張していた。本当に金は振り込まれているのだろうか、振り込まれているとしたらまず何をしようか……。十二時過ぎまで立ち読みで時間を潰し、ATMに行きカードを入れると、……金が無事に入っていた! 全額引き出して支払いを済ませ、久しぶりのハイライト・メンソールを買い、吸いながら平和島駅へ向かった。GEOで物色し、近くにあるすき家に入ってネギトロ丼を食べ、再度GEOへ行って、キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャーと、スター・ウォーズエピソードⅤを借り、またもやコンビニへ寄ってイチゴミルクを買って家に帰った。
 イチゴ・ミルクを飲みながら、キャプテン・アメリカを観た。とても面白かった。続けてスター・ウォーズを観ようとしたが、いつの間にか眠っていた。

 インター・フォンで起こされた。いつもより睡眠時間が少ないせいか、起きているのか眠っているのかわけのわからない状態で、せっかく久しぶりに真理さんが来たというのに、ろくな会話もせずに終わってしまった。もっと雑談したかった。
 欝々とした気分は晴れることはなかった。楽しみにしていた漫画を数冊買い、それを読んで、気分は少し上がったのに、その内一冊は既にもう買ってあったのに気づいてまた下がった。気分を上げるために何か美味しいものを食べようと思い、病院の近所にあるラーメン屋に行った。以前友人が、「ここはあまり美味しくない」と言っていたので期待せずに食べると、普通に美味しかった。魚介醤油ベースであっさりとしていて、沢山入った二種類のネギがいいアクセントになっている。それで七百円。高くも安くもない。また来ようと思った。大きな収穫。
 夕方にいつものコンビニで弁当を買うと、二十歳前後ぐらいの女の店員が笑顔でもって、「いつもありがとうございます」と言ったので、少しときめいた。そして薬を飲んで終わった。

 昔の彼女からのツイートが一日十件近く来ることにうんざりしたので、ブロックしてやった。そもそもが、僕を舐めている。なんのために七年以上ぶりに連絡をしてきたんだ?
 しかし、当の僕は人生を舐めている。精神病、生活保護、引きこもり、ニート、低身長、低学歴、喫煙者、アルコール中毒、つむじ禿という完全に終わった人間が、何をとち狂ったのか、仕事で来る訪問看護師に惚れ、こうやってうだうだと何十枚にも渡る日記兼ストーカーじみたものを書き殴り、金が入ったからとこうやって発泡酒片手に愚痴をぶちまけ、薬を飲んで寝る。同じことの繰り返しだ。それでいて、将来は作家になるだなんていう夢を、恥ずかしげもなく二十年近く抱き、今に至る。ゴミ以下の存在だ。

 生きている理由がわからない。
 かと言って、死ぬのも嫌だ。
 なにをやってるんだろう。

 そんなことをいくら考えたって、答えは出ない。答えが出ない内は生きていていいのでなないだろうか、と思う。
 ぼんやりと考えながらツイッターを見ていると、オススメ・ユーザー欄に、昔の彼女の娘が出ていたので、何気なくクリックした。僕と十二歳離れているので、今年で十八歳か。最後に会ったのは十二歳頃だと記憶している。写真がアップされていたので見ると、自撮りだった。当然だが、大人の顔つきになっている。彼氏が云々、というツイートがあったので、そうかぁ……ま、そうだよなぁ……と、子供の成長に驚かされ、納得させられた。もう関係のないことなのでどうでもいいが、あのまま付き合っていたら、三十にして十八歳の娘がいるのか、と思うと苦笑いが込み上がってきた。
 薬を飲んで、眠気を待つ……が、一時になってもなかなか眠りにつくことができない。しかたがないいので、村上春樹の、職業としての小説家という自伝的エッセイを半分まで読む。これは図書館で借りたもので、そういえばそろそろ返却期日が来るような気がする。一息付けて煙草を吸い、適当に音楽を流す。そうして、一日は終わる。

 夜の八時にチャイムが鳴り、出てみると宗教家の人だった。「お母さんが心配してるから、今度の座談会に出てみない?」とのことだった。適当に話を合わせてお帰りいただいた。

 その日は、何となく酒でも呑もうかと、スーパーでビールを買い求め、家に帰ると、友人であるLが玄関の前に立っていた。友人と会うのは久しぶりだった。僕は記憶がなくなっているので、なくなる前に自分が友人たちに酷いことをしたのではないだろうか、という被害妄想に苛まされていたが、Lは、「そんなことないよ」と言ってくれた。気持ちがよくなったので、その日は大いに酔っぱらった。

 一度金曜日に、気の強そうな看護師が来て以降、金曜日にはちゃんと真理さんが来るようになった。そのおかげで一つわかったことがある。僕が病人として生き続ける限り、金曜日には真理さんが訪問してくる。そして、僕はそれだけを楽しみに生き続ける。真理さんとお付き合いをしたいだとか、それどころか今まで以上に仲良くなりたいだとか、そういった思いを完全に頭から消した。別に真理さんに彼氏ができても――現時点でいたとしても――金曜日にはいつもの真理さんとして僕の部屋に訪問に来るから、それを僕の幸せにしよう。

 そして僕は、三十歳になった。
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